The Mars Volta  2008.6.13:Studio Coast

個人的に、今回のライヴは行けるかどうかが微妙だった。それがなんとか行ける目途が立ち、チケットを取ったのが開催の2週間くらい前のこと。当然ながら整理番号は最後の方で、入場も一番最後だった。ただ、東京公演は最終的に完売していて、行きたくても行けないという人も少なからずいた様子。なので幸運を噛み締めつつ、そして2階席に空いているところをなんとか見つけることができたので、座って開演を待った。





開演前にはワールドミュージック系のBGMが流れていて、それが予定を6分ほど過ぎたところで客電が落ち、今度は西部劇風のSEが流れる。その中をステージ向かって左の袖からメンバーがゆっくりと登場し、それぞれ持ち場につく。この日は来日最終公演だが、初演だった大阪では開場/開演が1時間以上遅れたと聞いていたので、正直もっと待たされるかと思っていた。そんなこちらの想いとは無関係に、早速ジャムセッションでライヴが始まった。


バンドは総勢8人で、ステージ中央前方に陣取るのがヴォーカルのセドリック・ビクスラーと、ギターのオマー・ロドリゲス。そしてこの2人を囲むように、向かって右からギター、キーボード、ベース、ドラマー、パーカッション、管楽器、という布陣。ドラマーが変わったらしく、上半身裸でむき出しになっている上腕の筋肉の充実ぶりが、2階席から見ていてもわかる。ステージのバックドロップには、新譜『The Bedlam In Goliath/ゴリアテの混乱』のジャケ写が飾られていた。





ジャムセッションから、演奏はいつのまにか『Viscera Eyes』へと移行。演奏力が高いレベルにあるバンドなのは私は既に体験済みだが、今回も各々が如何なくその能力を発揮している。向かって右サイドのギターとキーボードの2人は、見た目としてのアクションには乏しく淡々としてはいるが、しかし発する音は充分に主張している。対して左サイドの2人は、それぞれ曲により操る楽器を替えていて、管楽器の人はサックスやクラリネットを、パーカッションの人(オマーの弟のマルセルだったか?)はキーボードやマラカスなどを駆使。こうした脇を固める面々の働きぶりもあり、音数が豊富になりまた音圧も分厚くなっている。


マーズ・ヴォルタのライヴを観るのは2006年の単独公演以来だ。このときも凄まじいライヴだったのだが、ひとつ気になることがあって、それはオマーがバンドを支配しすぎていたことだった。60分のセッションを含む全4曲という驚愕のライヴで、そして演奏中にオマーが各メンバーひ細かく指示を出し、統率していた。インプロヴィゼーションの応酬ということで、セドリックのヴォーカルパートもあまりなかった。バンド内に及ぼすオマーの影響力があまりにも大きくなってしまい、セドリックが「余る」状態になってしまいそうな感じだったのだ。


がしかし、この日のライヴを牽引していたのは、間違いなくセドリックだった。マイクスタンドを自在に操り、あるいはハンドマイクにしてコードをブンブン振り回し、時に右足の裏で蹴り上げては拾いというのを繰り返し(1度失敗していたけど)、とにかくやりたいように動き回っていた。そして肝心のヴォーカルだが、伸びのあるハイトーンヴォイスで、シャープでありながらパワフルでもあり、他のメンバーが発する音に少しも負けていなかった。危惧していたことが払拭されただけで、この日会場に足を運んだ意味はあった。


対するオマーだが、まずジャムセッションのときはオーディエンスに背を向けドラマーの方を向いてプレイすることが多かった。インプロヴィゼーションのときは自らギターソロを披露するときもあって、ギターを抱きかかえるようにし上体に密着させ、軋んだリフに合わせるように細身の体をくねらせていた。オマーはマーズ・ヴォルタのメンバーとでソロアルバムもリリースしツアーもしているのだが、思うに2年前の公演は、マーズ・ヴォルタ名義でありながらオマー・ロドリゲス・ロペス・グループとしてのライヴをしたのだろう。そして今回は、まさにマーズ・ヴォルタとしてのパフォーマンスなのだ。





演奏は曲間の切れ目を最小限にし、ほとんどメドレー形式で進められていた。メンバーは、それぞれ演奏の合間をぬうように水分を摂ったり汗を拭いたりしていた。私の記憶が正しければ、明確に曲が終わったのは2回だが、その2回でさえオーディエンスのウォーーーッという歓声が一瞬湧いたすぐ後に次の曲に取り掛かっていた。選曲としては、新譜と前作『Amputechture』からとなり、ステージのバックドロップはいつのまにか新譜のジャケ写からエンブレムマークにすり替わっていた。


終盤、ドラマーのビートを軸にし、ベーシストとオマーとのセッション合戦があった。ドラム→オマー→ドラム→ベース→ドラム→オマー~というのがややしばらく繰り返され、オマーはともかくベーシストがここで思わぬ見せ場を作った。2人も凄いが、その間を取り持つ剛腕ドラマーの迫力も凄まじい。この掛け合いの後に今度はドラムソロとなって、そして新譜の冒頭の曲である『Aberinkula』へとなだれ込んだ。そして演奏が終わるとメンバーは皆一斉に持ち場から離れ、ピックやスティックなどを投げまくりながら足早にステージを後にしていった。アンコールはなし。このバンドがアンコールをやらないことは2年前で既にわかっていたので、これでライヴが終わったんだなあと実感した。





ライヴのクォリティー自体は、異様なまでに高かったのは間違いない。ただしこの日の公演は、大阪や名古屋よりも曲がカットされてしまったらしく、よって演奏時間も30分くらい短めになってしまった。来日最終公演というのは、アーティスト側がノリにノッて他の公演よりも拡大されることがあれば、またその逆に(翌日の飛行機の都合なのか何なのか)縮小されてしまうこともあって、どうやらこの日は(理由はさておき)後者になってしまったらしい。バンドはコンスタントに来日してくれているので、彼らは日本が嫌いということではないと思われるのだが、それだけが残念だった。


2000年代もいつのまにか後半になってしまったが、個人的に深い想いを寄せることのできるアーティストは、残念ながら乏しいと言わざるを得ない。そうした中、マーズ・ヴォルタは2000年代に登場したアーティストとして、アーケイド・ファイアやコールドプレイと並び、私にとって重要なアーティストとして君臨する。コールドプレイはヘッドライナーを務められる決定的な存在になったと思うし、アーケイド・ファイアとマーズ・ヴォルタは、道なき道を突き進み切り開く、イノヴェイターのような存在だと思えるからだ。




(2008.6.14.)
















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