My Little Lover 2007.5.7:Shibuya-AX

キャリアはもう10年を超えているマイラバだが、このユニットはそもそもあまりツアーを行わない。これはakkoの産休や子育ても関係しているだろうし、公私共にパートナーでもある小林武史のプロデューサー業との兼ね合いもあるからだろう。それが昨年末、ユニットではなくakkoのソロプロジェクトとして活動することが宣言され、新譜『akko』がリリース。レコード会社もエイベックスに移籍し、まさにマイラバは新たな局面を迎えつつある。そしてこの日の公演は全国ツアーの初日に当たり、テレビカメラも入っていた(「Channel-a」という、エイベックスのアーティストを取り扱う音楽番組の取材だった)。





 予定時間を8分ほど過ぎたところで、客電が落ちた。まずはバンドメンバー4人が先に登場してスタンバイし、場内にはしばし静寂が。少し間を置いてakkoが姿を見せ、ここで場内は沸いた。オープニングは、新譜『akko』の冒頭の曲でもある『チャンス』。CDにせよライヴにせよ、幕開けに相応しい明るく前向きな曲調だ。更に『Travelling With Nature』~『月とプラモデル』と『akko』からの曲が続き、「新生」マイラバを強く打ち出さんとする姿勢が伺える。ステージには照明機材が設置されてはいるものの、映像関連の設備は全くないシンプルなセットだ。


 私がライヴ前から注目していたのが、バンド編成だった。もともとマイラバはakkoと小林、そしてギタリストというユニットだった。ギタリストは既に脱退済で、今回は小林も参加していない(この日会場には来ていたらしい)。メンバーはギター、ベース、ドラム、キーボードという編成だったが、まず驚いたのがベースがロザリオスのTOKIEだったことだ。akko以上に細身で華奢な体なのだが、上体を小刻みに揺らしながら重低音を発し、また曲によってはスティックベースも操っていて、かなり存在感があった。というわけで、帰宅後他のメンバーの経歴も調べてみたのだが、ギタリストは石井竜也や渡辺美里などのサポート、キーボードはゆずやミスチルなどのサポート、ドラマーは元パール兄弟、と、それぞれが腕に覚えのあるセッションミュージシャンであることがわかった。


 そしてakkoだが、黒いスリップドレスをまとい、大人っぽさと少女っぽさが同居する、これまでのイメージを崩さないたたずまいだった。曲により部分的に声がかすれるところもあったが(初日だから仕方ないのかな)、ここぞというときに放つ声量の大きさは抜群。そしてびっくりしたのはその存在感の大きさで、オーラを発する日本人アーティストを久しぶりに見た気がした。ステージ上には実はもうひとりいて、それはコンピュータープログラミングを担う人だった。私のところからは、機材に隠れてその姿はまるで見えなかったのだが、打ち込み音はもとより女性コーラスの音もこの人がコントロールしていて、akkoの歌にうまく合わせてハーモニーを成り立たせていた。





 akkoは、合間合間で適度にMCを入れていた。その話題は、ドラマーがドーナツ好きであることとか、マネージャーが新宿のドーナツ屋に並んで買ってきたこととか、グッズにもなっているタオルハンカチのこととかだった。前の方に詰めている客はランダムに声援を飛ばしていて、akkoも可能な限りそれに応えていた。そうしたコミュニケーションを大事にする人、というよりもっともっと求めている人、という印象を受けた。客の年齢層は思った以上に高く、30代が中心といったところ。40代以上と思しき人も決して珍しくなかった。男女比もほぼ半々で、意外に男性にも支持されていることがわかった。


 中盤も『akko』からの曲が中心となっていたが、そうした中にかつての曲も織り交ぜられる格好になっていて、有名どころでは『Animal Life』や『Yes』など、他には『新しい愛のかたち』や『午後の曳航』といった辺りが披露された。ただそれでも、輝きを放っていたのは『akko』の先行シングルだった『りぼん』、そして最新シングルの『あふれる』だった。前者はまさに現在のマイラバ=akkoのテーマ曲的な位置づけにあると思うし、後者はドラマの挿入歌として起用されていて、番組内で告知されたプレゼントでは、主題歌だったクレイジー・ケン・バンドよりも応募が多かったのだとか。ライヴ終了後、私の頭の中に焼きついて離れなかった曲は『りぼん』だった。





 いよいよ大詰めで『Hello, Again』となるのだが、ここでも私は驚いた。恐らくマイラバを代表する曲として君臨する名曲だと私は思っていたのに、それがいともあっさりと披露されてしまって、更には客のリアクションもさほどでもなかったからだ。間違いなくライヴのクライマックスになるであろうと予想していたのに、むしろ「お約束」「予定調和」的な雰囲気が漂っていた。お次がakkoのMCを経た形での『Delicacy』で、ファースト『Evergreen』からのセレクトということに場内は沸き立った(ここについて、小林のスキャンダルに引っ掛けた報道もあったが、その場にいて聴いた身としてはそういう生々しさはなかったし、勘繰りを喚起させるような雰囲気もなかったと言い切ろう)。


 そしてクライマックスは、実はこの後にやって来た。本編ラストとなったファーストのタイトル曲『Evergreen』で、キーボードによるイントロのリフが流れ出したところで、既に場内がざわつき出した。マイラバの魅力は、時空を超えたかのような普遍性を表現できていることだと思っているのだが、ではあってもシングルカットもされていないこの曲が、ここまで支持されているとは思っていなかった。ラストのコーラスは場内の合唱となり、曲が終わったときに沸き起こった拍手と歓声は、この日の中で最たるものだった。思うにこの曲は、ドリカムにとっての『未来予想図Π』に当たるような、真にファンに支持されている曲なのではないだろうか。


 アンコールでは、akkoはグリーンのドレスに着替えて登場し(あるいは黒のドレスの上から着ていたのかな)、曲は『Man & Woman』。元気印の明るくアッパーな曲調で、もしかしたらアンコールを切り出すのはいつもこの曲なんじゃ、と想像してしまった。そしてオーラスは、『akko』のラストナンバーでもある『いとしい毎日』。しっとりとした曲調の中に奥行きを表現できているのはマイラバとしてはお手のもので、まさにライヴを締めくくるに相応しい曲だったと思う。最後はメンバーがひとりずつ演奏の手を止め、ステージを去るという演出になっていた。ドラマー、ベース、キーボード、とステージを後にし、akkoとギタリストだけが残って、最後まで歌と演奏を続けた。





 マイラバが出てきた当時、私は洋楽にどっぷりと浸かっていたにもかかわらず衝撃を受け、以来ライヴを観たい観たいと長年思い続けてきた。この日ついにそれが叶ったわけだが、ライヴの出来としてはぎりぎり及第点かなあというのが正直なところだ。akkoのMCは、話題にしても間の取り方にしても持って行き方にしても、お世辞にも上手いとは言えなかった。むしろMCは最小限に留めて、もっと演奏に徹した方がより引き締まったライヴになったと思う。他のアーティストがうらやむくらい名曲を量産してきているのだし、この日披露されなかった名曲は数多くあったのだから。





(2007.5.10.)


















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