Eric Clapton 2003.11.23:日本武道館

個人的には90年以降のエリック・クラプトンの来日公演を欠かさず観ていて、今回が9回目となる。今まではほとんどがスタンド席だったが、今回は武道館のアリーナ席、しかもAブロックのチケットを手にすることができた。つまりは、この日が私にとって最もクラプトンに近いポジションでライヴを体験できることになる。席に着いて周囲を見回してみると、東西の2階席のへりに電光掲示板ができていて、ウドー音楽事務所が主催する今後のライヴの告知がされていた。そしてステージの両サイドには、今回のツアーのロゴ看板が掲示されていた。





 予定より10分近く遅れて客電が落ち、ステージ向かって右の袖の方からメンバーが登場。クラプトンは3番目くらいに姿を見せたのだが、既にストラトキャスター「ブラッキー」を肩から提げており、早くも臨戦態勢に入っていた。オープニングは、デレク&ドミノス時代の『Tell The Truth』だ。今回のツアーはクラプトン以外に2人のギタリストがいて、ひとりは左利きのドイル・ブラムホールΠで、クラプトンと並びヴォーカルも披露。そしてもうひとりのデレク・トラックスは、早くもスライドギターを炸裂させていた。


 3年ぶりの来日公演だが、今回はバンド編成が前回までとは大きく様変わりしている。上記の2人のギタリストのほか、ベース、ドラム、2人のキーボード、2人の女性コーラスという編成だ。断続的にツアー参加している「準レギュラー」的存在のクリス・ステイントンこそキーボードのひとりとしているが、ネーサン・イーストやアンディ・フェアウェザー・ロウ、スティーヴ・ガッドといった、お馴染みの面々の姿は今回はない。そして今回のベーシストやドラマー、もうひとりのキーボード、女性コーラスは、全て黒人プレーヤーだ。


 曲はブルースナンバーの『Five Long Years』から、ドミノス時代の『Got To Get Better In A Little While』となる。当然ながらクラプトンがメインで、ヴォーカルのほか間奏で泣きのギターをこれでもかとばかりに披露する。しかし、ドイルやデレクの見せ場というのもちゃんと用意されていて、彼らも遠慮なくソロプレイを炸裂させる。クラプトンの、ソロとしては初のトリプルギター編成というのが今回のツアーの看板とされていたが、それは3人のプレイがぶつかり合うバトルではなく、誰かひとりがメインになったときに他の2人がサブに回るというスタイルだった。


 『Journeyman』からの渋いブルース『Old Love』を経て、名作『461 Ocean Boulevard』からの『Motherless Children』へ。ここでの軽快なスライドギターは、クラプトンの指先によるものだった。ステージセットは鉄骨もなく、ライトやスピーカーもかなり上部に設置され、ステージ上のメンバーの動きが観易い、開放感に溢れた風通しのいい作りになっていた。後方には横長の蛍光灯が縦に並べられたセットが10基設置され、曲にシンクロしてカラフルに閃光していた。バックドロップは、カーテン風に布が張り巡らされ、その合間合間にスポットライトが覗いていて、ステージを鮮やかに照らしていた。





 続いてはステージに椅子が用意され、アコ−スティックコーナーに。まずはクラプトンひとりだけで『Driftin' Blues』を切々と披露。1万人のオーディエンスの視線がたったひとりとなったクラプトンに集中する。続いては『Key To The Highway』となり、デレクがドブロ、ドイルがブルースハープで参加。ドブロのボディが光に反射して、結構まぶしかった。更に『Outside Woman Blue』になるとドイルはギターに持ち替え、そしてベースとドラム(ドラマーはパーカッションだったかな)も参加し、アコースティックセットというよりセッション風にシフトしていった。


 『Nobody Knows You When You're Down And Out』になると、残りのメンバーも戻ってきてバンドはフル編成に。リラックスした雰囲気が漂う中で、心地よい音色が場内に響く。そしてこのセットの締めくくりは、『Journeyman』からの『Running On Faith』だった。個人的には、初めてこの人のライヴを観たのが90年の武道館で、それは『Journeyman』に伴うツアーだったので、そのときのことを少しだけ思い出し、嬉しくなった。





