Jeff Beck 2005.7.3:東京国際フォーラム ホールA

2日もそうだったのだが、時間通りに開場はするも、リハーサルがおしているとのことで、入場が許されたのはグッズ売り場などがあるロビーまで。少しするとエスカレーターが開放されるが、昇ってみると、準備中とかで客席への入場はストップされている。そんなこんなで、客席に入れたのは、開場から20分くらい経ってからだろうか。2日連続でリハーサルがおすとは、先生の力の入りようが伺える。





 この日は定刻より5分ほど遅れて客電が落ち、メンバー入場。ジェフ・ベックはフロントが黒、バックがグレーのベストにジーンズといういでたちで、とにかく見た目が若い!体型はスリムで腕も足も細くって、御歳61歳とはとても思えないカッコよさに、「先生」呼ばわりしていた自分が恥ずかしくなる。オープニングは『Earthquake』だが、やはり演奏はサワリだけで、すぐさま『Stratus』へ。これがバンドとうまく掛け合いしていて、リラックスしていながらも精度の高い演奏になり、終盤では激しいドラミングが披露される。


 ジェフは相変わらず茶目っ気たっぷりで、ギターをライフルのように抱えてベーシストを指す。そしてベースのリフで、『You Never Know』が始まるという具合。こうした出だしに2日の公演では違和感を覚えたのだが、この日はナチュラルに流れているように思えた。公演を重ねるに連れて徐々に固さがなくなり、バンドのコンビネーションもより密になり、と、全てがいい方向に向かっているのではないだろうか。


 代表曲のひとつ『Cause We Have Ended As Lovers/哀しみの恋人達』では、相変わらずジェフの妙技が冴え渡り、邦題通り哀愁が漂っている。私は2日は1階の真ん中辺りで観ていたのだが、この日は10列ほど前になり、そしてより中央寄りになって、ジェフの一挙手一投足がより明確に見て取れた。それでわかったことだが、この人はピックを使っておらず、指で弦を弾いている。時折チョーキングをしたり、アームを使ったりしていて、そのさまは水を得た魚のように自由だ。





 ここでジミー・ホールが登場し、『Rollin' And Tumblin'』『Morning Dew』と2曲をヴォーカル入りで。サングラス姿のジミーは如何にも陽気な欧米人といった感じで、ちょこちょことステージ上を歩きながらシャウトする。そんなジミーを横目で見ながら、楽しそうにギターを弾くジェフ。ジミーはジミーであって、ロッド・スチュアートでもボビー・テンチ(第二期JBGの黒人ヴォーカリスト)でもないのだから、どうせなら『Flash』からの曲を歌わせればいいのにと、2日のときは思った。それがこの日は違和感がなく、バンドにフィットしているように思えるから不思議だ。


 さりげなさの中に深みを感じさせる『Behind The Veil』。実は名曲『Two Rivers』。重量感たっぷりの『Big Block』。いずれも89年作の『Guitar Shop』からだ。ジェフは89年にも来日しているのだが、私はこのとき東京に住んでいながら観に行かなかった。それ以前は田舎に住んでいたので観られなくても仕方がなかったが、このときは観に行こうと思えば行けたはずなのに、なぜそれをしなかったのかと、今更ながらに悔やまれてならない(私にとって、まだコンサートに行くことが習慣づく前だったのだが)。そんな後悔はもうすまいと、99年以降の来日は積極的に足を運んでいる。


 今やお馴染み『Star Cycle』はやっぱり場内を沸かせ、そして『Blow By Blow』からの『Scatterbrain』。2日のときはアレンジを大胆に変えていたような気がしたのだが、この日改めてじっくり聴いてみるとそれほどでもなく、スリリングな音色はそのままだった。ただ、ジェフのライヴはいい意味で荒っぽくなることが多く、アルバムに収録されている原曲そのままを求めると、肩透かしを食うことになる。





 開始がやや遅れたからということもあるのか、この日の休憩は5分程度で、すぐさま第二部がスタート。『Beck's Bolero』は自信と余裕に溢れ、続く『Nadia』ではドラマーがシンセドラムを手で細かく叩いていて、テクノ調のリズムが刻まれて聴いていて心地いい。看板曲のひとつ『Red Boots』で場内を温めたかと思えば、お次はまたあの曲だ。


 ステージのバックが無数の光で彩られる中、『Diamond Dust』が始まった。2日のときは初めてナマで聴いて全身鳥肌が立ったが、この日はまるで逆で、額や首から汗が流れ落ちてきた。ジェフの演奏自体に大きな変化はなく、聴いている側としてもゾクゾクさせられていることに変わりはない。なのに、生理的な反応が真逆になるというのは、奇妙かつ面白い。この普遍性を感じさせる曲を弾きながら、ジェフはいったい何を思い、何を感じているのだろう。





 ここでまたまたジミー・ホールがお目見えして、ジミヘンのカヴァー『Hey Joe』『Manic Depression』を披露。27歳で亡くなり、伝説にはなったが、ついに日本の地を踏むことは叶わなかったジミ・ヘンドリックス。片や61歳で今なお現役バリバリ、今回もこうして日本に来てくれているジェフ・ベック。同じ天才ギタリストだが、その生きざまはこうも違うものか。これも運命、いや宿命なのだろうか。


 『Good Bye Pork Pie Hat』はフルではなくワンコーラス程度に留まり、そして『Brush With The Blues』へ。99年の復活作『Who Else!』収録だが、この作品はテクノロジーを意識した作風になっていて、その中でブルースのこの曲はともすれば浮いてしまいがちだ。しかしそれが作品中でもライヴにおいてもそうはならず、かえってアクセントになってメリハリが効いた格好になっているのは、ジェフのブルースへの揺るぎない憧憬の念の表れなのだろう。


 そのメリハリを生かすように、『Blue Wind』が炸裂。間奏のときにジェフはついにベストを脱ぎ去り、白のスリーブレスのシャツ1枚の姿になった(演奏中、幾度となくベストの裾がストラトのボディに引っ掛かっていて、ジェフはそれを払いのけながら弾いていた)。シャープにして鍛え上げられた肉体が、より生々しく視覚に訴えてくる。これで61歳だなんて、信じられる?





 さてアンコール。『People Get Ready』はジェフとロッド・スチュアートが第一期ジェフ・ベック・グループ以来に組んでレコーディングした曲だが(この曲のPVがすごくいい)、ジミー・ホールの歌い出しは一瞬だがロッドに似ているような気がした。前後してジェフからメンバーの紹介があり、みんなそれぞれ挨拶する。いよいよ大詰めだ。


 他のメンバーはステージを後にし、ジェフとキーボードの人だけがステージに残った。そしてラストは『Somewhere Over The Rainbow』で、ジェフのギターが美しい音色を発し、キーボードの優しい音と相俟って、長いようであっという間だった、ライヴを締めくくった。2日の公演と比べると、『Going Down』が削られた具合になったが、幕引きとしては、むしろこの方がナチュラルなような気がした。





 今回の日本公演が発表になったとき、もちろん狂喜はしたが、と同時にジェフ・ベックのライヴを日本で観られるのは、これが最後になってしまうのではと思ってしまった。61歳という年齢もあるし、アーティストとして今後積極的に創作活動や世界を巡るツアーをしていくかどうかも、微妙なところに差し掛かっている気がしたのだ。ところが、2公演を観終えて私が感じているのは、この人はまだまだ元気で信じられないほど若々しく、そしてまだまだやる気なんだということだ。「ギター・ウォリアー」ジェフ・ベックは、これからも戦い続けていくはずだ。




(2005.7.5.)
















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