Rage Against The Machine 2008.2.9:幕張メッセ国際展示場ホール

天気予報では午後から雪とされていた。午後3時前に幕張に着いたのだが、幸いにしてそのときはまだ雪も雨も降ってはいなかった。今回の会場は幕張メッセの1番ホールから3番ホールで、物販とクロークはその隣の4番ホールに設置されていた。待ち行列が既にかなり伸びていて、私が並んだのは7番ホールの辺り。やがて時間になり少しずつ列が進み、約1時間後には狙っていたTシャツとタオルを無事購入することができた。


自分の年齢や体力から、今回は後方でのんびり楽しもうと思っていた。しかし私が手にしているチケットの整理番号はなんと10番台で、つまりは最前列が狙える番号だった。それでもぎりぎりまで迷っていたのだが、ゲートをくぐると自然に体が動き、ステージに向かって突っ走っていた。結果、ステージ向かって左側の最前列をゲット。ライヴ中はかなりの激しさに見舞われるのを覚悟しつつ、開演時間になるのをじっと待った。





BGMが1曲終わる毎にフロアから歓声が湧く中、定刻より約20分ほどが過ぎたところでついに客電が落ちた。ステージに視線をやると、黒地に赤の☆マークが描かれた幕がバックドロップにせり上がってきた。そしてメンバー4人が、向かって左の袖の方からゆっくりと歩いてくるのが見えた。やがてステージが明るくなり、4人の姿が確認できるようになった。第一声は、やはりザック・デ・ラ・ロッチャによる例の一言だった。











「Good evening!!」





「We are Rage Against The Machine from Los Angels, California!!」











以前と変わらぬザックのMCに場内が沸き、そしてライヴは『Testify』で幕を開けた。いきなりの爆音にまず耳が圧迫され、そして久々にラウドなバンドのライヴで最前列に陣取った私は、まず周囲の凄まじい状況を確認し、この中で自分が如何にして楽しむかということに神経を使った。スタンディングに慣れていない人も少なくなかったらしく、柵の外に陣取っているセキュリティーが早くも活動開始。女性を中心に次々に引っ張り出されて担がれていた。後方から押しまくられてかなりキツい状態ではあったが、それでも私はなんとか自分のポジションを確保した。


続いては『Bulls On Parade』~『People Of The Sun』となり、ここで一層フロアの暴れっぷりが凄まじくなり、モッシュは激しく、そして頭上には早くもダイヴを敢行する若者が飛び交い始める。しかしフロアばかりに気を取られているわけにもいかないので、ステージに意識を集中。メンバーは不動の4人で、立ち位置も以前と変わらず、ザックが中央、向かって右にギターのトム・モレロ、左にベースのティム、後方にドラムのブラッドが陣取るという具合だ。ステージは会場の広さに比してかなりコンパクトで、両サイドにスクリーンが設置されていた。


見た目的には、まずザックの風貌がかつてのドレッドヘアからアフロヘアへと変貌し、彼らが敬愛する革命家のチェ・ゲバラに近くなったような印象を受ける。その風貌は雑誌で既に見ていて、ザック太ったのかなと思っていたのだが、体型自体はむしろほっそりとしていた。トム・モレロはベージュのアーミー柄シャツをまとい、キャップをかぶっている。ティムは坊主で上半身をあらわにしていて、肩口から背中にかけて広がるグリーン地のタトゥーも以前のまま。ブラッドは髪がショートでパーマがかかっているようにも見え、そして口元にヒゲをたくわえていた。





トムとティムとがギターとベースを寄せ合うようにして始まった、『Bomb Track』。私のポジションがティム側ということもあり、この人のベースリフがとてもクリアにそしてパワフルに聴き取れる。このバンドは、どうしてもトリッキーなギターのトムとメッセージ性の強い ヴォーカルのザックとに注目が集まってしまいがちだが、上体を反らすようにしてベースを操るティムのプレイも必要不可欠なのだということを、改めて思い知らされる。


ではフロントマンのザックはというと、以前と少しも変わらぬ、いや以前を凌ぐかのような気合の入りようで、観ている方がすっかり圧倒されてしまった。ザックはハンドマイクで歌いながらステージ上を右に左にと自在に動き回る。グリーン・デイのビリー・ジョーもよく動く人なのだが、あの人は戦車が走るように動きに重厚さがあるのだが、ザックは身のこなしが俊敏で、風のようにナチュラルに移動している。このキレ味のよさは、恐らく他のヴォーカリストがマネしようと思ってもなかなかできないはずだ。


そしてツートップの一角であるトムだが、この人のユニークなプレイは観ていて面白く、飽きることがない。例によってギターを抱えるようにかなり高めの位置で弾き、アーミングを駆使し、フレットを押さえる指を前後に動かし、そしてザックと呼応してジャンプもこなす。生々しく泥臭い音も出すが、金属音に寄った音も発し、自分の体の一部のように自在にギターと音そのものを操っている。





