Mogwai 2006.11.11:Studio Coast

「僕らに後日データを送ってくださる方は、本日のライブを自由に携帯でビデオ撮影してください。データの送り先はxxxx@xxxxxxxxxxxx.com Thanks.MOGWAI」


 これは会場入り口前に貼り出されていた、入場のついての案内の中に併せて記載されているバンドからのメッセージだ。具体的には、携帯電話以外での撮影やフラッシュ使用は禁止とのことだが、これらをしなければライヴの撮影を公認するということである。バンド側へのデータ送信を求めているということは、そのうちオフィシャルサイトに写真が掲載されるのかな。





 定刻になり、まずはオープニングアクト。ラタタッタという、ニューヨーク出身の男性インストデュオだ。後方のスクリーンに映像が映し出され、また中央の前方からはスモークが湧き出ている。演奏は、まず打ち込み音をSEとして流しっ放しにし、ギターの人は長髪を振り乱し、上体を前後に大きく揺らしながらノイジーなリフを連発。そしてもうひとりのベースの人はほとんど直立不動で淡々と弾くという、好対照なパフォーマンスになっている。ステージは終始暗くて、2人の表情はおろかその細かい動きも判別できなかった。


 約40分の演奏で、場内は割かし好リアクションだった。確かに、初めて観る人にはそのユニークなスタイルで訴えることができるかもしれない。だけど個人的には、デス・フロム・アバヴ・1979が解散してしまい、ジャック・ホワイトがホワイト・ストライプスを休止させてラカンターズとして活動しているのを見ていることもあって、変則デュオが活動を続けることにあまり肯定的でなくなってしまっている。このデュオも、このままでは音楽的にすぐに行き詰まってしまうのではないかと思った。





 セットチェンジには15分ほど費やされ、そして再び場内が暗転。しばらくの間SEが流れ、数分が経過したところでやっとモグワイのメンバーが登場する。オープニングは『X'mas Steps』で、ドミニクによる分厚いベース音と、スチュアートの切れ味鋭いギターとが絡み合って生まれるリフが、場内に緊張感を漂わせる。リフのテンポが徐々に加速し、そしてストロボの発光とシンクロして轟音が炸裂。早くもモグワイワールドが全開だ。


 ステージは、前方向かって右からスチュアート、ドミニク、バリー・バーンズ、ジョン・カミングスの4人が並び立ち、トリプルギターの編成を成している。中央後方は一段高い壇になっていて、そこにドラムのマーティンが陣取っている。ステージはやや暗めで、しかし後方及び側面にはスポットライトが設置されていて、これらが絶妙のタイミングで閃光し、極上の空間を作り上げることに成功している。続くは『Mr.Beast』からの『Friend Of The Night』で、今度はバリーがドラムセット横に陣取ってキーボードを弾き、美しい旋律を奏でている。これも、モグワイが備える魅力のひとつだ。


 『Travel Is Dangerous』ではバリーが再びギターを弾き、トリプルギターの轟音に乗せてヴォーカルもこなす。確か『Tracy』のときだったか、自然に同化したかのようなあまりにもアンビエントな音色にオーディエンスが聴き惚れてしまい、演奏の明確な終了を把握することができず、しばし静寂した状態が続いてしまった。スチュアートが「thanks」と言ってくれたことで、ああ終わったんだなとやっと認識できたような感じだった。『I Know You Are But What Am I?』では、バリーのひんやりとした鍵盤の音色とマーティンの淡々としたドラムビートとのコンビネーションが、派手さこそないが感動的だった。モグワイのライヴは何度も観ているのだが、マーティンのドラムがかなり重要なポジションを占めているのではないかと、今回改めて思い知らされた。





 そして、中盤にとてつもなく大きなクライマックスがやってきた。スチュアートのギターを軸にし、バリーがヴォコーダーを駆使して加工されたヴォーカルを披露する『Hunted By A Freak』。このときフロアの天井から吊るされていた巨大なミラーボールがゆっくりと回り、妖しい光を放っていた。そして曲間を切らさずにあのイントロが響き渡り、場内はざわつき、そして歓喜の声があちこちから上がった。今年のフジロックでは披露されずじまいだったキラーチューン、『Mogwai Fear Satan』だ。


