U2 2006.11.29:さいたまスーパーアリーナ

ボノがゆっくりとステージに戻り、そして始まったのは『Bad』だった。派手さも強烈なインパクトもないが、ジ・エッジの優しく心地いいリフと、ボノの穏やかなヴォーカルとが見事に溶け合っている隠れた名曲だ。そしてボノのヴォーカルは終盤になると徐々にエモーショナルになり、ラストになると『"40"』の一節を歌った。「how long sing this song~♪」、つまり「いつまでこの歌を歌わなければならないのか」という、悲しみに満ちたメッセージを。そして、このリフレインが終わるか終わらないかというときになって、衝撃が走った。


ダダダダッ...ダッ...ダッ...ダダダダッという、ラリーによる緻密にして強烈で圧倒的なドラムのリフ。『Sunday Bloody Sunday』だ。母国アイルランドで起こった「血の日曜日事件」をモチーフに作られた曲で、この曲でもやはり「いつまでこの歌を歌わなければならないのか」と歌われる。この曲は『WAR』の冒頭であり、『"40"』はラストの曲で、つまりこの2曲はつながっているのだ。それをライヴの場でこうした形で披露されたことに、すっかりヤラれてしまった。


ボノは『Bad』のときに手にしていたハチマキを巻いて歌い、そして終盤にはクラッシュの『Rock The Casbah』の一節を交えながらメッセージを発した。「I'm coexist」と。ハチマキには、星のような記号も混ざっていたが「COEXIST」と書かれていて、スクリーンにはその日本語訳である「共存」の文字が大きく浮かび上がっていた。この人たちはなんと生真面目で、そしてなんとカッコいいのだろうと、改めて思い知らされた。わかっていたことのはずなのに。





反戦メッセージは緩まることがなく、それどころか更に徹底される。今度は『Bullet The Blue Sky』で、スクリーンには滑走する戦闘機が映し出され、そして各地での爆撃や戦闘といったシーンが捉えられる。この曲の終盤には『When Johnny Comes Marching Home/ジョニーが凱旋するとき』というアメリカ民謡、及び『The Hands That Built America』(映画「ギャング・オブ・ニュー・ヨーク」に提供した曲)の一節が織り交ぜられ、ボノは歌いながら向かって右の花道の先端に行き、しばし這うような動きをした後に発炎筒に火をつける。炎が妖しい光を放ちながら燃え、それが鎮火したときに次の曲が始まった。


ステージはジ・エッジひとりだけになっていて、そしてギターではなくキーボードを弾いている。一方花道のボノは、『Miss Sarajevo』を切々と歌い上げる。パッセンジャーズ名義でブライアン・イーノらと作り上げた曲であり、そのハイライトは原曲ではルチアーノ・パヴァロッティによるハイトーンヴォイスだ。しかしこの場では、パヴァロッティのところもボノが歌い上げ、そのヴォーカルはパヴァロッティに勝るとも劣らない見事な熱唱ぶりだった。そして歌い終わり、ボノがゆっくりとステージに向かって戻っていく。するとスクリーンには、大きく「世界人権宣言」の文字が浮かび、続いて第1条から第6条までの全文が日本語で流れ、女性の声で英語で読み上げられた。





そして『Pride (In The Name Of Love)』だ。この曲は単なるキャッチーなヒット曲ではなく、公民権運動を指導しベトナム反戦を訴えていたマーティン・ルーサー・キング牧師のことを歌った、とてもシリアスな曲だ。延期される前の本来の日本公演は、4月4日に日産スタジアムで予定されていた。4月4日はキング牧師が暗殺された日で、その日に公演が行われることにはとてつもない意味が備わるはずだった。しかし公演が延期になったとはいえ、この曲をこうした流れで披露されると、曲そのものが持つ重みが一層伝わってくるものがある。


そして再び、ボノからのメッセージ。欧米の平和、アジアの平和、そして、アフリカの平和・・・。始まったのは、ジ・エッジのディレイの効いたリフが印象的な『Where The Streets Have No Name』だ。スクリーンは縦にいくつかに分割され、まずアフリカ大陸が浮かび、それを挟みこむようにアフリカ諸国の国旗が、下から上へと流れていく。これを見て、あの映像が頭に浮かんだ。9.11アメリカ同時多発テロ事件の翌年に行われた、アメリカンフットボールの最高峰、スーパーボウルのハーフタイムショウでのU2のステージだ。


悲惨で衝撃的な事件が起こってしまい、それを引きずっていた世界。しかしU2は目を反らすことなく、真っ向から受けて立った。その象徴的な場面が、あのステージでのこの曲だった。終盤になるとボノは上着を広げてみせ、インナーの星条旗を披露した。そして後方のスクリーンには、テロ事件で亡くなった方や行方不明の方の名前が、次々に映し出され流れて行った。ロックには力がある、何かを起こすことができるはずだと、観た人が感じた瞬間ではなかっただろうか。テロからは5年、このときのステージからも4年半が経っているが、U2の立ち位置は全くブレていないのだ。





そして今までの騒ぎを冷ますかのように、場内が暗転。携帯電話をつけてくれ、クリスマスツリーを作るんだというボノのメッセージに従い、オーディエンスは携帯を手にし、そのライトをかざす。アリーナもスタンド席も携帯の光に包まれていて、それらが微妙に揺れていてとても綺麗だった。曲は『One』。ボノは胸元に「ONE」とプリントされたTシャツを着ていて、ギターを弾きながら切々と歌い上げる。左右上部のモニターには、各国語での「ONE」が表示された。


ボノのことばではないが、携帯電話の無数のライトにより、ほんとうにクリスマスツリーが出来上がったような気になった。ひとりひとりは小さくても、皆が力を合わせてひとつになれば、それは大きな力となり、そしてそれは正しく使われなければならないという、U2からのメッセージだと私は感じた。演奏が終わり、今までドラムセットに陣取っていたラリーも前の方に姿を見せ、4人が並び礼をして、本編が終了した。スクリーンには、大きく「1」と表示されていた。
















to be continued ...

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