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アイデン&ティティ 映画版その1(2004年)

公開日: : Bob Dylan ,

アイデン&ティティ(2004年)

14年前、映画「アイデン&ティティ」を劇場で観た。東京圏では渋谷と吉祥寺のミニシアターのみの上映だったのだが、嬉しいことに、横浜の映画館でも少し遅れて上映されたのだ。

当時、一部で熱狂的な話題になっていたが、その要因のひとつは配役及び演出の面々の豪華さだ。原作は漫画家でありイラストレーターであり、いとうせいこうとスライドショーを手がけている、みうらじゅん。監督は、俳優としては怪演ぶりが光り、一般的には「プロジェクトX」のナレーションでお馴染みの田口トモロヲ。本作が監督デビューだそうだ。脚本は、「ゼブラーマン」「木更津キャッツアイ」「池袋ウエストゲートパーク」「マンハッタン・ラブストーリー」などを手がける売れっ子の、宮藤官九郎だ。

決まるまでかなり難航したという主演のギタリストは、元ゴーイング・ステディで現在は銀杏ボーイズとして活動中の現役ミュージシャン、峯田和伸。同じバンドのヴォーカルには中村獅童、主人公の恋人役に麻生久美子、事務所の社長に岸田四郎、ライバル格バンド「GOD」のヴォーカルにコタニキンヤ、メンバーが出入りする居酒屋の親父に三上寛といった具合。ピエール瀧や浅野忠信も、ちょこっとだけ出演している。

冒頭は、バンドブームに直接間接に関わったミュージシャンたちのインタビューで始まるのだが、遠藤ミチロウやPANTA、ROLLY、そして自らも「大島渚」というバンドでイカ天出演経験のある原作者のみうらじゅんが、コメントを寄せている。そして、実際にバンドブームから出て来た当人達も出演。氏神一番、スイマーズ、人間椅子といった辺り。主人公のバンド「スピードウェイ」は、どうやら人間椅子がモデルになっているらしい(コタニキンヤのGODにも、モデルになったバンドがありそうだ)。

ストーリーは、バンドブームに乗ってメジャーデビューした4人組バンドのスピードウェイが、その後ブームが去り、売れるための路線を選ぶか、それとも自分たちのやりたいことをやるかという、その狭間で苦悩するさまを描くというもの。全編を通してほろ苦さが漂い、このほろ苦さを自分のことのように捉えられるかどうかで、この映画は楽しくもなり、またそうでなくなると思う。

映画はスピードウェイのバンド活動を中心に据えているので、音楽に対するこだわりも細部にまで渡っている。バンドの曲の多くは作詞をみうらじゅん、作曲を白井良明(ムーンライダースのギタリストでプロデューサー)が手がけていて、ブルースハープのBGMは遠藤賢司によるもの。峯田演じる主人公が学生時代にやっていたバンドでは、ラヴ・ジェッツの『気持ちE』をカヴァーしている。路上ライヴをしているのは、ワハハ本舗のポカスカジャン。中村獅童はレッド・ツェッペリンやアイアン・メイデンのTシャツを着ていて、峯田の部屋にはアル・クーパーとマイク・ブルームフィールドの『フィルモアの奇蹟』のジャケ写ポスターが確認できる。そして・・・、

これまで挙げてきた登場人物のほかに、重要なキャラクターがいる。主人公にしか見えないコート姿のその男は、帽子を深くかぶり、マフラーをぐるぐる巻きにしていて、表情はほとんどわからない。しかし、その姿はボブ・ディラン(のように見える人)なのだ。このディランのような男は、自分を「ロックを愛する者の味方」といい、ディランと呼びたければそうすればいいと言い放つ。主人公が迷い苦悩しているとき、この男はブルースハープを吹く。その音色はディランの曲の歌詞となって主人公に伝わり、彼を導いて行く。原作者のみうらじゅんは、熱烈なディランコレクターとしても有名。そしてもっとすごいのは、この映画のスタッフが曲の使用の許諾を求め、ディランサイドが作品のテーマに共感して、『Like A Rolling Stone』をテーマ曲とすることを許可したのだ。

予告編は、中村獅童が峯田に「オマエがやめないんなら、オレがやめてやる」と絶叫するシーン、そして事務所社長の岸部四郎が、峯田たちスピードウェイに向かってクビを言い渡すシーンで締めくくられていた。ワタシが観たかったのは、この後峯田がどう動き、スピードウェイがどうなっていくのかだった。

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