Theatre Brook 2005.7.7:NHK505スタジオ

NHK-FMで毎週水曜日夜に放送されているライブビートという番組があって、先日その収録に参加したばかりなのだが、それに続いて連チャンで参加することになった。今回は3バンドの出演となるのだが、私の目当てはシアター・ブルック。レコード会社を移籍し、先日新譜がリリースされたばかり。そのライヴを間近で、しかも申し込みのハガキ代だけで観れるとあっては、参加しないわけにはいかなかったのだ。





 収録の開始時刻は午後7時だが、待てど暮らせどバンドは登場しない。やがて前説をしていた人が出てきて、機材トラブルが発生したので少々お待ちください、とのこと。結局15分ほど待った後、やっとメンバーが姿を見せた。マンドッグという3人組で、ギター、ベース、ドラムというオーソドックスな編成。このバンドには「曲」というものが存在せず、持ち時間分延々とインプロヴィゼーションを繰り広げるという、ユニークなスタイルだ。


 軸になっているのは、ロバート・フリップを思わせるようなフレーズが見え隠れするギターだ。ベースは淡々と弾いていて、ドラムも序盤はシンバル中心におとなしめにリズムをとっている。しかしこれが、演奏を続けていくうちに徐々にヘヴィーなサウンドへと移行していき、おとなしかったドラムもいつのまにか激しいビートを刻むようになった。3人のコンビネーションは乱れることがなく、むしろどんどん密になっていく感じ。そのうちギタリストが、歌というより呻きのようなヴォーカルを発し、まるで太古の時代のような荒涼とした雰囲気が漂う。結局、彼らは25分間を演奏し切った。指は疲れないのだろうか?





 セットチェンジを経て、2組目となるマーブルシープ登場。こちらも先のマンドッグと同じく3人組で、ギター、ベース、ドラムという編成も同じだ。ギターは松谷健(マツケン!/笑)という大御所風の人、ベースはロングヘアの女性、そしてドラマーは先ほどのマンドッグでも叩いていた人。つまりは兼担していて、先ほどのマンドッグのプレイで疲労困憊していて、楽屋で休んでいましたが回復しました、という係の人からのアナウンスがあった。


 音はギターを軸にしたガレージロックで、マツケンは歌うときは楽譜立てに歌詞が書かれた紙を置いてそれをチラ見しながら歌い、間奏になると狭いステージ上をちょこまかと動きながら暴れている。ベースの女のコは終始にこにこしていて、楽しそうに弾いている。ドラムは、先ほどのマンドッグのときよりもワイルドなプレイだ。メインヴォーカルはマツケンで、バックコーラスを後の2人が務めている。終盤になると、フロアの方にマービーなる羊の着ぐるみマスコットが登場。ラストの曲のときには客の中に突入していて、客にもみくちゃにされながら踊っていた。





 更にセットチェンジで、先の2バンドは本人たちが準備や音合わせをしていたのに対し、さすがに今度は2人のローディーがやっている。しかしこのローディーたち、一向に下がる様子がなくて、そのうちに袖の方からシアター・ブルックのメンバーが登場。緊張感を欠いた登場に観ている方は不意を突かれた感じになってしまい、拍手もぱらぱら。佐藤タイジが、「もっと拍手あってもええんちゃう?」と苦笑いしていて、客の側は慌てて継ぎ足すように拍手をする。


 ローディーがステージに残って準備をしているままで、いつのまにか演奏がスタート。ゆる~いインストをしばし演奏していて、これもうライヴ始まってるのかなと思いながら観ていたら、やがて切り上げ、タイジが「以上、サウンドチェックでした♪」だって。で、仕切り直しでライヴがスタート。これがなんとアース、ウインド&ファイヤーの『September』で、しかも原曲よりかなりテンポを落とした、これまたゆる~いジャジーなアレンジに(なぜにこの曲をと思ったら、ニューシングルのカップリング曲としてレコーディングしている模様)。





 個人的には、シアターのライヴは過去に2度観たことがあって、それは2003年のフジロックと、同じ年の暮れの単独公演だ。今回はその2回よりも遥かにバンドに近く、増してや私はフロアの最前列に陣取っていたので、ステージの様子が手に取るようにわかる。タイジは前列右で、新譜『Reincarnation』のジャケットと同じ衣装。かなり長身で大柄というイメージがあったのだが、割と細身だ。その左がベースの中條卓で、こちらは黒を基調とした衣装。彼こそ長身だった。


