ビートルズを続けようと最後まで頑張ったポールだが、それが叶わぬと悟るや70年4月10日に脱退を表明。その1週間後にして『Let It Be』の1ヶ月前に今作をリリース。ビートルズ路線を望むファンの勢いで売れたことは売れたが、ビートルズとは似ても似つかないデモテープのようなたたずまいに(約半数がインスト)、評価はボロボロ。しかし、今作こそ後のプリンスやベックの作品に先駆けた元祖宅録アルバムであり、ポールが元祖マルチミュージシャンであることを証明している。

　前作はひとり多重録音で仕上げたが、今作ではセッションミュージシャンを起用。そして音楽的にはほとんど素人だったはずの愛妻リンダと、約半分の曲を共作。名義も「ポール＆リンダ･マッカートニー」とし、リンダはほとんどの曲でバックコーラスを務めている。『The Back Seat Of My Car』はまるでビーチ･ボーイズのようなサウンドだが、ポールのキャリア中屈指の名曲。しかし相変わらずメディアからの風当たりは強く、3人の元ビートルからも酷評された。

　評価の方はさておき、ソロアーティストとしての自信を深めつつあったポールはライヴに飢え、ウイングスを結成。今作は「ポール＆ウイングス」という名義になり、ツアーにも出るようになった。この時期はシングルが好調で、愛妻リンダに捧げた『My Love』がヒット。他には映画007の主題歌『Live And Let Die』や『C Moon』などがヒットしているのだが、これらが今作に収録されなかった分、作品としてやや小ぶりな印象を受ける。しかし実験性の高いインスト『Loup』は、聴いていて興味深い。

　レコーディング中にウイングスのメンバー2人が脱退するというアクシデントをものともせず、ソロキャリア代表作となる渾身のアルバムを完成。タイトル曲始め、4曲にトニー･ヴィスコンティが参加。エンジニアとしてビートルズ時代からつながりのある、ジェフ･エメリックも参加している。ジャケットのテーマは「囚人の脱走」で、バンドメンバーの他、俳優のジェームズ･コバーンや元プロボクサーのジョン･コンティも出演。1999年には、デモトラック等が付与された25周年盤もリリースされている。

　新たにメンバーを補充し(レコーディング最中にゴタゴタはあったものの)、再び名義をウイングスに戻して作られた作品。決定的な曲がないのが物足りなくもあるが、アルバムとしてのトータル性は見事で、完成度は高い。セールス的にも成功し、メディアの評価も上々。ジャケットはリンダの撮影で、ビリヤードの玉をタイトルの「金星と火星」に見立てている。この年の暮れには来日公演も計画もあったが、大麻不法所持の前科がネックとなり、キャンセルになってしまった。

　タイトル通り76年の全米ツアーを編集し、ローリング･ストーンズの『Love You Live』と双璧を成す、70'sを代表するライヴアルバム。熱心なファンはもちろん、初心者にもお薦めしたい1枚だ。リリース当時は3枚組というヴォリュームだった。中盤のアコースティックセットやビートルズ時代の4曲も目を引くが、注目は『Go Now』。ギタリストのデニー･レインがかつて在籍していたムーディー･ブルースの代表曲で、もちろんヴォーカルはデニー。ラストの『Soily』は、未発表曲である。