British Anthems 2006.1.21:Studio Coast

クリエイティヴマンとHMVとのコラボレートによって実現したというイベント、ブリティッシュ・アンセムズ。当初エントリーされていたジ・オーディナリー・ボーイズが、開催時期に来日することができなくなってしまい、キャンセルになったのは少し残念。ではあるが、それでも日英のバンド計11組が集結。当日はあいにくの雪模様になってしまったが、それでも客足が鈍ることもなく、会場であるスタジオコースト内は結構な入りとなった。





Liverpool Stage

 今回のイベントは2ステージ制が敷かれ、会場敷地内にある小さな倉庫が、リバプールステージとされていた。がしかしこの倉庫、高校の文化祭のステージにも及ばないくらい粗雑で、ほんとうにこんなところでプロのバンドがライヴするんだろうかと不安になるくらい。キャパシティとしては、200人も入れば満員になるくらいの狭さだ。すきま風が入ってきて体感はかなり寒く、上着を着ていないとやってられない。リバプールステージという名前も名前で、実際に出るのは全て日本人のバンドだ。なんだかなあ。


 Nico Touches The Wallsは、UKギターバンドのフレーズをいいとこ取りして切り張りしたような音。Under The Counterは結構爆音だが、その分ヴォーカルの弱さ&稚拙さが浮き彫りになってしまった。ドラマーは女性。aMはスーパーカーのドラマーだったタザワコウダイの新ユニットで、4人編成。3人がiBookや電子機材を操り、コウダイはシンセドラムでリズムを刻み、エレクトロダンスミュージックを発していた。Art Schoolは2本のギターが唸り、バンドとしてのコンビネーションもよく、演奏も引き締まっていて好印象。Doping Pandaはスリーピースながら音に迫力があり、客のノセ方もうまく、エンターテイメント性抜群だった。





London Stage

 ロンドンステージとは言ったものの、グレート・アドヴェンチャーは日本人だし、デッド60'sはリバプール出身、スーパーグラスはオックスフォードの出身だ。リバプールステージと同様、ネーミングには違和感ありありだが、こちらはスタジオコースト本体で開催。開演前まではフロアは人がまばらで、このイベント動員がヤバいんじゃないかと、かなり不安になった。がしかし、時間になると人が集まりだし、最終的にはどのアクトにおいてもフロアはほぼ一杯になった。ステージ後方には、ユニオンジャックとイベントタイトルのロゴが貼り出されている。


 Great Adventureは、過去何度か観たことがあって、今回観るのは1年ぶりくらい。演奏はいい意味で荒っぽくなり、メンバーはたくましくなった印象を受けた。アルバムリリースやツアーなど、いろいろとキャリアを積んだ成果だろう。Dustins Bar Mitzvahは、曲はパンク調でどの曲も短く、全部同じに聴こえてしまう。ヴォーカルくんは、酩酊しているのかそれとももともとなのか、だるだるでやる気レスなありさま。マイクスタンドをブン投げたり、ギターをチューニングしようとして途中でやめて(それともできなくて)ブン投げたりと、やりたい放題。一歩間違えばヘタレバンドだが、これでもアラン・マッギーお気に入りだそうで、今後化けるかどうか注目だ。


 Test Iciclesは、ドラムレスにベースレスの3人組。2人がギター、ひとりがヴォーカルなのだが、途中からヴォーカルとギターが入れ替わり、結局全員がリードヴォーカルを担当。リズムにはサンプリングを用いていたのだが、これがどうにもぎこちなく、ライヴ感を欠いている。サポートでもいいからベーシストとドラマーを入れて、フルバンドでやればもっとよくなるのではないだろうか。The Little Flamesはサウンドがポストパンクっぽいモノトーン調で、そしてバンドを牽引するのが女性ヴォーカル。曲によっては、日本のグループサウンズっぽいレトロ風味なものもあった(本人達はグループサウンズなんて知るはずもないだろうけど)。なかなか特異なスタンスを示しているが、今ひとつインパクトがないというか、説得力を欠いているようにも思えた。





The Dead 60's

 結論から先に書くと、とてもアルバム1枚出しているだけの新鋭とは思えない、迫力と貫禄に溢れるステージだった。もともと期待はしていたのだが、それを遥かに上回るライヴで、お金を払う価値は充分にあった。


 サイレンの音をSEにして、バンド登場。4人組で、ギターが2人にベース、ドラムというオーソドックスな編成だ。出だしの『Loaded Gun』のイントロのリフだけでもうヤラれてしまい、ヴォーカルのエコーがかったような声もイイ。それだけでなく、演奏は4人が4人とも確かな力量を誇っていて、またスタッフまでもが優秀なのか、音がとてもクリアに聴こえる。客のノセ方もうまくて、場内はこの日一番の熱狂ぶりを記録した。


