The Jesus & Mary Chain 2008.8.11:Club Quattro

渋谷はライヴハウスが豊富な地域だが、中でもパルコ・クアトロビルにあるクラブクアトロは、老舗と言っていい存在だと思う。今や伝説になっているオアシス初来日の東京公演もクアトロだったし、個人的にも何度も足を運んでいる。そのクアトロだが、ビル内改装のため5月末から休館になっていて、この日が新装オープンだった。まずビルの1階から3階までがブックオフになっていて(以前はブティック関連だった)、4階の入り口も以前とは少し変わり、ロッカーが入口の外だったり、物販用のスペースがゆったりと取られたりという具合。しかし、ステージのある5階フロアは、以前とほとんど同じだった。





予定より10分くらい過ぎた頃に客電が落ち、メンバーがゆっくりと登場。『Snakedriver』でライヴはスタートした。狭いステージに4人が陣取っていて、向かって右からギターが兄ウィリアム・リード、ヴォーカルの弟ジム・リード、ベース、サポートのギター、そしてジムの後ろにドラマー、という配置。ジムの方がウィリアムよりも長身で、ラモーンズのTシャツを着ていた。ウィリアムは髪はぼさぼさ、横に幅広い体型になっていて、かつての宣材写真のイメージとは程遠い(当り前か)。


演奏はリード兄弟の2人が軸になっていて、ほか3人は2人に合わせるようにしている感じだ。ジムはマイクスタンドを握りしめてほぼ直立不動で歌い、対するウィリアムは終始うつむき加減で、ジム側を向くように(つまり客側には半身の恰好で)して立ってギターを弾いている。MCも全てジムが担当し、と言ってもメッセージを伝えるというよりは「thanks♪」などの短いことばを発する程度だ。





ジザメリは80年代半ばにデビューし、98年に自然消滅的に解散(活動停止?)した。ファースト『Psychocandy』の頃はプライマル・スクリームのボビー・ギレスビーがドラマーとして参加していたことや、その音楽性が後のバンドに継承されていったことなどから、非常にユニークでかつ貴重な存在だと思っている。個人的には当時それほどハマっていたわけでもなく、何度かあったであろう来日公演にも結局行かずじまいで、そのうちに兄弟げんかしたとかしないとかで空中分解してしまった。


しかし、昨今の再結成の流れに乗ったのか乗らないのか、とにかく去年バンドは復活。そして今回こうして来日してくれたのだから、これを逃す手はない。もともとはサマーソニックへのエントリーだったが、個人的にはコールドプレイとバッティングしていて観れなくなっていたため、この単独の方に行かせてもらうことに。この日のチケットは完売していて、客の年齢層も高めであることから、私など足元にも及ばない、熱の入ったファンがこの場に集まったに違いない。狭い会場というのはバンドを間近で観られるという利点もあるが、オーディエンスの「熱」がバンド側に伝わりやすい空間でもあると思っていて、それがこのライヴを心地よいものにしている。





演奏は極力曲と曲の間を空けず、次から次へと演奏を続けるという具合。ギターやベースの交換もほとんどなかったと思う。そして、演奏そのものは長いソロやインプロヴィゼーション合戦があるわけでもなく、原曲に忠実に演奏している。1曲当たりだいたい3~5分程度であるためにさくさくと曲が進み、それに対して時間の方はそれほど経過しない。いちおう緊張感は持続されてはいるのだが、個人的には少し違和感を感じてしまった。思ったほど爆音でもないし、シューゲイザーでもないな、と。


「シューゲイザー」とは、直訳すると「靴を凝視する」で、つまり足元を覗き込むかのようにギタープレイに固執し、ノイジーなリフを延々と繰り広げるスタイルのことを指している。そして、ジザメリ以前にはそのようなバンドがいなかったことから、ジザメリこそが元祖シューゲイザーという位置づけになってもいる。ジザメリがいなければ、ライドもマイブラも登場しなかったかもしれない、ということになっている。


しかしだ。ジザメリがシューゲイザーだったのは、実はファースト『Psychocandy』だけだったように思える。それを、活字として語り継がれているフレーズを鵜呑みにしたがために惑わされてしまい、本質を見失っていたのだ。そう考えを整理すれば、このライヴの様相も観ていて納得ができてくる。シューゲイザーだけでなく、ポップでキャッチーで少しダークでそしてタイムレスなメロディこそがジザメリであり、そこにはキュアーやストーン・ローゼズの要素も垣間見ることができるのだ。ジザメリを抜けたボビーによるプライマルのファーストがギターポップ路線だったのも、ジザメリと無関係ではあるまい。





さて、ライヴは再結成バンドらしく?キャリアを総括する選曲となり(シド・バレットのカヴァーもあったらしいが私は気がつかず)、本編ラストは『Just Like Honey』で締めくくられた。アンコールはキラーチューンの『Darklands』で始まり、オーラスは『Reverance』だった。再結成には大きく2通りの歩み方があって、期間限定のツアーに留まるものと、その勢いに乗じて新作を制作し、以前と変わらぬパーマネントな活動へとシフトしていくものとがある。果たして、ジザメリはどちらの道を行くのだろうか。





(2008.8.31.)
















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