UA 2006.9.2:日比谷野外大音楽堂

 会場が日比谷野外大音楽堂で、そしてアーティストが自他共に認める「雨女」のUAと来れば、この日の天候が雨になっても仕方がないと覚悟していた。しかし、雨が降ったのは前の日で、この日は好天に恵まれた。湿気も少ないようで、暑さは感じない。時折ゆる~い風が吹いてきて、黙っているとむしろ肌寒いくらいだった。9月ということもあるのか、日没は思った以上に早く、開演予定時間には場内は夜の世界に包まれていた。





 予定時間から15分くらい過ぎたくらいに、バンドメンバーがステージ向かって左の袖の方からゆっくりと登場。彼らが持ち場についたであろう頃にUAが颯爽と姿を見せ、ここで歓声が沸いた。UAはスタンドマイクをしっかりと握り締め、ライヴは『プライベート・サーファー』でゆったりとスタートした。


 今回、私は前から2列目という、非常に恵まれたチケットを入手することができた。なので、ステージ上のメンバーの様子も手に取るようにわかった。バンドメンバーは、中央前方に立つUAを囲むようにして、(右から左に)エレクトリックギター、アコースティックギター、マリンバ&ヴィヴラフォン(女性)、ウッドベース、ドラム(コンパクトなセットだった)、スティール・パン(バッファロー・ドーターの大野由美子)という編成。かなりユニークだが、如何にもUAだなという「らしさ」を感じてしまう。


 そしてUAだが、ブルーのドレスを身に着けているのだが、背中がもろにオープンになっていてどきっとした。髪が両サイドに膨らんでいて、見た目にもかなりのインパクトがある。そして、射るような目つきが印象的だ(安田美砂子に似ていると思ったが)。裸足ではなく、サンダルを履いていた。もっと華奢で細身なのかと思っていたのだが、腕や足こそ細いものの、体格そのものは割と普通だった。彼女が発するオーラが、その身体を大きくたくましく見せていたのかもしれない。





 続いては、スティールパンの音色が随所で効果的に響く『スカートの砂』。そして『踊る鳥と金の雨』『そんな空には踊る馬』と、アルバム『Sun』からの曲がたて続けに演奏され、いよいよUAワールドが繰り広げられる。通常のバンドフォーマットとは異なる多彩な楽器による編成が織り成す、音のパノラマ。管楽器がないこともあってかジャズ色は薄く、といってもちろんロック的な音でもない。現実には存在しそうでしていない、無国籍的な香りを感じる。野外会場という環境もあるのか、異様さが一層際立ってくる。


 バンドのコンビネーションとしては、ウッドベースが軸になっているように思え、ほとんどどの曲でも野太い低音が聴き取れた。もちろん通常は手で弦を弾くのだが、時折弓を使って弾くときもあって、するとバイオリンのような音色が出ていた。ドラムのビートはかなり控え目で、爆音は皆無。ただその代わり、緻密なリズムを刻むことでサウンドの屋台骨を支えている。2人いるギタリストだが、アコギの人は終始椅子に腰掛けたままで淡々と弾き、また曲によってはコーラスも披露。一方エレキの人は、客席に向かっては半身の状態、つまり終始UAの側を向いて演奏していて、時にロバート・フリップが出すような繊細なリフを発していた。


 そして女性陣2人の方だが、マリンバの人は横長に並べられたマリンバとヴィヴラフォンを巧みに操って硬質の音色を発していた(1曲だけ、ドラマーの人と並んでバチを叩いていた)。また曲により、小さな箱型の木琴も使っていた。そして大野だが、終始UAの方に視線をやりつつ、3つあるスティール製の太鼓に巧みにスティックを滑らせていた。またある曲ではモーグも操り、この場でのほとんど唯一と言っていい電子音を発していた。この不協和音のような電子音は、意外やバンドに合っていた。





 バンドの中心核にいるのがもちろんUAだが、彼女自身の個性がもっとストレートに前面に出てくるのかと思いきや、自身もバンドの中に収まっていることの方が多い印象を受けた。これは埋もれてしまっているという意味ではなく、多彩な音色の中に彼女が身を委ねていて、よりナチュラルな形で歌っているように思えたのだ。初期の頃は彼女の個性が重視され、それが最大限に活かされるような手法が取られていたように思うのだが、少なくとも今現在は、バンドをも含めたトータルなスタイルでのUAの世界観の表現を目指しているように見える。


 しかし、彼女の歌声が唯一無二のインパクトを備えているのはまぎれもない事実で、ライヴ終盤になると、シンガーとしてのUAの魅力が発揮される曲が連射された。『ブエノスアイレス』での熱唱ぶりは見事だったし、本編ラストとなった『閃光』では、終盤に歌と演奏がぴたっと止み、静寂が訪れ、次の瞬間にステージに設置されたライトが一斉に、文字通り「閃光」した。それにシンクロしてUAが歌を再開しバンドも追随。そして彼女は、最後まで振り絞るように熱唱を続けた。





 アンコールで、まずはバンドを紹介し、そして彼女はアカペラで歌い始めた。それは奄美の島唄に喚起された『太陽ぬ落ちてぃまぐれ節』だった。2年前の野音のライヴがインタビュー込みでテレビで放送されたのを観たことがあって、それによると、UAの母が奄美大島の出身で、彼女自身奄美に興味を抱いており、実際奄美に行って先生につき、島唄を習ったのだそうだ。曲はしばらくは彼女の独唱で続き、徐々にバンドが入っていって、最後は壮大な世界観が構築された。


 そして『水色』を経て、間髪入れずに『甘い運命』ときた。まさか、と思った。初期を代表する曲のひとつと言ってよく、また私がUAという人の存在を初めて知ったのも、たぶんこの曲がヒットしたときに耳にしたからだったと思う。バンドがバンドなので、アレンジはもちろん原曲とは大きく異なるが、それでも目の前で彼女が熱唱しているそのさまを観て、心が揺れた。なのにUAは飄々としていて、自分のパートを歌い終えると、笑顔でそして手を振りながら早々にステージを去ってしまった。残されたバンドが演奏を続けたが、やがてそれも終了し、夏の終わりの幻想的なひとときも終わりを告げることとなった。





 私はフェスやイベントでUAのライヴは観たことがあったが、単独公演に足を運んだのは今回が初めてだった。そこで、意外に感じたことが2つあった。まずひとつは、ライヴの最初から最後まで、客席が着席のままだったことだ。椅子席のある会場での彼女でのライヴはいつもこうなのか、それとも今回だけたまたまこうなってしまったのかはわからない。ただ、熱心なファンは決して少なくないはずだし、こういう状況になるとは正直予想できなかった。立ち上がるタイミングはないではなかったが、ただ、曲そのものがアッパーでもダンサブルでもないので、こういう楽しみ方もアリなのかなと思った。


 もうひとつは、UA自身が客とのコミュニケーションを結構求めているフシがあり、楽しんでいることだった。名前を呼ばれたときは逐一手を振るなどして応答していたし、前列にワインのボトルを持ち込んで飲んでいた女性客をいじったりもしていた。キャリアは11年だそうで、ここまでやってきて歌は上手くなったと思うけど、MCがなかなか上手くならないと言っていたのが印象的だった。





(2006.9.3.)




















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