The Dresden Dolls 2006.9.7:Duo Music Exchange

 東京1回きりのドレスデン・ドールズの来日公演だが、直前になって前座が3組も出ることが発表になった。開場とほぼ同時に入場したが、先は長いなあと思いながらのんびり構えることに。ところが、開演前の午後6時半頃になって、ステージに動きがあった。この日の司会進行を務めるオナン・スペル・マーメイドというドラァグクイーンが登場し、この人のイントロデュースに沿って、早くも2組のアクトが登場したのだ。


 まずはC・スナッチ・Zという、日本人女性ひとりだけのパフォーマー。イントロが流れている中、ステージ上を右に左にと歩き回って準備に務めていたのだが、曲(シナロケの『Lemon Tea』)が歌に差し掛かった途端、彼女はなんと前をはだけ胸を出していた。乳首をチェーンでつないでいて、その異様な見た目にまずびっくり。そして彼女は曲に合わせて口パクし、用意していたレモンにかぶりつき、大根おろしで(エアギター風に)すったりし、しまいにはフロアに向かって投げつけていた。


 続いては紫ベビードールというパフォーマーで、今年のフジロックにも出演している(調べたら、3日目深夜のパレス・オブ・ワンダーに出ていた)。まずはセーラー服のコスプレにカラフルなアフロのヅラをかぶった女性3人が登場して踊り、続いてスーツ姿の男が登場。この人がしばし指揮するような素振りをするのだが、やがて女性3人でスーツを脱がし、男はブリーフ1枚だけにされてしまって退散。残った3人だが、今度は踊りながらセーラー服を脱ぎ出し、最後は上半身裸になって終了した(乳首はニップレスで隠していた)。


 この2組のパフォーマンス、時間にすると15分にも満たなかった。そしてドレスデン・ドールズの2人、アマンダとブライアンも、ノーメイクでフロアに現れ写真を撮っていた。驚くほどオーラがなく、ふつうに私たちの中に溶け込んでいた。





 定刻の7時になり、3組目のアクトとしてバンドが登場。オグレ・ユー・アスホールという、名古屋出身の4人組だ(オナンは紹介するときにやたらと「アスホール」を強調していた/笑)。ステージには既にドレスデン・ドールズの機材、ドラムとキーボードがハの字型にセッティングされている。なのでこのバンドは、中央部の狭いスペースにドラムセットを構え、ベーシストはドラマーに寄り添うようにして弾き、ギタリスト及びギター&ヴォーカルの人がフロントに立っていた。


 ポストロックっぽいリフを連射するインスト重視の曲もあれば、ヴォーカルを主体とする正統派ギターロック調の曲もある。しかしヴォーカルの表現力は稚拙だと言わざるをえず、演奏も荒め。そして、その荒さを売りにしているわけでもないようだ。方向性が定まっていない、中途半端な印象が強かったが、それは裏を返せば今後化けるかもしれないという可能性を秘めていることにもなる。





 そして、やっとメインディッシュの番に。先立って衣装替えしたオナンのMCがあり、ネットで見つけたというインタビューを読み上げた。「バンドにおけるパートナーと、恋愛におけるパートナーとではどういう違いがあると思うか?」というクエスチョンに対し2人が答えたもので、これは音楽評論家鈴木喜之氏によるものであり、その内容はココで確認できる。そして、オナンと入れ違いになるようにドレスデン・ドールズの2人が登場した。


 2人とも白塗りのメイクをしているのだが、その2人が大きく見えたことにまずびっくりした。先ほどフロアに降り立っていたときにはとてもリラックスしていて、一般人と少しも変わらないふうだったのに。ステージ上の2人には、表現者としてのオーラがあったのだ。ブライアンは柄物のシャツ姿で、アマンダはピクシーズのTシャツを着ていた。ライヴは、ファーストアルバムの冒頭の曲でもある『Good Day』で始まった。





 私はステージ向かって右、ブライアン側で観ていた。なのでまず視界に飛び込んでくるのがブライアンのパフォーマンスなのだが、この人のプレイにびっくりした。CDで聴くよりもはるかにパワフルで、発せられる音はハードでラウドだったのだ。ただ座って淡々と叩いているのではなく、立ち上がって叩くこともしばしば。着ていた柄物のシャツも、早々にしかも演奏しながら脱ぎ捨て、筋肉質の上半身をあらわにした。何度もフロアに視線をやり、スティックの先を向けていた。この人は自分が「見られている」ことを意識していて、ただドラムを叩くのに徹するのではなく、パフォーマーとして「魅せる」ことをしている。


