The Police 2008.2.14:東京ドーム

予定の午後6時半より少し前に、客電が落ちた。場内の客入りが半分にも満たない中で、オープニングアクトであるフィクション・プレインのライヴがスタート。スティングの息子ジョー・サムナーがヴォーカル&ベ−スを務めるこのバンドは、ポリスと同じくギター、ドラムとのトリオ編成。やはり注目はスティングの息子に集中しがちで(スクリーンも、8割は彼を抜いていた)、髪をロングにしてはいるものの、当然ながら顔立ちにはスティングの面影があり、またヴォーカルもスティングそっくりである。


音の方も、ポリス・チルドレン的なミディアム調のギターロックとなっていた。約30分強のライヴで、ラストはCMでよく流れていた『Two Sisters』で締めくくった。ジョーはやたらと愛想を振りまき、日本語のMCもして頑張ってはいた。のだが、はっきり言ってしまえば最初の10分で飽きた。会場が大きくなればなるほど、前座を務めるバンドの力量とはかけ離れてしまい、間延びしたものになってしまう。そうした事態は今回も回避することができず、途中からは半分寝ながらBGM的に聴いていた。前座はなしにして、その分チケット代を安くしてくれればいいのに。





手早くセットチェンジが行われ、午後7時半過ぎに再び場内が暗転。あちこちに空席がないではなかったが、それでも場内はそこそこの入りに。やがて、ステージ向かって右前方にピンスポットが当たり、アンディ・サマーズが『Message In A Bottle』のリフを弾き、ここでステージ上が明るくなってスティングとスチュワート・コープランドの姿も見え、ザ・ポリスのライヴがスタートした。


向かって左に立つスティングは、スリーヴレスの黒のシャツを着ていて、つまり両腕はむき出しに。50の歳を越えてなお露出を厭わないのには恐れ入る。向かって右にはギターのアンディで、この人はかなり小柄。そして後方中央のドラムセットの中に収まっているのが、『Ghost In The Machine』のTシャツを着たスチュワート・コープランドだ。サポートメンバーは一切なく、3人のみでの演奏である。スティングのヴォーカルは以前とス少しも変わらず高音に伸びがあるが、一部のフレーズは歌い方を変えていた。


続いて曲は『Synchronicity Π』となり、ここでスクリーンが稼働。両サイドのほか、ステージのバックドロップにも横長のスクリーンがあって、これは恐らく3分割か4分割されていると思われるが、3塁側2階席にいる私のポジションからは、右部分のスクリーンしか見えない(苦笑)。またステージ両サイドの巨大セットも実は電飾になっていて、アルバム『Synchronicity』のジャケットを彩るのと同じ赤やイエロー、ブルーといったカラーが、ランダムに飛び交っていた。ステージはすり鉢型のなかなかユニークな形状になっていて、その中央部に3人が陣取るという具合だ。





なにせ約20年ぶりの再結成であり、更に来日となると80年以来27年ぶりになる。というわけで、今回初めてポリスをナマで観るというファンの方が多いと思われ、実際私もそのひとりだ。バンドもそのニーズに答えんとしていて、セットリストは必然的にベストヒット構成となる。そうした中で敢えて「冒険」ができるのがライヴ序盤で、『Voices Inside My Head』『When The World Is Running Down』『Driven To Tears』『Hole In My Life』といった曲が(これらでも、ファンにとっては馴染みの佳曲だが)演奏される。


スティングは適度にMCを入れ、「コンバンワ、トキオーー」程度ではあるが日本語も交えていた。ステージは左右に花道が伸びていて、歩きながら演奏する役を担うのもやはりスティングである。しかし個人的には、左右のファンに近寄らんとするスティング以上に、その間音としての見せ場を作っているアンディの方に注目が行った。スリーピースは、誰ひとり気を抜くことができない緊張感を背負いながらの演奏を強いられる編成なのだが、ポリスの中でアンディが果たしている役割の大きさを、初めてナマで観たことで私は痛感したのだ。


『Don't Stand So Close To Me』はもちろん原曲のバージョンで演奏され、『Every Little Thing She Does Is Magic』でのスティングのシャウトも冴え渡る。『Wrapped Around Your Finger』では、スチュワートがドラムセットの後方のひな壇に行き、細かいシンバル類をしゃらり~んと鳴らすのがイントロになっていた。『De Do Do Do, De Da Da Da』は、残念ながら日本語バージョンではなく、『Invisible Sun』ではスクリーンに世界各地の子供の表情を映し出し、ライヴ中唯一社会性を打ち出していた。





