Paul Weller 2006.4.1:Zepp Tokyo

今回の来日公演は、当初29日の中野サンプラザ公演だけで済ますつもりでいた。が、ライヴの最中にある違和感を感じるようになった。確かにいいライヴとして成り立っているし、充分に楽しめているし、本人の機嫌もいい。ではあるが、客の年齢層が高く、そして椅子席のあるホール会場ということで、場内に漂う雰囲気がどことなく落ち着きすぎていた。前列でも座ってライヴを観ている人もいて、こういう人は如何に熱烈なファンだったとしても、ライヴハウスにはまず来ない。つまり、Zeppの公演は絶対に違う雰囲気になるはずだという確信が浮かび、帰宅後に追加公演となるこの日のチケットを取ったのだ。


 そして当日。土曜日ではあるが、追加公演ということもあってか、残念ながら客の入りは芳しくなかった。1階フロアはAとBの2つのブロックに区切られていて、Aブロックこそほぼ満員の入りだったが、Bブロックはがらがらのすかすかだった。ではあるが、中野サンプラザのときよりも客の年齢層は明らかに下がっていた。これで、密度が濃く熱いライヴになる下地は揃った。あとは、ウェラー先生次第だ。





 開演時刻よりやや遅れて客電が落ち、ステージ向かって右の袖からウェラーを筆頭としてメンバーが登場。そしてオープニングは、新譜『As Is Now』からの『Blink And You'll Miss It』。単にサンプラザのときからセットリストを変えたというだけでなく、アルバムのオープニング、つまり「顔」的な曲を持ってきてくれたことを嬉しく思った。アッパーなノリでライヴ映えする曲だと思っていたし、実際場内の雰囲気は一気に上昇した。


 『Out Of The Sinking』に続き、またもアッパーな曲『Peacock Suit』が炸裂。ウェラーが発するリフにスティーヴ・ホワイトのドラムビートが絡み、そしてエモーショナルなヴォーカルに惹きつけられる。この曲もサンプラザ公演では演らなかった曲で、ウェラーは会場や客層を察知してセットリストにアクセントをつけているのだろうか。とにかく、これで場内のテンションは上がりっぱなしだし、私の狙いは見事に的中した。来てよかった。





 私はこの人のライヴを、92年以来観続けてきている。93年や94年のときは、客がおとなしいことが原因なのか、本人が客を煽っていたり、あからさまに不機嫌そうにしていたりした。そんな体験もしていたので、2000年のときはホール公演の東京を敢えてスルーし、ライヴハウス公演の仙台にまで足を運んだ。きっとこの人は、アーティストとオーディエンスとの共鳴によってこそライヴが成り立つのだと、信じているのだ。そしてこの日のオーディエンスは、ウェラーの想いに答えるが如く熱狂している。


 ウェラー自身の一挙手一投足にも、ただならぬ気迫がみなぎっている。まるで弓がしなるかのように上体を大きく揺らし、弦を鋭く弾いてはシャープでソリッドなリフを轟かせ、そしてマイクスタンドに向かい嬉々として歌い上げるそのさまは、奇跡的なまでにカッコいい。特にギタープレイが凄い。おのれの内面から沸きあがる衝動が、プレイそのものにストレートに反映されていて、ギターが身体の一部と化しているかのようだ。この人ここまでギターに執心な人だったかな、という意外な気持ちにまでなったくらいだ。


 スティーヴ・ホワイトのドラミングには安定感があり、かつ時折激しいドラムソロも炸裂して、長きに渡ってウェラーを支えてきたというプライドが伺える。ギターのスティーヴ・クラドックは、ウェラーに気を配りながら手堅くも分厚いリフを放ち、そしてコーラスもこなす。そしてデーモン・ミンチェラだが、この人のベースは地味なようで地味でなく、曲によってはかなり重要なパートを担っている。また新曲『Wild Blue Yonder』では、ウェラーと1本のマイクを分け合う形でコーラスを担当した。


 新譜『As Is Now』からのアッパーなナンバー『From The Floorboards Up』は、ウェラーが今まで築き上げて来た名曲の数々の系譜を正統に受け継いでいて、この人はまだまだやれるんだ、健在なんだと思わせてくれる。ラストのウェラーのヴォーカルにエコーがかけられているのもカッコいい。そして中盤のハイライトになったのは、『Porcelain Gods』~『I Walk On Guilded Splinters』のメドレーだ。まるでプログレのようなインプロヴィゼーションが炸裂し、そのドラマティックな展開と奥の深い表現力には、全くもって恐れ入る。ウェラーを慕う若きアーティストたちに、果たしてこの深みが出せるだろうか。





 続いては椅子が用意されてアコースティックコーナーとなり、ウェラー、スティーヴ・クラドック、デーモンの3人が横一列に並んで座る。この日は3曲が披露され、先ほどまでのヴォルテージの高さを冷ますかのように、切々と歌い上げられた。『You Do Something To Me』では、ステージ上部から吊るされているミラーボールが妖しく光った。次いでウェラーはピアノの前に陣取り、スタイル・カウンシルの『Long Hot Summer』を披露。「しゅびどぅばっ、しゅびどぅばっ」というフレーズは場内の合唱を誘い、そしてラストもこのフレーズでフェードアウトするように締めくくられた。


 終盤は、『Come On/Let's Go』でスパート開始。この曲をメインに据えた日本オンリーのミニアルバムもリリースされていて、私たち日本のファンにとっては一層思い出深い曲になりつつある。更に『Amongst Butterflies』を経て、『Foot Of The Mountain』でまたまた壮絶なインプロヴィゼーションの応酬が。この人は凄い。この人を支えるバンドメンバーも凄い。ただただ感服というか、脱帽というか、日本からはこんなアーティスト出てこないよなあとか思って、そう考えるとうらやましい気持ちにさえなってきた。そして本編ラストはもちろん『The Changing Man』。この曲は、今やウェラーのソロキャリアを代表する、名詞的な曲になりつつある。





 アンコールは『Broken Stones』で始まった。渋くて引き締まった曲調に聴いていて背筋が伸びる想いがし、ピアノを弾きながら切々と歌い上げるウェラーの姿に、改めて感動を覚えた。更に『I Wanna Make It Alright』を経て、ウェラーがメンバーを紹介。この日この場に集まった人なら、スティーヴ・ホワイトがどんな人であるのかも、スティーヴ・クラドックやデーモン・ミンチェラがどんな人であるのかも、分かり切っている。ではあるが、ウェラーが直々にその名を挙げることによって、彼らの素晴らしいパフォーマンスにも改めて感謝したくなる。そしてオーラスは、デーモンのベースリフで始まる『Town Called Malice』。後期ジャムを代表する名曲のひとつで、場内がひとつになれるちょうどいいリズムとテンポが心地よかった。





 セットリスト的なことを言うと、アコースティックコーナーやアンコールでの曲が減らされていた。またジャムやスタカン時代の曲も2曲に留まり、新たな飛び道具もなかった。よって時間的にも、サンプラザ公演よりは少し短縮された格好になってしまった。ではあるが、トータルでは非常に密度が濃く、非常に素晴らしい、感動の連続のライヴだった。ポール・ウェラーが信じて目指している、アーティストとオーディエンスとが一体になる瞬間が、何度となく訪れたからだ。




(2006.4.3.)
















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