Paul Weller  2008.8.7:Shibuya-AX

ポール・ウェラーの約2年半ぶりの来日は、サマーソニックでだった。インドアのソニックステージのトリにエントリーされていたが、他のステージにも気になるアーティストがいて、それが時間的にバッティングしてしまう恐れがあった。しかし、サマソニはその開催日前後に出演アーティストの単独公演が行われるのが珍しくなく、嬉しいことにポール・ウェラーの単独公演も発表に。フェスでどう行動するかはともかく、とりあえず単独の方でがっつりとこの人のライヴに浸ることにした。





予定より少し遅れて客電が落ち、ステージの袖からメンバーが姿を見せる。前回もそうだったが、今回もウェラーが先頭を切って登場し、深々と頭を下げてからギターを手にした。他のメンバーもそれぞれの場についたところで、『As Is Now』からの『Blink And You'll Miss It』でスタートし、続いて新譜『22 Dreams』からのタイトル曲へと続く。客の年齢層は結構高めなのだが、序盤から熱い声援を飛ばしていてそれが演奏と噛み合っており、上々のスタートである。


今回は、バックを固めるバンドメンバーの顔ぶれに大きな変化が生じている。まず、ウェラーとはスタイル・カウンシル時代からの付き合いであり、最早終身雇用制ではと思われていたスティーヴ・ホワイトが、今回この場にはいないのだ。代わりに若いドラマーが陣取っていて、リズムを刻んでいる。ベーシストも、前2回の来日は元オーシャン・カラー・シーンのデーモン・ミンチェラだったのが、大柄で渋い人に代わっている(スティーヴとデーモンは、現在一緒に活動しているそうだ)。更には、日本公演としては数年ぶりにキーボーディストが復活している。ギターのスティーヴ・クラドックだけが、代わらずにウェラーの向かって右横に陣取っているという具合だ。


そしてポール・ウェラーその人だが、今年5月で50歳を迎えたこの人は、年相応におさまるどころかむしろ若返っているように見える。体型は細身で、ギターをかきならしながら歌いあげるその動きも軽快でシャープだ。その動きだけでなく、この人が発するオーラには、安定や達観ではなく攻撃と挑戦の姿勢が伝わってくる。オアシスのノエル・ギャラガーを筆頭にこの人をリスペクトするアーティストは少なくないのだが、そうした後輩たちとのコラボレートを果たしつつ、自らはなお進化をつづけようとしている。





6月には新譜『22 Dreams』を発表。これが全21曲の大作であり、しかもこれが全英第1位を獲得。そしてその内容も、この人らしいソウルフルでギターが唸るナンバーもあれば、実験精神を追求したかのようなナンバーもあって、かなりバラエティに富んでいる。そして、前作『As Is Now』から予兆はあったのだが、ジャムやスタカンといったかつての自分のキャリアで用いていた手法が、今現在のウェラーによって注入されている。それは決して回顧ではなく、むしろロング・アンド・ワインディング・ロードを歩んできたこの人の生きざまがにじみ出たのだと解釈している。


『22 Dreams』や『As Is Now』といった近年の作品からの曲と、それ以前の曲との温度差というのがほとんど感じられず、この人が表現者としてもある種の境地に達したのではと思わせるものがある。以前のこの人は、1曲1曲が単発的でありCDとさほど変わらない演奏を目指しているように取れていたのだが、ここではインプロヴィゼーションを繰り広げることが少なくなく、結構プログレモードが入っている(笑)。当人も、気合いが空回りすることなくうまくコントロールしながら、精度の高い演奏を繰り広げている。





ウェラーがキーボードを弾きながら歌うのも今やお馴染みだが、今回はそのコーナーが2回あって、それがライヴの流れにメリハリをつけ、アッパーになった後のクールダウンのように機能していた。そして、1回目のコーナーのときに最初のサプライズが起こった。ジャム後期のスローナンバー『Carnation』である。正直、ジャムを代表する曲となりえてはいない曲だが、そのシンプルにして美しいメロディは出色であり、個人的にはジャムのトリビュートアルバムでオアシスのリアムとスティーヴ・クラドックとが組んでカヴァーしたのが印象深い。


2度目のサプライズは、バンドモードでのスタカン『Speak Like A Child』だった。原曲はポップで軽快な曲調なのだが、この場では原曲を大きく崩し、ゴリゴリのビートで押していて、メロディよりも歌詞を聴くことでそれと判別できるような状態だった。そして、毎度のことながらスティーヴの忠実な従者ぶりに好感が持てる。ここではサマーセーターをまとい、時にはピート・タウンゼントばりに腕をぐるぐる回しながらカッティングしている。曲によってはラップスティールも担当し、主君を支えんとする姿勢がにじみ出ている。自身のバンドオーシャン・カラー・シーンの活動もあるはずなのに(こちらの単独来日も望まれる)、ウェラーから声がかかればノーとは言えない人なのだろう、きっと。





終盤は、新譜のリードシングルである『Echoes Round The Sun』でギアが一段入ったようになり、更に近年生まれた中で顔的な曲になりつつある『Come On/Let's Go』へとつながれる。そして、この後に更なる(個人的には最大の)サプライズが起こった。イントロのリフが流れたその瞬間、私はそれが何の曲であるのかがわかった。そしてウェラーがマイクに向かって第一声を発したそのとき、最早冷静ではいられなくなっていた。なぜって、その曲はジャムの『The Eton Rifles』だったからだ。


ジャムの評価は、初期はサード『All Mod Cons』、後期はラスト『The Gift』が傑作、というのが定説になりつつある。もちろんどちらも優れた作品であることに異論はないし、そもそもジャムに駄作などないと思っている。ではあるが、個人的なジャムのベストは4枚目の『Setting Sons』なのだ。この作品には疾走感と美メロとスケール感と普遍性が凝縮されていて、かつそれらがシンプルに留まっているように感じている。ジャムどころかロンドンパンクの中でも最も好きなアルバムで、そこからの曲が演奏されると頭がショートしてしまう(前回の来日で『Thick As Thieves』が演奏されたときもそうだった)。更に『The Eton Rifles』は、実質的にアルバムを締めくくる曲であり、かつ代表する曲だったのだ。





興奮も醒めあらぬ間に、『Whirlpool's End』の長い長いインプロで本編が締めくくられた。アンコールは『The Changingman』1曲のみというシンプルなものだったが、あっという間に時間が過ぎ去ったかのような感覚を覚えながら会場を後にした。音響面でのトラブルがないではなかったが、トータルとしては非常に満足度が高く、この人がそのキャリアにおいて何度目かのピークを迎えていると確信できるライヴだった。サマソニでは他のアーティストのライヴを観て、この人ははずすつもりだったのだが、迷うなあ。




(2008.8.30.)















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