 上体を大きく揺らしながらギターを弾くスチュアートの姿が、なんとも気持ちよさそうだった。そのギターとドラムのビートが軸となって必殺のフレーズが繰り返され、そのたびテンポが少しずつ上がっていく。やがて演奏は穏やかなモードにシフトし、ジョンやドミニクやバリーはその手を止めていて、スチュアートによるかすかなリフと、マーティンが刻む細かいビートだけが場内に響き渡る。音が消え入りそうになったと思った次の瞬間、バンド全員が結集して発せられる轟音が炸裂し、それに寸分違わぬタイミングでステージ上のライトが閃光する。静寂が轟音へと転化する瞬間であり、モグワイが最も得意とするアプローチ。そしてオーディエンスが最も望んでいた瞬間が、このとき訪れたのだ。


 更に今度は『Glasgow Mega Snake』ときた。新譜『Mr.Beast』はバンドのキャリア集大成的な作品だと思っているのだが、そうした中でこの曲は轟音モグワイの最新形であり、ヘヴィーでありながら印象的なフレーズが聴く側にとってもわかりやすく、純粋に曲そのものとしてモグワイのキャリアにおける重要なナンバーのひとつになっていくのではと思わせる、信頼できる曲だ。演奏はヘヴィーでラウド、そしてステージ後方に聳え立つ、「M」「Y」「T」の字を合体させたかのように見える鉄骨の柱が激しく閃光した(「Mogwai Young Team」の意味だったようだ)。





 終盤は、静寂と轟音を組み合わせた『Ithica 27 0 9』、アンビエントな『Cody』などを経て、本編ラストは『2 Rights Make 1 Wrong』。曲の終盤になると、ドラムのマーティンがひと足早くステージから引き上げ、後の4人による演奏が淡々としばし続けられた。そしてアンコールだが、「今年のフジロックを締めくくった曲」である『Helicon 1』で始まり、場内からの反響も『Mogwai Fear Satan』に次ぐ大きさだった。美しい曲という印象があったのだが、かなりラウドなアレンジで演奏されていたように思えた。


 そしてオーラスは、『Mr.Beast』の実質的なラストの曲である『We're No Here』だった。重量感に溢れる曲調は、まさにライヴを締めくくるに相応しかった。しかしもっと凄かったのは演奏しているバンド自身で、おのおのが持ちうる技量を最大限にまで発揮し結集したかのようなパフォーマンスに、ただただ圧倒されるだけだった。演奏はいつ終わるとも知れず延々と繰り広げられたが、スチュアートとドミニクがまずステージを後にした。続いてマーティン、バリーがステージから去り、最後に残ったのはこれまで最も地味だったジョンだった。ジョンはしばしステージに座り込んでノイズを発した後に、やがてステージを去った。無人となったステージは、それでもしばらくの間ノイズが鳴り響き、ライトが閃光していた。その状態は、スタッフが出てきて機材のスイッチを切るまでの数分間、延々と続いていた。





 いい意味で裏切られたな、というのが率直な気持ちだ。フジロックでは静寂そのものをより追求し深化させたようなアプローチで、これはジネディーヌ・ジダンのドキュメンタリー映画のサントラを担当したことにもリンクする、バンドの現在の姿だと思った。しかしこの日のライヴは、静寂と轟音とのコンビネーションという、モグワイが本来持ち合わせている最も得意なアプローチを最大限に駆使していた。セットリスト的にも代表的な曲が漏れることなく、なおかつ新譜『Mr.Beast』からの曲を際立たせることに成功していた。純粋にライヴの出来として考えても、私がこれまで観てきた中でベストになると思う。最新型が最上級であるという、バンドとして非常に幸福な状態に、今の彼らはあると思う。




(2006.11.13.)
















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