Fuji Rock Festival'02 Day 1-Vol.5 Patti Smith







フジロックの会場が苗場に移って4年目になるが、フィールド・オブ・ヘヴンだけは私にとっては縁の遠いステージだった。だいたい、4つもあるステージを満遍なく楽しんできた人など、今までにいたのだろうか。ここまで手を広げるなら、少しでも縮小してコストダウンした方がいいのにと思っていた。去年までは。しかし今年は、少し意味合いが変わった。あのパティ・スミスが、ヘヴンでの出演を希望したのだ。


そして夜のヘヴンは、驚くほどに神秘的な空間だった。ステージ向かって右後方に吊るされているミラーボールの光が、敷地を取り囲むように茂っている木々に反射していた。とても綺麗だった。そしてオーディオ・アクティヴに替わって急遽出演が決まったストロボは、この神秘的な空間を存分に生かした素晴らしいライヴをした。私が観たのはラスト10分程度だったが、もっと早くヘヴンに来ればよかったと、少し後悔した。





それから約1時間待った。長いような短いような、不思議な待ち時間だった。まばらだった場内に、少しずつ人が集まってくるのがわかった。ステージに目を向けると、サウンドチェックの中にレニー・ケイもいて、自ら音合わせをしていた。そうしているうちに、ついにライヴが始まるときが来た。


パティを含め、メンバーが登場。レニーに、ドラムのJ・D・ドーハティ、ベースのトニー・シャナハン・・・。ん、1人足りない。オリバー・レイという若いギタリストがいたはずなのだが、ここに彼はいない(オリバーはパティと恋仲にあったはずだが、まさか・・・。いや、これ以上は思うまい)。とにかく、去年のフジロックの感動のステージ以来、1年ぶりの日本でのライヴが始まった。テンポを落とした『Dancing Barefoot』で。ステージ前方には、去年のニール・ヤングのときのようなキャンドルがあって、その炎は妖しく光っていた。





歌い終わるとパティはステージの前の方に歩み寄り、ゆっくりと場内を眺める。その目に映るは、天空に光る星々か、森に囲まれた神秘的な空間か。それともパティを観るために集まった、私たちオーディエンスか。・・・たぶん、ぜんぶなのだろう。パティはきっと、これら全てを愛してくれているのだ。にっこりと笑い、手を振るパティを観て、あれからもう1年が経ったのだと実感する。


ここヘヴンでのライヴはアコースティックを基調としたセットで、まったりモ−ドでライヴは続けられた。正確にはアコースティックなのはレニーのギターのみなのだが、意図的になのかソフトめの曲がセレクトされ、あるいは元々はハードである曲も、ここではゆったりとしたアレンジで演奏されている。肩の力の抜けたリラックスしたたたずまいで、だけどパティとバンドのこうした姿が観れるのは、恐らくほとんどの日本人にとっては初めてのことになるのではないだろうか。『Ain't It Strange』や『Birdland』など、初期の曲が聴けたのも嬉しかった。


途中2度ほど、パティが詩集を手にする場面があった。メガネをかけ(さすがに老眼なのかな)、冊子を手にとってぱらぱらとページをめくり、トニーのキーボードを伴奏にして淡々と読み上げる。苗場は昼夜を問わずトンボをはじめ虫が飛び交っているところでもあるのだが、このときは蛾が多かった。しかし彼女は、オーディエンスは元より木々や虫たちなど、生きとし生けるもの全てに対してエネルギーを感じ、それを分け与えてもらってステージに立っているに違いない。





いよいよ終盤。1年前のグリーンステージを思い起こさせる『Because The Night』、続いてはパティ自身のテーマ曲的な位置づけにある(と私は思っている)の『People Have The Power』だ。ここまでのじっくり~まったりモードがギアチェンジとなり、激しいパティ、激しいバンドが還って来た。マイクの前に立ち、両手をぱっと広げ、あるいは拳を握り締め、振り上げるパティ。華奢で細身のはずなのに、その姿は力強く、たくましく感じられる。それは波動となって場内に伝わり、サビの大合唱へとつながるのだ。


そしてラスト。昨年同様の『Babelogue』~『Rock N Roll Nigger』で、パティはギターを手にして野獣のようにかきむしり、やがてバンダナで目隠し。ギターを掲げ、弦をブチブチと引きちぎる。そして溢れる情熱が最高潮に達したのか、パティはひと足先にステージを後にし、残る3人だけで演奏は延々と続いた。90分に渡ったフジロック'02のパティ第一幕は、こうして終了した。





フジロックフェスティバルは、果たして世の中ではどのような位置づけになっているのだろうか。規模の大きさや会場内に漂う素晴らしい雰囲気などから、国内においては野外フェスの筆頭格にあると考えてもいいかもしれない。では世界的にはどうなのか。私個人としては、昨年を経て今年を迎えた時点で、フジロックは世界に誇れる野外フェスティバルになったと思っている。


パティ・スミスは初日の夜にヘヴンのトリを務め、そして2日目は、レッド・マーキーでのトリを務めることになっている。更には私は後になって知ったのだが、ヘヴンのステージの数時間前には、アヴァロンフィールドにてポエトリーリーディングも行ったのだそうだ。この空間を、気に入ってくれた。ここに集まったオーディエンスを、受け入れてくれた。だから、こうして何度もステージに立った。彼女は、フジロックを認めてくれたのだ。

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(2002.8.8.)
















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