Fuji Rock Festival'01 Day 3-Vol.4 Brian Eno







エミネムを前半だけで切り上げたのには理由があった。今年のフジロックは豪華ラインナップだと行く前から何度も痛感していたし、実際現地に着いて数多くのバンドのライヴを目の当たりにして、その想いはますます強くなった。しかし私にとってのフジロック'01最大のヤマ場は、ブライアン・イーノがステージに立つその瞬間なのだ。イーノの勇姿をナマで観れるだけでも奇跡的なことなのに、まさかライヴをこの国で観ることができるなんて!イーノ自身にとっても、いったい何年ぶりのライヴになるのだろうか。


予定時間の30分前にホワイトステージに着く。別に自分だけがイーノのファンなんだと言い張るつもりは毛頭ないのだけれど、ここまで多くの人がイーノのライヴを観んとしていることに、私はぶったまげてしまった。イーノほど、そのアーティストとしての良さをファンとして共感しづらい人はいなかった。が、それも今夜だけは違う。私は運良くステージ向かってやや右の最前を陣取ることができ、そのままじっと時を待つ。





機材のセッティングや調整に少し手間取ったようで、予定時間より10分おして午後11時にイーノとバンドが登場。全員が黒を基調としたスーツ姿だ。それぞれの持ち場につき、いよいよライヴがスタートする。夜空もとってもきれいだ。舞台は、整った。


まずはアフリカンビートを基調としたファンキーなインスト。どうやら新曲のようだ。ステージは中央に2台のキーボードが向き合って設置され、向かって左にイーノ、右にピーター・シュワルムが陣取る。キーボードの奥にはコンピューターらしきものもあるようだ。バンドはギター、ベース、ドラム×2、それにバイオリンという布陣。意外にも、視覚的な演出は全くない。


そして2曲目で早くもイーノのヴォーカルが!このオッサン、やっぱりその気になってるんだな(笑)。もっと植物的でひょろっとした人なのかと思っていたが、がっちりとしたたくましい体つきでひ弱というイメージはない。キーボードから手が離れているときは、上体を小刻みに揺らして踊っている。歌っただけでなく、MCまで披露。しかも日本語で、だ。





ワタシタチ ノ ジッケン ニ サンカ シテイタダキ アリガトウゴザイマス


アタラシイ セイキ ノ タメニ アタラシイ オンガク ヲ ツクリタイ ト オモイマス





うる覚えだが、だいたいこんなようなことを言っていたと思う。なるほど実験か。しかし夜の野外ステージで実験とは、ずいぶん大掛かりなもんだ。さしずめイーノは博士でピーター・シュワルムは腕利きの助手か。バンドメンバーは、選りすぐって集められた優秀な研究員なのだろう。私はイーノのその姿さえ観ることができればそれでよし、ライヴはボロボロでもおっけー、と思っていたのだけど(笑)、用意周到なイーノ博士がそんなはずはなかったのだ。演奏の精度は高く、信頼できる。


パートナーがピーター・シュワルムということもあってか、曲は『Music For 陰陽師』やもっかの最新作『Drawn From Life』からが中心となっているよう。『陰陽師』の曲は東洋的な神秘性を備え、苗場の夜には物凄く似合っている。対して『Drawn ~』の方はゴツゴツとした硬質な感触だ。それらの中に新曲も織り交ぜられている様子。この人の創作意欲が驚異的なのは言わずもがななのだが、しかし凄い人だ。





時刻は12時を回り、ライヴ終了。場内からはアンコールを求める拍手が沸く。メンバーはほとんど間を入れずに再登場。お呼びがかかるの待ってたんかい(笑)。そして、ここでまたしても私たちはぶったまげることになる。アグレッシヴなギターのリフは、これまでで最もロックなイントロだ。





『No One Receiving』!!






ついに出た出た、イーノ78年のヴォーカル作『Before And After Science』からの曲が!場内は狂喜。私はというと、もう理性のタガが吹っ飛びそうだ(笑)。ホントかよ~(何度目なんだ/笑)。初期の作品をここまでとっておくとは、ニクいことするねイーノ博士。


ラストは、冒頭に演奏したのと同じ曲。しかし先程のがウォームアップのように徐々に慣らしていくような感じだったのに対し、今度は幾分アップテンポな仕上がりになっている。アレンジはほとんど変わらず、なのに同じ曲を同じステージでそれぞれに演奏し分けている。この辺りもさすがだ。


狂喜もした。感動もした。だけどイーノのライヴは、単に"盛り上がった"ということばで片付けることなど到底できない、ことばでどう表現してらいいのかが極めて難しい、まさに異質のライヴだった。私がこれまでに体験してきたどのライヴとも異なるし、今後もこのようなライヴに遭遇することはないだろう。ひとつ確実に言えるのは"貴重な"ライヴだったということ。イーノ博士がいつまた気が変わってもうライヴはしないよ、と言うかわからないからだ。

Brian Enoページへ




グリーンでは、クロージングバンドであるフェルミン・ムグルザ・ダブ・マニフェストのライヴがちょうど終わったところだった。聞くとなんと3度のアンコールに応えたそうで、こちらもすごいことになっていたようだ。ステージでのライヴはこれで終了したが、レッドマーキー深夜の部ではスペシャルゲストにチバユウスケを迎えてのDJやライヴがまだまだ続く。だけど私はブライアン・イーノのライヴを今年の自分のフジロックのラストにしたいと思い、クルマを出して帰ることにした。駐車場からは、サーカス・オブ・ホラーのステージがちょっとだけ見えた。































5度目のフジロック。そして最高のフジロックが、これで終わった。
































(2001.8.8.)
















Back(Vol.12)





Copyright©Flowers Of Romance, All Rights Reserved.