 タイジの後方にはドラムの沼澤尚。この人は終始にこにこしていて、楽しそうに叩いていた。その左が、キーボードのエマーソン北村。小柄で華奢で、こ洒落た衣装を着こなした紳士といった佇まいだ。この2人も今やシアターのライヴではお馴染みなのだが、私が2年前に観たときはまだサポート扱いだった。それが今回正式メンバーとなり、つまり現在のシアターは4人編成バンドということになる。敢えてこうした表明をしているところに、バンド側に期するものがあることが伺える。


 タイジはほとんど1曲毎にギターを交換。ローディーがいつまで経っても下がらないのは、タイジと中條のそれぞれの楽器を交換するのをサポートするためだった。タイジのギターはほとんどがセミアコで、年季が入ったものが多い。ちょくちょくMCも入れていて、先日は某FM局(Tokyo-FM)で生放送をやって大変なことになったとか、7月1日にはリリースパーティーを実施して奇蹟的なことが起こったとか、そんなことを言っていた。共に参加していない私には、何があったのか気になるなあ(笑)。





 曲はもっと新譜中心になるのかと思ったらそれほどでもなく、新旧取り混ぜた形でライヴとしてのヴォリューム感を出している。個人的にも『Dread Rider』や『悲しみは河の中に』には、かなり力が入った。4人それぞれが発する音がいずれもクリアに聴こえるのは、さすがはスタジオ、さすがはNHK。がしかしそんな中、タイジのギターの音量だけがバカでかく(わざとそうしてる?)、聴いている方の耳を突き刺さんばかりに迫ってくる。耳の奥が振動でブルブルと震えているのがわかり、そして目の前がクラクラしてきて、倒れてしまいそうになる。今まで数多くのライヴを体験しているつもりなのだが、こんな感覚に襲われるのは初めてだ。


 そしてついに、シアター必殺となる『ありったけの愛』が始まった。エマーソン北村による優しくもさりげないキーボードの音色がイントロとなり、だけどすぐには歌にならず、タイジがメンバー紹介をする。紹介された他の3人はそれぞれにソロを披露し、そしてまたタイジに戻って来て、タイジはそれを受けてギターをガンガンに弾きまくる。それからやっと歌が始まり、エモーショナルなヴォーカルが炸裂し、サビになると客は両手を掲げて大合唱に。終盤はまたいつ終わるとも知れないインプロヴィゼーションとなり、最後にタイジが「NHK最高やんけ!」と言って演奏を締めくくった。


 ここで終わりでもおかしくないほどの熱の入りようだったが、更にダメ押しで今度は『立ち止まって一服しよう』が。これまたいつ終わるとも知れないインプロヴィゼーションの応酬となり、観ている側は足の裏が痛くなり、目がくらみ、頭がクラクラし、平衡感覚を失いそうになる。とにかく音圧が凄まじく、しかも最前列にいる私は、この音圧を客として最も近い位置で浴びている。しかしこれは苦痛のようで苦痛ではなく、紙一重で至福の瞬間になっているのだ。そんなこんなで、やっとライヴが終了。メンバーが袖の方に引き上げていくとき、タイジと沼澤がハイタッチを交わしていたのが印象的だった。





 アンコールを求める拍手も少しはあったのだが、時刻は既に10時20分を回っていた。係の人が出てきて、スタジオの使用時間が10時半までなのでと言い、そして半ばあきれ顔で、最後の2曲だけで35分以上も演ってるんですよお、と、もう勘弁して下さいとでも言いたげに終了を告げた。15分の遅れがあったとはいえ、収録は3時間以上にも及び、そしてシアター・ブルックは1時間という予定を大幅にオーバーして1時間半も演ったがために、こんなことになってしまった。


 今回の収録は、シアターブルックが7月20日に、マンドッグとマーブルシープは8月3日に、それぞれ放送される予定。番組は1時間放送なので、シアターのライヴは今回演奏された中から何曲かはカットされるはず。つまりは、この日この場にいた者だけが味わえた、恍惚の瞬間だったのだ。


(2005.7.11.)



















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