正直なところ、序盤から中盤まではステージセットといい演奏といい、ドームでやるライヴなのかなあという疑問を抱えながら観ていた。音の悪さは既に慣れっこだが、ステージは無駄に大きく、といってド派手な演出効果があるわけでもない。大きいだけは大きいが、中身がシンプル過ぎていたのだ。武道館は(ステージが入らい恐れがあるので)無理だとしても、代々木体育館やさいたまスーパーアリーナにすればよかったのでは?と思ってしまった。サポートメンバーを動員していないのも、果たして正解だったのだろうか。


再結成ライヴをドーム会場で行うというのは、大御所が懐メロベストヒットを披露する定番のようなたたずまいだが、淡々と続いていくライヴを観ていてふと気づいた。スティングのMCは序盤だけで、途中からはことばではなく歌と演奏による表現行為に徹し、観客を惹きつけようとした。曲と曲の間にインターバルを置くこともほとんどなく、演奏が終わるとすぐさま次の曲へと移行していた。サポートメンバーを動員しないのは、3人が3人とも、気を抜かず緊張感を維持することを自らに課すためではないのかと思えてきた。


そして本編ラストは、『Can't Stand Losing You』~『Roxanne』という、ファーストアルバム『Outlands d'Amour』からの2曲だった。前者は自殺をテーマとし、後者は売春婦のことを歌っていて、つまりはタブーに切り込んだ曲なのだが、今や歌詞の内容うんぬんよりもポリス初期のヒット曲として機能し、場内をアゲるのにひと役買っていた。曲調がアッパーということもあるのだろうが、私個人としてはポリスは後期の方が好みなので、初期の曲で場内がここまで熱くなったことに、いい意味での違和感を感じていた。





さてアンコールだが、まずは『King Of Pain』でスタート。普遍性を感じさせる曲で、個人的にはポリスの到達点ではないかと思っている。アラニス・モリセットが『MTV Unplugged』の中でカヴァーしていることが、一瞬頭をよぎった。そしてファーストからの『So Lonely』を経て、永遠不滅のアンセム『Every Breath You Take』だ。私はスティングのライヴを1度だけ、94年に観ている。そこでもポリス時代の曲はいくつか演奏されていたのだが、この曲はイントロなしでいきなりスティングが歌い始めていた。シンプルではあったが、やはり違和感があった。


ここではアンディ・サマーズのギターのリフによって始まり、より原曲に近いアレンジになっていたので、そのことにほっとした。歌詞は純粋なラヴソングのようでもあり、また一方ではストーカーの心理を歌ったようにも思えるが、とにかくこの曲が全米チャートで8週に渡ってトップの座に君臨したのは、イギリスのバンドとしてはビートルズに匹敵する偉業と言っていいはずだ。90年代にはパフ・ダディ(当時)の『I'll Be Missing You』に引用されてやはり大ヒットし、その年のMTVアウォードでダディとスティングが共演した映像が、頭の中によみがえってきた。


演奏が終わると、スティングとスチュワートはすばやくステージを後にしたが、アンディ・サマーズだけがステージに残った。アンディは客にもっと聴きたいかい?的なアプローチをし(これお約束なんだろうな、きっと)、もちろん場内は歓声でそれに応える。やがて2人もステージに舞い戻り、最もパンク色の濃い曲『Next To You』で弾け、ライヴは終了した。最後はスチュワートも前方に出てきて3人が肩を組み、挨拶をした。3人横並びになると見事なまでにデコボコなトリオだが(笑)、しかしつかず離れずでなかなかいいユニットだと思う。





解散/活動停止したバンドはいくつもあって、その後再結成を果たすバンドとそうでないバンドとにくっきりと分かれている(たとえば、スミスの再結成は今のところまず望めない)。ポリスの場合は、スティングがソロで大成功を収めている以上、絶対に後者だと思っていた。それが、去年突如再結成の報が流れ、グラミーのオープニングライヴを『Roxanne』でかまし、世界ツアーに繰り出し、各地のフェスティバルにも出演。そして今年になり、ついに来日が実現してしまった。死んでしまった人のライヴは何をどうやっても観ることはできないが、解散したバンドについてはこういうことが起こりうる。私はポリスの再結成を歓迎したし、この日この場にいられたことを嬉しく思っている。




(2008.2.17.)
















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