Franz Ferdinand 2006.2.10:日本武道館

開演時間は6時45分と気持ち早めで、そしてウイークデーということもあるのか、オールスタンディングのアリーナにはスペースが見られ、そしてスタンド席にも空席が目立った(特に1階席が)。そんな中、定刻になると客電が落ち、ゲストであるマジック・ナンバーズのライヴがスタート。2組の兄妹で構成されているこのバンドは、去年のフジロックで初来日している。日本語で挨拶した後演奏を始め、早速ピースフルな雰囲気を漂わせる。


 メンバーの立ち位置は、フロントにはギター&ヴォーカルの人、右にベースの女性、左にはリズム担当の女性。後方にドラムで(この人だけスポットが当たらずちょっと可哀想だった)、バンドを牽引しているのはやはりヴォーカルの人。ソフトなヴォーカルもさることながら、ギターの妙技が随所に光る。リフがラウドすぎず、といって控え目でもなく、そして曲によってはカントリー調だったりもして、なかなか興味深い。ハイライトになったのはやはり『Forever Lost』だが、演奏力の高さを全般に渡って発揮し、オープニングアクトとしては充分過ぎるほどの役割を果たした。


 大会場でのライヴのオープニングアクトというのは、とても難しいと思っている。会場のキャパシティもそして客層も、メインのアーティストに照準が合わせられている。オープニングを務めるアーティストにとってはスペース的に広すぎることが多く、また必ずしも自分たち目当てではないファンを前にして、演奏しなければならないという辛さもある。実際そうしたことを克服できず、空回りに終わったアクトを何度も観てきた。でマジック・ナンバーズだが、彼らは過去私が観てきたオープニングアクトの中でも、最上に位置すると言っていいくらいの出来だった。フランツと音楽的な共通項が多いとは言い難いと思うのだが、結果的には多くのファンを自分たちの懐に引き込むことに成功したのだ。





 この後、セットチェンジに20分ほど費やされた。いつのまにかアリーナにスペースは見られなくなり、スタンド席も1階南と南西を除けばほぼいっぱいになっていた。7時40分過ぎに場内が暗転。ステージ向かって右の袖からフランツ・フェルディナンドのメンバーが登場するのが見え、やがてそれぞれ位置につき、『This Boy』でライヴがスタートする。


 メンバー配置は、前列中央にアレックス、右にベースのボブ、左にギターのニック、後方にドラムのポールだ。フロント3人はとにかく体が細い。なのに、おのおの楽器を弾きながらアグレッシブに動き回っている。この人たちお馴染みの、足踏みしながらのプレイも頻発。ステージセットは、後方が横長のひな壇のようになっていて、ドラムセットはその少し高い位置にセッティングされている。ニックとボブは頻繁にこのひな壇に上がり、アレックスはステージの前のへりのところにまで出てオーディエンスを煽る。





 ステージはやがて後方を覆っていた白い幕がストンと落ち、巨大なモニターがお目見えする。ビデオカメラをかついだスタッフがステージ上にいて、メンバーの動きを逐一捕らえ、それがモノクロ映像となってスクリーンに映し出される。オーディエンス目線ばかりでなく、バンド目線での映像も何度も登場し、これがオーディエンスとバンドとの距離を縮めている。今回の来日公演、武道館以外は各地のZeppつまりライヴハウスが会場となっているので、この巨大セットは恐らく武道館ならではのものだったろう。


 アンセム『Take Me Out』が、意外にも前半で放たれてしまった。イントロがかなり引っ張られ、観ている側としてはじらされる快感を感じつつ、やがて歌が始まると、今度は開放感に浸る快感に溺れる。そしてこの曲は途中からテンポが落ちるのだが、そこから拍手が沸いて場内が一体感を帯びるようになり、そしてラストの大合唱に至る。ステージ後方のスクリーンの両サイドには白い垂れ幕が下がっているのだが、これがセカンドアルバムのジャケット写真がお目見えし、次いでメンバー4人の写真に切り替わった。





 正直、びっくりしたことがいくつかあった。まずはメンバー。お世辞にもイケメンとは言えず、決して見た目で売っている人たちではないと思っていた。『Do You Want To』のPVなど特にそうだが、センスに乏しいとっちゃん坊や4人組というように捉えていた。ところがここでの4人は、いずれもインテリジェンスに溢れ、そしてファッショナブル。垢抜けたというか吹っ切れたというか、とにかく観ていてカッコいい。アレックスは少し髪が伸びていて、まるでクリスピアン・ミルズのようだ。


 もうひとつのびっくりしたことは、オーディエンスの熱狂ぶりが尋常ではなかったことだ。アリーナは6つのブロックに区切られたオールスタンディングエリアになっているのだが、終始タテノリ状態。アレックスのコールに対するレスポンスも早く、これがスタンド席をも牽引する形になって、武道館をダンスフロア状態にしている。試みは成功したと言えよう。私は正直、フランツで武道館ってどうよ?早すぎるんじゃないの?と思っていたのだが、そうしたネガティブな思いはあっさりと打ち崩された。





 2本のギター、そしてベースとのからみは、ポストパンクを髣髴とさせる。といって従来あるポストパンクのようにソリッドすぎないのがこのバンドのいいところで、これが密閉的にならず、エンターテイメント性を帯びていることの一因だろう。また曲によってはニックがキーボードを弾いたりもしたのだが、途中からはサポートが加わり、5人編成でのライヴとなる(アレックスがメンバー紹介をしたとき、ちゃっかりこの人も紹介されていた)。4人にしても5人にしても、メンバーそれぞれがこなすパートに無駄がなく、引き締まったパフォーマンスを見せている。


 そしてもうひとつのアンセム、『Do You Want To』。原曲を聴く限り、わかりやすく口ずさみやすい曲調ではあるが、どこかとぼけているというか、間抜けな印象がある。がしかしこの場においてはそうした間抜けさは払拭されていて、場内をひとつにする魔力を放っていて、場内は何度目かの沸点に達した。先ほどの『Take Me Out』もそうだったが、フランツがまだキャリア的に浅くても輝くことができ、ここ極東の島国にもその勢いが及んでいるのは、みんなで歌って踊れてひとつになれる曲があるからだ。





 1時間程度で本編が終了し、そしてアンコールへ。曲は『Jacqueline』だが、まずはアレックスがひとりだけで登場してギターを弾きながら歌い始め、次いで他のメンバーが加わりフルセットになって重厚感を増すという流れになっていて、これも見事。そしてオーラスの『Outsider』~『This Fire』では、先ほどサポートでキーボードを弾いていた人に加え、スタッフと思しき人がそれぞれスティックを持って登場し、ドラムセットを囲むような具合になる。ドラマーのポールが通常に叩いているその脇で、この2人もシンバルや太鼓を叩き、つまりトリプルドラム状態。痛快だった。








 ライヴハウスという密閉された空間でアーティストを観れるのもいいが、1万人という規模でアーティストとオーディエンスとの一体感を感じられるという快感も捨てがたい。フランツ・フェルディナンドが今回武道館公演を見事にやってのけたことには、ひとつの大きな意味がある。これが突破口となり、他の若いアーティストも今後武道館に進出してくるのではという、期待を抱かずにはいられないからだ。




(2006.2.13.)

































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