 そしてアマンダだが、片足あるいは両足をキーボードを支える脚のところに乗せながら歌い、鍵盤を弾くことが多かった。ブライアンとは、適時アイコンタクトを取っているのがわかった。アマンダの鍵盤とブライアンのドラミングがタイミングを合わせるところが随所にあったのだが、それがズレることもなく、決めるべきところで必ず決めていた。『Coin-Operated Boy』では、まるでゼンマイ仕掛けの人形のように同じフレーズを執拗なまでに繰り返して歌っていて、ライヴならではの「遊び」を感じさせた。





 ブライアンはドラムばかりでなく、曲によってはアコギもこなしていた。中盤、アマンダと2人でそれぞれのセットを離れ、ステージ中央前方に躍り出てブライアンのアコギでアマンダが熱唱する場面があった。まだどの曲だったか、ドラムセットに収まって両足ではバスドラやシンバルを叩いているのに、なおかつアコギを弾いていることもあった。また、途中でバスドラのところが壊れてしまって、それを自分で起用に直していた。その間アマンダがさらっとキーボードを弾いたり、ブライアンと会話したりして場をつなぐのだが、それが少しも中だるみになっていないのが立派だった。


 ファーストからの曲には、中世風というか、場末のキャバレー風というか、そういう変化球的な雰囲気が漂っている。対してセカンド『Yes,Virginia』からの曲は、歌も演奏もストレートでエモーショナルに仕上がっているように思え、2人が手掛けている音楽が確実に進化しているように思えた。かと思えば、ブラック・サバスの『War Pigs』なんてのまで飛び出したりもして、ブライアンがスティックでリズムを取るとそれに合わせて場内は手拍子を取り、それに続く演奏はなお一層エモーショナルになった。


 終盤は1曲1曲がクライマックスの様相を呈し、いつライヴが終わってもおかしくないような緊張感が場内に漂ってきた。本編ラストは『Sing』で締めくくり、ほとんど間をおかずにアンコールで2曲を披露してくれ、結局ライヴは約1時間半にも渡って行われた。アルバム2枚というキャリアや前座が3組という流れで、もっとコンパクトなステージになるのではと私は予測していたのだが、彼らが持つ勢いがここまでやってしまったのだと思う。





 最後は2人で手をつないで挨拶してくれ、アマンダの方は早々にステージを後にしたのだが、ブライアンはフロアの前の方に陣取るオーディエンスに握手していた。私は右端の方に陣取っていて、握手するにはちょっと届かないところにいたのだが、なんとブライアンはステージを降りてこちらまで歩み寄ってくれたので、がっちりと握手することができた。この後はすかさず客電がついたのだが、アーティストの意向によりこの後サイン会を行いますというアナウンスが流れた。


 私はひそかに、こういうことが起こるのではないかと思っていた。なぜなら、去年のフジロックで彼らを観たときに、ライヴ終了後にゲリラ的にCDの即売会が行われ、買った人には本人たちがサインをしてくれたからだ。係員がフロアの後方にセッティングを始め、準備ができたところで2人が登場。サインしてもらうのはなんでもいいことになっていて、チケットの半券や携帯電話にしてもらう人もいたが、私は物販で買ったセカンドアルバムのジャケットにサインしてもらい、もちろん握手もしてもらった。フロアにはオナンもいて、CDいくらで買えるの?とあちこちに聞いて回っていた(結局買ったのかな?)。





 この日の集客は残念ながら寂しいものだったが、足を運んだ人のほとんどが、ドレスデン・ドールズは非常に優れたライヴバンドであることを実感したと思う。CDを聴いた限りではここまでエモーショナルなライヴをするとは想像しにくいし、それだけに受けるインパクトはとてつもなく大きかったのだ。ただ裏を返せば、そのライヴ感をスタジオレコーディングの中に持ち込めていないのが、物凄くもったいない。「パフォーマーとして」の2人に「クリエイターとして」の2人が追いついたとき、このユニットはもっと凄いところに到達できるような気がするのだ。





(2006.9.9.)




















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