浜田省吾  The Second Show/Encore

幕には映像が映し出されたが、それはショートムーヴィーだった。東京から地方に引っ越してきた家族~小泉今日子演じる母、小学生の息子健一、幼稚園の娘。事情があるらしく父はいないが、父の持ち物だったスティーヴィー・ワンダーのレコード『A Place In The Sun』を、健一は愛聴していた。小学校に行き、転校生として紹介される健一。早々にガキ大将に目をつけられるが、体育の徒競走で健一は彼に競り勝ってしまう。


当然ガキ大将は面白くなく、放課後健一を呼び出して挑発し、橋の欄干の上を歩いて渡るという度胸試しをするハメに。慣れているガキ大将は難なく渡り切るが、健一は欄干の上に立ってはみたものの、足がなかなか進まない。そんなとき、彼は『A Place In The Sun』の歌詞を口ずさみながら歩き始めた。そして、少し離れたところからそれを見ている少女。彼女は、健一の隣の席に座っていた女の子だった。その後、妹を幼稚園から迎えて帰る健一を、待ち構えていた少女。彼女も、『A Place In The Sun』を知っていた。





小学生同士が『A Place In The Sun』で話題を共有するなんて、そりゃいくらなんでも無理あるだろと心の中でツッコミを入れていた(笑)そのとき、幕が上がり演奏が始まった。『初恋』で、浜田自身の初恋はロックンロールだったんだ、という曲だ。バックには曲の歌詞が上下左右ランダムに流れ、そこには「Beatles」~「Bob Dylan」~「Beach Boys」~「Bruce Springsteen」~「Jackson Browne」と、浜田が影響を受けた偉大な先人たちの名(そして彼らの曲名も)が浮かび上がった。


畳み掛けるように『Big Boy Blues』を放ち、第二部はテンポを落とさず勢いを重視したステージにするようだ。また、この人のライヴでは恒例になっている客の年齢層チェックも、今回は曲の最中に行われた。演奏をバンドメンバーに任せ、浜田が客に向かって呼びかける。オレはみんなの年齢を知りたいわけじゃない、皆さんひとりひとりが、自分が生きてきた年月に誇りを持ってほしいんだ~。そう言って始まったが、最も多かったのは、過去私が参加した2回のライヴでは30代だったが、今回はそのひとつ上の40代だった。これも、浜省ファンのコア度が浮き出た格好だろうか。


そして『Thank You』~『I Am A Father』という、もっかの最新作である『My First Love』からのヒットチューンが連射。ミディアムな前者でさえ既に相当なヴォルテージだったが、アッパーな後者では更に場内の熱が上がった。バックには時任三郎らが出演するPVが流れ、それが熱唱する浜田ともシンクロする。場内は、当然の如くこの日何度目かの大合唱となった。浜田のようにキャリア30年を数えている人であれば、往年の名曲にこそファンの思いは偏りそうなものだ。実際この人は、諸手に余る名曲を生み出してきている人だし。それなのに、現在の浜田が手掛けたこの曲がファンに支持され歌われているというのは、まさに奇跡的な瞬間だったと思う。


今度は、原曲とは異なるアレンジでの『J.Boy』だ。サビになると場内が一斉に拳を振り上げるのだが、私はこのとき、日本という国と、自分が日本人であることの意味を自問自答する。原爆を落とされ戦争に負けた国、戦後復興し這い上がって経済大国に成り上がった国、日本。しかしこの国に、ほんとうの幸せはあるのだろうか、全身全霊を尽くして打ち込める「何か」を、自分は持っているのだろうか、と。そして本編ラストは『家路』で締めくくられ、浜田とメンバーは客席に手を振りながらステージを後にした。





客席から発せられていたのは省吾コールと拍手だったのだが、それがいつのまにか、「オーーッオオーーーッ」という『J.Boy』のイントロのリフを口ずさむ合唱になっていた。そして、メンバーが生還しアンコールへ。Tシャツに着替えた浜田はしばし客の歓声を楽しみ、それを鎮めると『ラストショー』を歌い始めた。客電はつけっ放しで、スクリーンには客席の様子がランダムに抜かれていた。更に、電撃のイントロで『Money』が始まった。この曲では何度か「ワーーーオーーーッ」とシャウトするところがあるのだが、ここまで来るともう何でもアリ状態になっていた。後ろの兄ちゃんはずっと歌いっぱなしだし、ひとつ置いて隣の中年女性は号泣していた。


セカンドアンコールは、アコギでのスローナンバー『君と歩いた道』で始まった。スクリーンにはPVが流れていたが、老人が過去に想いをめぐらせ、また田んぼの中の道をさまざまな世代の男女が歩くという、優しさと温かさに満ちた内容になっていた。そして、締めくくりは『ラストダンス』。演奏を終えると、浜田とメンバーはステージ前方に整列し、礼をしてステージを後にした。





客電がつき、ライヴ終了を告げる場内アナウンスが流れたが、客席からは再び「オーーッオオーーーッ」というコールが自然発生し出した。この状態がややしばらく続いたのだが、するとなんと、再び客電が落ちたのだ。浜田とメンバーがみたび生還し、そして今度こそオーラスの『日はまた昇る』が始まった。スクリーンには映像が流れ、それはやがて砂漠の真ん中を通る1本の道、つまりライヴのオープニングのときに流れていた映像に帰結していた。こうして、計3時間にも渡るライヴが幕を閉じた。








この日のライヴで何が感動的だったかと言って、それは浜田の「姿勢」だ。人は挑戦することをやめたときに老いるのだと、アントニオ猪木は自身の引退セレモニーの中で言ったことがある。きっと井上陽水や山下達郎や佐野元春もそうだと思うのだが、自分がこれまでやってきた実績に依存し安住の地に留まることなく、ステージに立ってオーディエンスと向き合い続ける。それはまさに「挑戦」であって、その困難な道を敢えて選択する浜田省吾の姿にこそ、私たちオーディエンスは、いや恐らくはバンドメンバーも、そしてスタッフも、この人の虜になってしまうのだ。













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