Fuji Rock Festival'04 Day 1-Vol.3 Pixies/東京事変







ピクシーズ11年ぶりの復活は、今年のロック界の重要トピックのひとつとして、刻まれるに違いない。そのピクシーズを初めて日本に呼んだということが、もしかしたら今年のフジロックの最大の功績になるかもしれない。時刻は夜7時を回り、日は落ちて漆黒の世界が広がる中、グリーンステージ前には多くのオーデイエンスが集まった。


ステージにはスモークが炊かれ、ただならぬ雰囲気が漂う中、爆音が幕を切って落とす。『Bone Machine』だ。フランシスとキムのちょっとかすれたツインヴォーカルに、轟音ギターノイズが炸裂。がしかし、曲そのものは短いため、あっさりと終わってしまう。ピクシーズの曲の魅力とは、大袈裟に始まってあっさりと終わるという、妙なたたずまいにあるのではないか。


その活動期間は、決して長くはなかったはずだ。むしろ、11年という「眠っていた」歳月の方が長かったはずで、なのに今年突然復活してもこれだけの存在感を誇り、音はリアリティを以って迫って来る。その魅力に引き込まれたのは、ファンだけでなくニルヴァーナやレディオヘッドといった、アーティストたちもだ。デヴィッド・ボウイが3月の来日公演でもカヴァーしていた『Cactus』のオリジナルを目の当たりにしたときに、その想いはなおさら強くなった。ほんとうは最後までライヴを見届けたかったのだが、ここでグリーンステージを離れることにする。

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ピクシーズを途中で切り上げたのには、理由があった。東京事変がホワイトステージに出演するからだ。ソロで活動していた椎名林檎がバンド名義になっての活動再開になるのだが、彼女が持ちうる力量と人気からすれば、開演ぎりぎりに行ったのでは、入場規制がかかって観れなくなってしまう恐れがあると判断してのことだ。というわけでホワイトステージに行ってみると、ちょうどDJユニットのエクセキューショナーズのパフォーマンスが終わったところだった。


東京事変は、正確には昨年既に椎名林檎のバックバンドとして登場している。それが、今後は椎名林檎自身もバンドの一員としてやっていくというスタンスに変わり、彼女自身の活動の大きな区切りになった。新曲オンリーになるのか、ソロの曲を封印してしまうのか、あるいは別アレンジで再生させるのか、など、いろいろと想像が膨らむ。観るのが怖い気もするが、もちろん観れる嬉しさの方が勝っている。この1週間前に既に大阪のフェスに出演してはいるが、今回のフジロックが実質的な初お披露目の機会、と言っていいのではないだろうか。





時間になり、壮大なシンフォニーのSEが響き渡った。ステージ後方にはスクリーンがあって、折鶴のようなマークと「東京事変」というロゴが浮かび上がる。各メンバーが配置につき、そして最後に林檎嬢がゆっくりとステージに現れる。白いドレス姿だ。これだけで、もう場内は沸き立っている。今まで彼女のライヴのチケットは常に入手困難状態だったので、熱心なファンでありながら、今回初めて彼女のライヴを観るという人も少なくないのではないだろうか。


オープニングは、なんと『丸の内サディスティック』『迷彩』という、林檎時代の曲の2連発だった。去年のときからそうだったのだが、東京事変はジャズテイストの濃いバンドであり、曲のアレンジもジャジーになっている。これは予想できたことだが、不安だったのは、このたたずまいが野外ステージに合うかということだった。しかし、全く問題なし。メンバーの技量、バンドとしてのコンビネーションのよさ、そして彼女の存在感が、そうさせているのだろうか。


続いては新曲。やはりジャズテイストが濃いが、それでいてポップであり、芯が通った力強さを感じさせる。このバランス感覚のよさが彼女の力量であり、センスなのだろう。続いて、ソロとしてはラストシングルになった『りんごのうた』が、ここでは『林檎の唄』として披露。「うた」が終わりを暗示させるもの悲しい曲調であったのに対し、「唄」は勢いに満ちていて、まさに彼女が再びシーンの最前線に帰って来たことを感じさせる。


ソロ時代の彼女はどうも力が入りすぎていて、常にぎりぎりのところまで自分を追い込んでいるような切迫感があった。それが、現在のバンドメンバーと一緒にやるようになってからだろうか、彼女自身の中にゆとりが生まれたような様子で、それが曲作りやパフォーマンスにも表れているように思う。バンドとは思春期的なもので、いつかは解散するという先入観があり、ソロからバンドという稀有なパターンには、最初聞いたときは戸惑ってしまった。だけど彼女に関しては、この方がやりやすくなっているのだろう。





MCで新曲を紹介した後に演奏したりしつつ、『歌舞伎町の女王』や『幸福論』といった、林檎時代の曲も交互に披露。個人的には、新曲がかなり充実しているので、林檎時代の曲は外してもよかったのではと感じた。しかしそれをしなかったのは、こうした方が受け入れられやすいという戦略よりは、彼女自身の優しさから出たものではなかっただろうか。ライヴは約1時間で終了したが、全編を通して緊張感に満ちていたし、密度の濃い素晴らしい仕上がりだった。個人的には、彼女がフジのステージに立つことを、ずっとずっと願っていた。それがついに叶った夜であり、この東京事変のステージが私にとってのフジロック'04のハイライトになった。




(2005.2.1.)
















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