Paul McCartney Discography　Album 80's

　1月に成田で逮捕され、またも日本公演は中止に。帰国したポールは、前年にプライベート録音していた音源を発表。『Coming Up』がシングルヒットしたものの、当時の時流を意識したような「らしくない」テクノ風の曲もいくつかある(後追いで聴いた身としては結構新鮮に受け取れる)。ポール自身にはさほどの気負いはなかったようで、ウイングスの活動の合間という気持ちでのリリースだったようだ。しかしこの年の暮れにジョン･レノンが射殺され、ポールは大きな衝撃を受ける。

　ビートルズ解散後も、互いが互いを意識しながら活動してきたジョンとポール。そのジョンが亡くなり、更には81年4月にデニー･レインが脱退を表明して、ウイングスは自然消滅的に解散。ポールが新たなパートナーとして起用したのはスティーヴィー･ワンダーであり、ビートルズ時代のプロデューサーであったジョージ･マーティンだった(リンゴも参加している)。『Here Today』は、ジョンに捧げた曲。『Ebony And Ivory』はシングルヒットを記録。80'sの作品では、最も充実した出来だと思う。

　タイトルからわかるように、前作とは姉妹作的な位置づけにある。『McCartney Π』のような実験もしておらず、ポールらしさが出ている個々の曲のクォリティは決して悪くはない。しかしそれでも、物足りなさを覚えてしまうのはなぜだろう(ポール低迷期の始まりか)？今回はマイケル･ジャクソンと2曲でデュエットし、特に『Say Say Say』は大ヒット。この曲とタイトル曲のPVは、マイケルの『Thriller』に並ぶくらいよくできている。

　自ら脚本を書き、主演した映画のサントラ盤で、前2作からのジョージ･マーティンやリンゴに加え、ジョン･ポール･ジョーンズやスティーヴ･ルカサーといった職人も参加。話題は6曲にも渡るビートルズナンバーの再演で、しかも『Revolver』の比重が高い。映画はリリース直前のマスターテープが盗まれてバタバタ～という他愛もないストーリーで、興行的には失敗。しかし3曲ある新曲のひとつ『No More Lonely Nights』は、80'sのポールを代表する1曲になっていると思う。

　10CCのエリック･スチュアートとの共作が多く、当時ソロとしてもプロデューサーとしてもノッていたフィル･コリンズも参加。全編に渡る打ち込み音が、いかにも80'sだなあと思わせる。個人的にこうした音は苦手ではないのだが、しかし演っているのがポールとなると、聴いていて複雑な気持ちになる(特に『Pretty Little Head』辺りは)。ウイングスの自然消滅後、ポールは自身のライヴ活動を行っておらず、この時期はライヴエイドやプリンストラストに出演して「飢え」をしのいでいた。

　ソ連の国営レーベルと結んだ契約の関係上、最初はソ連限定でのリリース。しかしすぐに完売となり、91年にCDとして全世界でリリースされた。全曲がカヴァーで、セッション風のライヴレコーディングといったたたずまいは、自らの立ち位置を再確認するための作業のように見て取れる。マニア向けの作品だと言えるが、なんとか再起を図ろうとする、ポールの意気込みが感じられる。

　「吹っ切れた」ことがひしひしと伝わってくる、入魂の作品。ジョンとウイングスを失ってからのポールの活動は、自らを刺激し鼓舞してくれるパートナー探しの旅でもあったのだが、ポールを復活させたのはマイケル･ジャクソンでもジョージ･マーティンでもなく、エルヴィス･コステロだった。2人は11曲を共作でレコーディングし、うち4曲が今作に、2曲がコステロの『Spike』に収められている。情熱ほとばしる『Figure Of Eight』や、「ポール節」が発揮された『This One』にも注目。