Green Day 2005.3.19:幕張メッセ国際展示場

高速道路が予想以上に渋滞していたがめに、会場入りできたのは開演時間を30分以上過ぎた頃だった。オープニングアクトのシュガーカルトのライヴも、既に終盤に差し掛かっていて、私が観れたのはラスト2曲程度。そのうち1曲は、モダン・イングリッシュ『I Melt With You』のカヴァーだった。彼らは異様に張り切っていて、「トキオ サイコー」を連呼。ラウドでありながらポップな音をかき鳴らしていた。





 セットチェンジの間にBGMが流れていて、曲によっては反応する場内。『Y.M.C.A.』になったところでは、ステージにウサギとゴジラの着ぐるみが登場し、相撲を取ったり客を煽ったりしていた。曲がラモーンズの『Blitzkrieg Bop』になり、その終わり際で場内が暗転。『ツァラトゥストラはかく語りき』をSEにして、グリーン・デイのメンバーが登場。これだけで場内は大興奮状態になり、そんな中を『American Idiot』のイントロが響き渡った。新譜からの曲ではあるが、場内は早くも大合唱状態。グリーン・デイファンの習熟度の高さを感じさせる。


 続いては大作『Jesus Of Suburbia』。5つの曲から成り立つ、9分にも渡る組曲なのだが、ライヴの場でも見事に再現してみせるメンバー。壮大なスケール感があり、パンクの基本を崩さないままに、バンドが大きくステップアップしたことが伺える曲だ。ビリーはドラムソロの前ではトレを、ベースのリフの前にはマイクを紹介して、それぞれの見せ場を演出。そしてメンバーおのおののプレイにも、より一層磨きがかかったように見える。


 『Holiday』~『Are We The Waiting』~『St.Jimmy』といった具合で、新譜『American Idiot』の前半部の曲が続く。物語性を帯びた作風はパンクオペラと呼ばれ、セールス的にも成功し、評論家筋からの評価も獲得した。では、ファンの評価はどうなのだろう、ライヴの場において、これらの曲はどう鳴り響くのだろうと思ったのだが、オーディエンスのリアクションも思った以上に上々。個人的にはアルバム序盤のみに留まってしまったのが少し残念で(公演地によっては2部構成にして1部で『American Idiot』を全曲披露、というのもあったそうだ)、後半部の方も聴いてみたかった。





 ステージ上の配置は、向かって左にビリー・ジョー、右にマイク・ダーント。後方のドラムセットは一段高くなっていて、そこにトレ・クールがいる。ビリーの左には、サポートのギタリストがいた。上の方の両端には縦長のスピーカーがあるのだが、そこにはアルバム『American Idiot』のジャケットにもある握り拳のイメージが映し出されている。バックには、電飾でさまざまな画像が映し出されていた。また、ステージ中央部からフロアに向かって、花道が突き出している。


 ステージの両端には一段高い壇があって、ビリーは何度となくギターを抱えたまま走り回り、壇に上がっては、その方面に密集しているオーディエンスを煽る。ステージ中央部に戻ってからも両手を上の方に突き出し、手拍子を誘う。そして「エ~~~~~~オ」「エ~~~~エオ」という掛け声で場内をノせる。今やグリーン・デイのライヴではお馴染みの光景だが、それにしてもビリーはこうした盛り立て方が実に上手い。グリーン・デイのライヴでは、オーディエンスは鑑賞者ではなく、参加者になるのだ。





 『American Idiot』からの曲がいくつか続いた後、耳慣れたリフが響く。今やグリーン・デイ・クラシックと言ってもいい『Longview』で、しかし古臭さや懐かしさはなく、成長した今のバンドによって、新たな命が吹き込まれたかのように張りがある。続く『Hitchin A Ride』や、『Brain Stew』~『Jaded』も同様。この辺りで、ビリーは水鉄砲をフロアに向かって連射し、続いてフロアから客をひとりステージに上げて水鉄砲を渡す。その兄ちゃんは向かって左端の壇に立って水鉄砲を撃ち、ビリーは右端の壇で水鉄砲を撃つ。


