Pixies 2005.12.5:Zepp Tokyo

 去年のフジ・ロック・フェスティバルで、初来日を果たしたピクシーズ。そのラストで、ブラック・フランシスは日本語で「マタネ」と言い放った。それから1年が経ち、まずは今年のサマーソニックの開催中に来日決定という報が流れる。そして12月になり、ついに単独再来日公演が敢行。フェスがダイジェスト的なライヴだとすれば、単独では彼らの世界にどっぷり浸かれるはずだ。





 定刻より少し遅れて、客電がゆっくりと落ちた。外人客の目立つフロアから歓声が上がる中、メンバーがゆっくりと入場。それぞれ持ち場につき、ライヴがスタートする。が、いきなりメジャーナンバーでガツン!ではなく、意表を突く『Gouge Away』だ。


 ステージは殺風景だ。後方にライトの塔が8つ並んでいるだけで、装飾は特にない。メンバーの立ち位置は、中央にブラック・フランシス。デブはデブだが、私はもっと巨漢だというイメージがあって、だけど実物は小ぶりな体型だ。左にギターのジョーイ・サンチャゴ、右にはベースで女性のキム・ディール。キムの後方にドラムセットが一段高く設置されていて、そこでデヴィッド・ラヴァーリングがドラムを叩いている。男性陣3人はいずれもスキンヘッド。ブラックとジョーイは黒Tシャツ、キムは白いロンTの上に黒いTシャツを着ている。キムは少し痩せたのかな。





 フジのときはステージ後方からスモークが沸き起こる中を、いきなり『Bone Machine』で蹴散らすというカッコいい出だしだったのだが、今回はマイペースというか、気負わず気楽にやれてしているように見える。セットリスト上は『Cactus』だったのが『Caribou』を演ってしまうという、チョンボのようなこともあったりして。


 2004年のツアーを集約したDVD『Sell Out』を観た限りでは、どの曲もほとんど原曲通りに演奏されていた。のだが、ここでのパフォーマンスはかなり自由だ。間奏ではジョーイのノイジーなギターソロが飛び出し、キムのベースリフもくっきりと際立ち、デヴィッドの重いドラミングはサウンド全体を引き締めている。そしてブラックだが、そのヴォーカル及び咆哮は冴え渡り、存在感を一層大きくしている。全体的にラウドでラフな演奏だが、この爆音をライヴハウスという密閉された空間で体感できるのがたまらなく嬉しい。


 もう少し曲間に空きができるかと思っていたのが、ほとんどメドレー形式で次から次へと演奏されたのが意外だった。汗を吹いたりミネラルを口にしたり、楽器を交換したりというのも、演奏の最中もしくは終了後に素早く行なわれ、熱気が途切れることがない。ピクシーズの曲は基本的に2分から3分程度という短い曲ばかりなので、短時間の間にどんどん曲が連射されるのだ。


 陸上競技に、400メートル走という種目がある。人間が医学的に全速力で走り切れる距離は300メートルまでだと言われていて、つまりは400メートルという距離は、人間の限界ギリギリに挑戦する、非常に過酷な距離なのである。スタートから全エネルギーを注ぎ込んで突っ走り、第4コーナーを回ってラスト100メートルを酸欠状態の中精神力で持続させる。ピクシーズのライヴは、まさに400メートル走のようなライヴだ。





 『Monkey Goes To Heaven』ではサビで場内大合唱となり、『Hey』ではキムが歌うのに続くように「hey!」というレスポンスが上がる。演奏の密度の濃さがライヴを牽引していたのに、ようやくオーディエンスが追いついてきた。そして中盤、やっと『Bone Machine』が炸裂。歌い出しでブラックが早口でしゃべるのだが、「Japanese♪」という単語だけがなんとか聴き取れて、ここでまた場内が沸く。一聴するとずれているようなキムとのツインヴォーカルも、実は絶妙なコンビネーションであることに気づかされる。


 続くはこちらも代表曲『Debaser』で、フジのとき私はその場にいなかったので、聴けて嬉しかった。『La La Love You』ではデヴィッドがヴォーカルを取り、ブラックとキムがドラムセットに寄り添うようにしてデヴィッドのプレイに魅入る。デヴィッドはドラムを叩きながら歌うのだが、あるワンフレーズを歌ったところで、それがブラックのギターによって何度も繰り返されるものだから、まるで晒しの刑のように繰り返して歌うハメになっていた(笑)。それを見ているキムはにこにこしている。キムは終始笑みを絶やすことがなく、楽しくやれているんだなあという好感が持てた。


 終盤は『In Heaven』『Wave Of Mutilation』『Where Is My Mind?』『Here Comes Your Man』といった、代表曲ばかりをこれでもかと言わんばかりに畳み掛け、すっかり場内を熱くしてしまった。そして『Vamos』では、この曲ではお約束のパフォーマンスらしいのだが、間奏でジョーイが自分のギターを固定させ、デヴィッドが投げたスティックを受け取ってそれで弦を叩くように弾き(この後スティックは投げてデヴィッドに返した)、またワウペダルも駆使して歪んだ音を発していた。





 本編を『Into The White』で締めると、メンバーがステージ前に出てきた。右に左にと動き、オーディエンスにむけて手を上げたり振ったり挨拶したりする。これが結構な時間続き、場内は温かい雰囲気に包まれた。そしてメンバーは、袖に下がらずに再び元の配置につき、つまりここからアンコールだ。曲はキムがリードヴォーカルを取る『Gigantic』で、温かい雰囲気をそのまま生かしたかのようなパフォーマンスに、観ている方も自然に顔がほころんだ。





 ピクシーズは、ツアーの全公演を録音しCDとして販売している。通常はウェブサイトからのみの受付となるのだが、この日は特別に会場内の物販でも受付をしていて、私は開演前に申し込んでいた。お金を払ってシリアルナンバーの入った説明書をもらい、帰宅後ウェブサイトにアクセスしてこのナンバーを打ち込み、住所氏名を投入して完了。CDは1月下旬頃に発送されてくるそうだ。こちらとしては公演の興奮に再び、いや永遠に浸れるという喜びがある。バンド側にしてみれば、ブートレッグ対策の意味もあるのだろうが、基本的には自信がなくてはできないことだと思う。そう、再結成し全世界をツアーしている彼らは、まさに自信に満ちているのだ。





(2005.12.8)
















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