Cocco  2008.1.9:日本武道館

びっくりするくらいに精力的に活動しているCocco。映画「ひめゆり」上映のプロモーションに積極的に参加し、ライヴアースでは幕張会場に参戦して沖縄にジュゴンが帰ってきたことを切々と語り、毎日新聞に連載していたエッセイを『想い事。』として出版し、自らが撮影したという掲載されている写真の展示会も行った。もちろん自身の活動も、シングルやアルバムのリリース、夏フェスへの参戦等、充実している。そしていよいよ11月からツアーを始め、年をまたぐ形でやっと東京に来てくれた。





予定時間を8分ほど過ぎたところでSEが流れ、それが終わったところで客電が落ちた。メンバーがゆっくりと歩いてステージに現れ、全員が花束を抱えていた。最後に現れたのがCoccoで、もちろん彼女も花束を抱え、そして足元にそっと置いた。オープニングは『甘い香り』~『燦』で、つまりは新譜『きらきら』からである。


Coccoは沖縄風のデザインを思わせるドレスを纏っていて、袖がなく細い腕がむき出しになっている。手首には、花柄のブレスレットをつけていた。髪の長さは肩口くらいまでで、彼女にしては長すぎず短すぎずだろうか。華奢な体形なのは既に知っていることだが、それでも不思議とひと回り大きく見える。彼女が発しているオーラのせいだろう。今回のバンドは総勢5名で、向かって右からギターの長田進、キーボード、ドラム、ベース、そしてもうひとりのギタリストである元くるりの大村達身という配置。長田以外、前回のツアーからメンバーは入れ替わっている。


続いては『樹海の糸』や『晴れすぎた空』、『羽根~Lay Down My Arms~』などの、活動休止前の曲がひとまとめになって披露される。懐かしさを感じさせつつも、曲そのものが持つ美しさと瑞々しさは今でも古びてはいない。ステージにはほとんど装飾らしい装飾もなく、いたってシンプル。バックドロップには、カーテンがかけられていた。またこの日の公演は未就学児童の入場も許容していて、小さなお子さんもあちこちにいた。





最初のMCでは、途中勝手に休んでもいたけどデビュー10周年を迎えたと彼女は言った。あれ?もう10年以上やっているはずだがと私は思ったのだが、後で調べ直したら『ブーゲンビリア』のリリースが97年5月なので、メジャーデビューして10年という意味なのだと思う。あっちゃんがデビューした当時は小学生でしたとかいうのきっとココにいるんだろ~と言いつつ、自分は鏡を見るのがいやだったとか、ママのようにきれいになりたかったとか、お姉ちゃんっ子だとか(この公演には彼女の姉も観に来ているそうだ)という、女性ならではの想いを語る。


そして、全ての女子に捧げますと言って披露されたのが『花うた』だった。ステージはアコースティックセットになっていて、長田や大村は椅子に腰掛けてギターを弾き、ベースもウッドベースに変わり、Cocco自身も椅子に腰かけてゆったりと歌った。曲により、彼女はギターを弾き、間奏で木琴を叩き、カスタネットも使っていた。このときバックドロップのカーテンがオープンになり、幾重にも束ねられた白地のカーテンがお目見えし、それに薄いブルーのライトアップがされていた(アコースティックセットが終わったときに、また黒カーテンが閉じられた)。





再び通常のバンドセットにシフト。彼女の溢れんばかりの情熱が、歌や動きから伝わってくる。彼女の立ち位置は基本的にステージ中央部だが、歌いながら向かって右の方に歩み寄ってその方向のファンに手を振り、そして今度は左の方にも歩み寄る。多くのアーティストにとっては、こういうことをするのは当たり前のことだが、Coccoがこういうオープンな状態になっていることに、感慨を覚えずにはいられない。そしてそのときにやっと判別できたのだが、やはり彼女は裸足だった。


セットリスト的には新譜『きらきら』にかなり偏っているように思えたが、そんな中時折披露される『けもの道』や『音速パンチ』といった曲の方に、個人的には反応してしまっていた。活動休止前は根岸孝旨が全面プロデュースしていて、彼女自身の素材を生かす作り方をしていたように思うのだが、前作『ザンサイアン』では根岸と長田とで分け合うようになり、そして『きらきら』では長田が全面プロデュースという形になっている。もちろん、そのときの彼女自身のあり方が大きなウエイトを占めているとは思うが、こうした制作事情の変貌もあり、『きらきら』はそれ以前の作品とは少し色が異なっているように思える。





アッパーなノリの『タイムボッカーン!』では、Cocco自らがツアーグッズのマフラータオルを振り回しながら歌い、場内のファンも待ってましたとばかりにタオルを振り回す。『チョッチョイ子守唄』では沖縄民謡を交えられ、またCoccoによる踊りがフィーチャーされた(このライヴでのハイライトだったと思う)。この日何度目かのMCでは、彼女は東京が好きだと言った。自分は東京に育ててもらい、多くの夢をかなえることができたと。東京に出てきて東京のことを悪く言う人は、地方に帰ればいい。帰るところがなく、東京にしか居場所がない人もいるんだ、とも。社会派ではなかったが、今回も心に染みるメッセージを彼女は発していた。


シングルカットされた『ジュゴンの見える丘』を経て、マストソングの『強く儚い者たち』。そしてラストは、『Never Ending Journey』だ。最後になると、メンバー全員が置いてあった花束を持って前の方に出てきて、Coccoを中心にしながら客に挨拶をして、袖の方に下がって行った。曲数的にも時間的にも、これで終わるのは当然の成り行きだろうとは思ったが、これまでの彼女のライヴのような劇的な展開は感じられず、「普通」に展開して幕が閉められた感があった。





いい意味で、不満が残るライヴだった。「いい意味で不満」とはなんとも矛盾した言い方だが、ではなぜ不満だったのかというと、前述の通り「普通の」ライヴだったからだ。もっと劇的な展開を、もっと過剰な情熱を、観ている側の胸が締め付けられるようなギリギリ感を、私は彼女のライヴに期待してしまっていた。活動休止から復帰したとしても、その感触が失われることはないと、思い込んでしまっていたのだ。


しかし、公演が終わって少し時間が経過し、自分の中で考え直してみた。常にギリギリ、常に全力疾走であっては、人間誰しも長持ちするはずがない。どこかで糸がぷっつりと切れてしまって、また休息する期間が必要になるはずだ。彼女はきっと、常に全力疾走ではなく、自分のペースを見つけてそれで走り続ける術を見つけ、手に入れたのだと思う。それは彼女のファンとしては歓迎すべきことのはずで、今後も彼女の歌や音楽やメッセージに触れ続けることができることの証なのだ。




(2008.1.13.)















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