 音はパンク~スカ~レゲエ~ダブといった感じで、レゲエの曲のときにギタリストがキーボードを弾くくらいで、他には特に凝ったことはしていない。ほとんど生楽器の演奏だけでこうした表現ができてしまうのが凄いと思うし、アップテンポの曲でなくとも場内にダレた空気が漂うことがなく、客はみなバンドに惹きつけられている。ハイライトになったのは終盤の『Riot Radio』で、結局彼らは一度もテンションを落とすことがなくライヴをやり切り、最後はまたサイレンの音をSEにしてステージを後にした。


 彼らの音はクラッシュを思い起こさせるが、ただクラッシュをなぞっているのではなく、偉大な先人の魂を継承しつつも彼らなりの独自性を確立していて、だからこそライヴには惹きつけられるのだ。今の彼らに足りないのは、キャリアだけだろう。「無線衝突」という邦題のついた彼らのデビューアルバムは13曲収録でたった34分しかなく、ただでさえ持ち歌が少ないのに各曲が短いからだ。それにしても、今後の活動が楽しみな連中だ。





Supergrass

 ブリットポップ期にデビューしたバンドで、同時期にデビューした幾多のバンドが朽ちて行った中、解散することもなくキャリア10年を突破。しかし、私が観るのは今回が初めてだ。セットチェンジ中にステージ後方のイベントのロゴとユニオンジャックの壁紙ははがされ、代わりに新譜『Road To Rouen』のジャケット写真に貼り替えられた。


 まずはギャズがひとりだけで登場し、アコースティックギターで2曲ほど披露。次いでベースのミッキーが姿を見せて、2人で『Caught By The Fuzz』を。代表曲を早くもしかもアコースティックで披露されるという変化球ぶりに、少し面食らう。そして面食らったのはこれだけではなく、延々とアコースティックが続けられたことだ。徐々にメンバーが増えてやがてフルバンドになりはしたが、結局アコースティックは6~7曲くらい演ったと思う。


 やがてエレクトリックに移行したのだが、アコースティックのときの地味さがどうにも拭い去れず、場内には微妙な雰囲気が漂う。こうした2部構成風というのは試みとしては悪くはないが、彼らのファンだけが集まる単独公演ならともかく、複数のバンドと不特定多数のファンが集うイベントでしかもトリとしてでは、やるべきではなかったのではないだろうか。終盤の『Moving』でなんとか持ち直して、アンコールも披露されたのだが、トータルとしてはその前のデッド60'sに食われたかなあ、という感が残った。





etc...

 スタジオコースト内の、フロアとはロビーをはさんで反対側にDJステージもあって、こちらは開場時からフル回転していた(ステージといっても、狭いクラブのようなスペースでしかなかったが)。ロビーでは常設のバーカウンターのほか、物販や今後のライヴの先行予約受付があり、そしてiPodのブースも設置され、ITMSなどでの試聴も楽しめたようだ。食事については、両ステージ間の屋外スペースにワゴン車が3、4台ほど立ち並んで、他のフェスティバルでも見たことのあるような各国料理が販売されていた。








 まずひとつ主催者側に言いたいのは、タイムテーブルを配布するなり場内に明示的に掲示するなりしてほしかったということ。事前にウェブ上で発表があったとはいえ、当日訪れた客に明確に示さないのは、仕切りとして不十分だと思う。申し訳程度に、会場入り口のドアにA4サイズの用紙でタイムテーブルが貼られてはいたが、あれをコピーして入場時に配布するだけでよかったのではないか。私は携帯でモバイルサイトにアクセスし、タイムテーブルのページを画面メモして使用していた。


 イベントは、13時開場で20時半終演という長丁場となった。2つのステージの運営時間がずらされていたので、両ステージのアクトを楽しむことができたし、適度に休憩をとることもできた。ピクシーズの単独公演が7,000円だったが、それに500円上乗せしただけで11組ものバンドを観られたというのは、コスト的にはありがたかったと思う。ではあるが、正直言って前半に出演したバンドは演奏の精度から言って非常に稚拙で、まるで学芸会文化祭のノリだった。数を膨らませて無理くりフェスっぽくするよりは、出演バンドを4、5組くらいに絞って、1組当たりの演奏時間を長くとるという形式の方がよかったのではないだろうか。




(2006.1.23.)


















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