 さて再びエレクトリックに戻り、曲は『After Midnight』。ブルージーでありながらポップで小気味よく、本来ならもっと頻繁に演奏されていい曲のはずだが、日本で披露されるのは随分久しぶりになると思われる。続くは、クラプトンが敬愛して止まないロバート・ジョンソンのナンバー『Little Queen Of Spades』。そして、次の曲『Anyday』こそが、この日のライヴのハイライトだった。


 前半こそクラプトンが歌いながらギターを弾くというノーマルなスタイルだが、間奏になったときに今回のバンドの力量が随所に発揮された。クリス・ステイントンのキーボードソロ、ドイルのギターソロ、ベースソロ、もうひとりのキーボードソロと、目まぐるしく主役が交代し、ソロを任されたプレーヤーたちは気負うこともなく自らの技量を披露する。このときのクラプトンは、バンドを牽引するリーダーではなく、バンドをまとめるオーガナイザーだった。この曲1曲で恐らく10分以上は繰り広げられ、この日演奏されたどの曲よりも長く、しかし最も密度の濃いパフォーマンスになったと思う。





 この後はさすがに定番ナンバーのリレーとなる。『Wonderful Tonight』はシンプルなアレンジでの演奏で、かつてのツアーでは女性コーラスがエモーショナルなヴォーカルを披露して見せ場を作ったことがあったが、今回の女性ヴォーカルはバックコーラスに徹していた。そしてあの電撃のイントロが轟き『Layla』が始まると、ここまで着席していたアリーナ席のオーディエンスが総立ちになった。歌い出しまでのリフはクラプトンが弾き、歌が始まるとデレクのスライドギターが冴え渡った。更にはドイルのギターも絡んで、この日唯一3者によるバトル風のプレイが繰り広げられた。


 中盤のキーボードによる優しい音色を経て再びギタープレイが延々と繰り広げられたが、ラストをきっちりと演奏し切ることはなかった。クラプトンがドラマーの方を向いて合図をし、それを受けたドラマーが刻んだビートをキーにして『Cocaine』になだれ込んだ。終盤の延々としたプレイを経て、最後は1万人のオーディエンスによる「Cocaine♪」という大合唱で本編が締めくくられた。アンコールは、クリーム時代の名演が際立つ『Crossroads』だったが、ここではクリームバージョンほどハードではなく、といってロバート・ジョンソンの原曲のようにゆったりともしておらず、その中間のようなアレンジだった。





 バンドのメンバーが一新され、その多くが黒人プレーヤーだったということもあるのか、演奏は全般的にダンサブルだったように思えた。そして2人の若きギタリスト、デレクとドイルは、終始嬉々としてギターを弾いていた。デレクは自身のバンドとしても活動するほか、オールマン・ブラザーズ・バンドの一員でもあるそうで、フレットを立て気味にしトム・モレロばりに抱え込むようにしてギターを弾く姿がりりしかった。一方のドイルは、かつてはチャーリー・セクストンとユニットも組んだことがあり、もちろんソロ活動も並行していて、クラプトンとは2004年から共に活動をしているとのこと。受けた印象としては、デレクの方がテクニカルにギターを操り、ドイルはギターと一体化しているかのようにナチュラルにプレイしているように見えた。


 2000年代のクラプトンは、実は結構アルバムをリリースしているのだが、今回そこからの曲がほとんど演奏されなかったというのは、普通に考えれば異様なことだ。そればかりか、ここ数年のツアーでは定番とされていたような、往年の名曲や90'sに生み出されたヒットチューンも、極力廃されていた。では今回のツアーのテーマは何だったのかというと、それは「セッション」だったと思う。クラプトン自身元々セッション好きということもあり、自身のツアーの合間にもあちこちのフェスやイベントに出演していて、それらは頻繁に商品化されている。そのセッションの要素を自らのツアーに持ち込み具現化させたのが、2006年型クラプトンなのだ。


 数年前、本人自ら「残された時間はボーナスのようなもの」と言っていたにもかかわらず、この日のクラプトンを観た限り、この人が余生を送るフェーズに入っているとはとても思えない。むしろ以前よりも若返った感があるし、攻めのモードだったように思える。私はこの人のギタープレイについて、上体を反らしのけぞるようにして弾くというビジュアルイメージがあった。しかしこの日のクラプトンは終始前傾姿勢で、足を一歩踏み出してギターを弾いていたのだ。




(2006.11.24.)
















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