曲は『Vietnow』~『Bullet In Your Head』と続き、メンバーのプレイが随所に冴え渡る。ティムのバックヴォーカル、ブラッドの重厚かつ緻密なプレイはもちろんだが、中核はやはりツートップだ。ザックのヴォーカルとトムのギター、このコンビネーションがあまりにも絶妙で、両者の見せ場が交互に入れ替わり、それが違和感もなくナチュラルに進行している。見事すぎる。ザックもトムもそうだが、ステージのへりに設置されているスピーカーに何度も足を掛け、その上に立ってプレイしていて、こんなに前へ前へと出てくる人たちだったっけ?とびっくりしてしまった。というより、彼らがそうせざるをえないほど世の中は病み、間違った方向に進んでしまっているのかもしれない。


『Know Your Enemy』では「All of which are American Dreams !!」というフレーズが連呼され、オーディエンスももちろんそれに応える。カヴァー曲である『Renegades Of Funk』も披露されていて、思えば『Renegades』はザック脱退とほぼ同時期にリリースされていたので、『Kick Out The Jams』などは先行してライヴ演奏されてはいたものの、そこからの曲がライヴで披露されるのは、今回の再結成以降となるのだろう。今回のツアーは以前の曲のみで新曲はないのだが、これだけバンドの状態がよければ、この後新作が作られることも十分に期待できる。


格闘技プライドのテーマ曲でもあった『Guerrilla Radio』では、場内のリアクションがひと際よかった。原曲はドラムのイントロで始まるのだが、ライヴではトムがディストーションをかけたギターのリフで始まり、そしてザックのヴォ−カルが炸裂するという流れになっていて、これもライヴパフォーマンスならではである。『Sleep Now In The Fire』ではザックはマイクスタンドを用意してスピーカーに置き、自らもその上に立って直立不動で熱唱した。そして本編ラストは、意表を突いた『Wake Up』だった!演奏を終えると、ブラッドがドラムスティックをフロアに向かって勢いよく放り投げた。





ライヴそのものがあまりに激しすぎたこともあってか、アンコールを求める歓声はさほどでもなかった。更に求めるというより、次に備えての一時的な休息に充てられたかのような間になった。そして4人は再びステージに生還。『Freedom』でアンコールが始まり、フロアは再び凄まじい状態になった。最後のときが近づいているので、ダイバーも次から次へと前に押し寄せ、セキュリティーは彼らをうまく受け止めて受け流すようにしている。最前列に構えて体がステージの方を向いていると、どこからダイバーが来るかは認識できないのだが、セキュリティーの動きを見ることで予測をし、彼らが来たときにはうまく誘導するのだ。


レイジの曲は、曲中に無音になる瞬間があってそれが溜めになり、次に爆音が炸裂するための発射台の役割にもなっている曲が少なくないのだが、『Freedom』はまさにその典型的な曲と言っていいと思う。それがライヴの場ではなおさらのことで、ザックとトムがほぼ同時にこれでもかとばかりに飛び跳ね、縦横無尽にステージを走り回る。このキレの良さは、私が初めてレイジを観た97年のフジロックのときから全く変わっていない。そして演奏は切れ目を作らず、メドレー式で『Killing In The Name』へ。フロアの状態はいよいよ過激になり、一方のバンドもこれが最後とばかりにパフォーマンスの熱をアゲる。


終盤、ステージに設置されているスポットライトがフロアに向けて閃光し、4人はそのライトを背負う形でオーディエンスと向き合っていた。演奏が終わるとザックが右手を挙げ、やがて他のメンバーもザックの元に歩み寄ってきた。ブラッドは再びスティックを放り投げ、シャツを脱いで逆三角形の上半身をあらわにしていた。かなりの筋肉質で、腹筋が割れていた。4人は肩を組み、挨拶をしてステージを去って行った。客電がついたとき、フロアからは拍手が起こった。素晴らしいライヴをしてくれたバンドに対する感謝の気持ちが、自然にそうさせたのだ。





レイジの曲も演奏も、発せられるエネルギーも、その効力も、以前とまるで変わってはいなかった。しかし、変わったこともある。特にザックとトムに見受けられたのだが、ライヴ中に何度となく彼らは笑みを浮かべていた。特にザックが日本語で「アリガトウゴザイマス」と言ったのにはびっくりしてしまった。レイジは基本的に「怒り」の姿勢を前面に打ち出しているバンドなのだが、それが過ぎていたがために彼らは息切れしてしまい、休息の期間が必要となったのだ。今の彼らはただ突っ走るだけでなく、自らをセーブしコントロールする術を身につけたのではないだろうか。この再結成が期間限定なのか永続的なものになるのかはわからないが、後者であってほしいと願うばかりである。




(2008.2.10.)






























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