Billy Corgan 2005.8.5:Shibuya-AX

 日程的にフジロックとサマーソニックという2大フェスの間に挟まれ、しかも公演日はいずれもウイークデー。果たして動員は大丈夫なのか、すかすかがらがらの中でのライヴになるんじゃないかと心配だったのだが、この日は最終公演ということもあってか、まずまずの入りだった。外人客もちらほらいる。


 定刻通りに客電が落ちて、まずはオープニングアクト。シロップ16gという日本のバンドだ。ギター、ベース、ドラムというオーソドックスな編成で、プレイするさまも3人3様。ノーマルなギター、淡々としたベース、パンキッシュでやたら力の入っているドラム。そしてこのドラムが、プレイにしろ音にしろ前面に出過ぎている感じで、バンドとしてのコンビネーションは絶妙とは言い難い。ギターの音はよく聴こえないし、ヴォーカルも弱い。メロディー自体は聴きやすく、決して悪くはないと感じただけに、ちぐはぐな佇まいは残念。彼らはほとんどMCもなく、30分ほどプレイした。





 20分ほどのセットチェンジを経て、再び場内が暗転。ステージ後方を覆っていた黒い幕がストンと落ち、白いタイル地の電飾の壁がお目見えする。BGMはなぜかデュラン・デュランの『Tiger Tiger』で、しばし無人のステージでこの曲がひと通り流れ、次のBGMに切り替わったときに、ビリー・コーガンが登場した。


 ビリーはボーダー地のロングTシャツにパンツというラフないでたちで、アーティストというより田舎でのんびり暮らしている青年みたい。以前よりほっそりしたような印象がある。バンドメンバーも続いて登場し、早速演奏がスタート。ビリーは最初後方に陣取っていて、やがて前ににじり寄って来てマイクスタンドの前に立ち、ギターを弾きながら歌う。後方の電飾の壁がカラフルに光り、観ている方の視覚を奪う。


 バンドのスタイルもかなりユニークだ。通常のバンドで見られるような機材はなく、ステージの地面から曲線のフレームが生えているような具合で、そこにそれぞれの楽器が設置されている。シンセドラム、キーボード、そしてプログラミング機材だ。確かに、ソロアルバム『Future Embrace』はプログラミングを駆使したデジタルな音作りではあったが、ライヴとなればビリーは生楽器で臨むに違いないと、私は勝手に予想していた。それがこう来たので、いい意味で裏切られ、そしてビリーの姿勢を頼もしく感じた。





 生楽器を使っているのはビリーひとりで、そのビリーは歌いながら場内をゆっくりと見渡している。序盤は淡々と歌い弾いている印象だったが、ビージーズのカヴァーである『To Love Somebody』では、ギターソロも披露する。2人いるプログラミング担当のうちひとりは女性で、彼女はバックヴォーカルも務めている。スマパンにダーシーとメリッサが、ズワンにパズがいたように、バンドに女性が必須なのはビリーのポリシーだろうか。


 曲はもちろん新譜『Future Embrace』からが中心となるのだが、アルバム未収録の曲も披露されたのかな。ほぼ1曲毎にギターを交換するビリーは、とても楽にプレイできている様子。ヴォーカルも以前ほどギラギラしておらず、少しソフトになった感じだ。スマパンでもズワンでも、リーダーであり曲作りをほとんど担当していたこともあって、バンド=ビリーという図式なのだと、私はずっと思ってきた。しかし実際はビリーにとっても、一種の鎧を身につけるような感覚があったようだ。


 本編は1時間くらいで終了し、そしてアンコールへ。ビリーがひとりずつメンバーを紹介し、紹介されたメンバーはフロアの客を背にするようにして立って、そのアングルで写真を撮るビリー。これを全員分やって、場内はすっかりアットホームな雰囲気に。2曲ほど演奏をこなした後(誰かのカヴァーだったのかな?『Today』のリフも一瞬だけ披露)ビリー以外のメンバーはステージを後にした。





 ビリーはフロア最前に陣取った客とできる限りの握手を交わし(こうしたファンとのコミュニケーションを求める行為は、スマパンの頃から一貫して変わっていない)、そしてマイクを握ってしゃべり始める。ライヴに来てくれてありがとうと言い、ヘヴィーメタルは好きかいとか言った後、今度来るときは「スマパン」(こう発音した)として来るよ、と言い放って、場内の興奮度はこの日最高潮に達した。


 更にビリーは、最前列に陣取った客の中から、ひとりの女性をステージに上げる。彼女の名前や、どこから来たのかを聞いたりした後、君のために歌うと言って彼女の手を握り、アカペラで1曲歌い上げたビリー。どの公演でもこういうことをしたのか、それともこの日だけだったのかはわからないが、珍しい光景、珍しい瞬間になったはずだ。





 ファンの方ならご存知と思うが、『Future Embrace』リリース日に、ビリーは声明を出した。ソロとしてツアーを行うこと、早くもソロのセカンドアルバムを作る計画があること、自分の心がスマパンにあること、そして、スマパンを復活させる構想があることなどを語っている。ビリーは確かにスマパン復活を目指していて、その来るべきときから逆算して、ソロ活動を行っていくのではないか。スマパンという鎧を再び身につける前に、スタイルにしても、音楽性にしても、より自由でより実験的で、もっと言えば何者にもとらわれずにできることをやってしまおうとしているように見える。そうした意味で今回の公演は貴重な位置づけになるだろうし、今度こそビリーは迷走の期間を終えて、次のステップに進みつつあることが伺えるのだ。





(2005.8.7)
















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