 そして『Knowledge』となるのだが、ここではサックスやトランペットのサポートも登場して、パンクというよりジャズっぽい雰囲気に。そんな中、今度はビリーはとんでもないことをやり始めた。ドラム、ベース、ギターの全てのパートを客にやらせようというのだ。まずはドラムだが、上がった兄ちゃんは少し叩いただけで、すぐにトレに代わってしまった。続いてステージに登場したベースとギターの兄ちゃんは、それぞれ無難にこなし、ジャムセッションのようになる。騒ぎが収まると、ビリーはギターを弾いた兄ちゃんにそのギターをプレゼントしていた。太っ腹だな。


 一瞬場内に漂った安堵感のような間を、「Do you have the time♪」「to listen to me whine♪」という、『Basket Case』の歌い出しがぶち破った。いつものパターンとはいえ、いつもながらにはっとさせられ、かつ心地のいい瞬間だ。もちろん何度目かの場内大合唱になり、バンドとオーディエンスとの間に一体感が生まれたのも、この日何度目になることだろう。しかし勢いはまだまだ留まるところを知らず、『She』を経て再び管楽器隊が登場し、セッション模様を繰り広げた。


 本編ラストは、『Waiting』から『Minority』へのなだれ込み。特に後者はわかりやすい曲調ということもあってか、場内の熱の上がりようも尋常ではない。間奏のときにはまたもビリーが「エ~~~~~~オ」「エ~~~~エオ」やあるいは「ハイ!ハイ!」という掛け声で場内を煽り、曲がいつ終わるとも知れないくらい、延々と引っ張られる。引っ張るだけ引っ張った後はきっちりと締めくくり、興奮が収まらないままに場内が暗転した。





 アンコールを求める拍手が鳴り止まない中、ステージ後方の上部にはバンド名の電飾お目見えしていた。これが「GREEN」「DAY」という具合で点灯し、やがて場内もこれに合わせて「グリーン!」「デイ!」と叫ぶようになる(なんだかガンズやヴェルヴェット・リヴォルヴァーのライヴみたいだな)。そうしているうちにメンバーは再登場し、『Maria』でアンコールは始まった。


 続いては『Boulevard Of Broken Dreams』。このツアーは新譜『American Idiot』に伴うツアーのはずだが、その割には新譜からの曲が序盤に固められてしまっていたので、ここでこの曲が聴けたのは、素直に嬉しかった。そして『We Are The Champions』へ。言わずと知れた、クイーンのカヴァーだ。『American Idiot』はコンセプチュアルでドラマチックな作品だが、その展開は見方によってはクイーン的と言えなくもない。そう考えれば、ここでクイーンをカヴァーするのも納得ができる。


 そしてそのドラマチックさに拍車をかけるように、花道とPAのところから紙吹雪が吹き上がり、天井近くにまで舞い上がった。大会場の利を存分に生かしたかのように、この日のライヴはこうした仕掛けも見事だった。何度となく火薬が弾け、炎が吹き上がり、そして紙吹雪だ。この紙きれ、手にとって見てみると『American Idiot』の握り拳がプリントされていたのだ。芸が細かい。


 ここで終わってもよかったのだが(ビリー以外のメンバーは、このタイミングでステージを後にした)、ビリーだけは花道に残り、幕引きとして『Good Riddance (Time Of Your Life)』を淡々と歌い始めた。ここまでさんざん騒いできたのがまるで嘘のように場内は静まり返り、そして切々と歌うビリーに注目。小柄なビリーはこの日どれだけアグレッシブにステージ上を動き回り、オーディエンスを煽り、ギターをかき鳴らし歌を歌ってきたことか。しかも今回の日本公演は4日連続で行われ、この日はその3日目にあたるのだが、そうした疲労感も中だるみ感もまるでないままに、ここまで突っ走ってくれた。もちろん他のメンバーもだ。そんなことを思い起こしているうちに、ライヴはついに終了した。





 長きに渡ってパンク小僧のイメージがあったグリーン・デイだが、その堂々たるたたずまいから、今や彼らは小僧ではなく、パンクの王者になったのだと感じた。かつてのパンクは、太く、短く、儚く、そしてそれこそが正しく美しいとされてきた気がするが、彼らがやっているパンクは、成長し進化するパンクだと思う。そして成長するのはバンドだけでなく、バンドを支えているオーディエンスもだ。




(2005.3.21.)































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