Beastie Boys 2005.1.14:日本武道館

チケットをよく見もせずに、てっきり7時開演なものとばかり思い込んでいた(6時半開演だったことを、終演後に確認した/汗)。武道館に到着したのは6時40分頃で、グッズを買い、入場して自席に着いたのが50分過ぎ。既に場内は真っ暗で、オープニングアクトであるル・ティグラがライヴを行っていた。3人組のガール・ユニットで、ヴォーカル、ベース、キーボードという編成。私が観たのは終盤3曲くらいだったが、音は打ち込みを多用し、また曲によっては後方のスクリーンで映像も駆使。ぶっきらぼうなコーラスが微笑ましく、如何にもビースティーズが前座に起用しそうな連中だと思った。ただ、彼女たちにとって、武道館は広すぎたかも。





 この後セットチェンジに約40分ほど要し、7時40分過ぎに場内が暗転。スクリーンに楽屋の様子が映し出され、見るとミックス・マスター・マイク(以下MMM)がキッチンで皿洗いをしている(笑)。皿を洗う仕草をDJスクラッチに見立て、思わず笑ってしまう。そのうちにおい出番だぜとばかりに引っ張りだされ、ステージに向かってゆっくりと歩き出す。カメラはその様子をずっと追い、やがてほんとうにMMMがステージに姿を見せた。


 いつのまにか、ステージ後方の中央には高い段が用意されていて、そこに陣取ってプレイを始めるMMM。ジミヘンの『Purple Haze』を、ちらっとやって見せたりして。魔法のような手さばきがスクリーンにも大写しになり、やがてカウントダウンが始まる。ゼロになったところでビースティー・ボーイズの3人が登場。3人ともオレンジにグレーのアディダスのジャージを着ていて、そしてキャップをかぶっている。ライヴは、『Brass Monkey』でスタートだ。


 ステージは、MMMが陣取る高い段のほかは、3つの大きなスクリーンが並べられているだけという、シンプルなもの。スクリーンは大きなのが上の方にも吊るされていて、それぞれ映像を流しつつ、ステージ上の3人のアクションをシンクロさせるという編集がされていた。そして3人はステージ上をランダムに動き回り、もちろんラップを刻む。3人とも結構いい年のはずなのだが、ラップはマシンガンのように途切れることがなく、そしてアクションもゆるむことはない。3人のジャージをオペラグラスで見て見ると、おのおののネームが右胸に確認できた。そして、MCAは28、マイク・Dは24、アド・ロックは3といったように、背番号もあった(MMMは5番)。意味はあるの?





 私は直接は観ておらず、雑誌やネットなどで知り得た限りなのだが、昨年夏に行われたサマーソニックでのビースティーズのステージは、必ずしも好評ではなかったようだ。ヒップホップのライヴは、欧米ならともかく、ここ日本でスタジアムクラスのキャパでやろうというのは、まだ早いのかななんて勝手に思っていた。なのでこの日のライヴも、消化不良や空回りに終わってしまうのではないかと、実は心配していた。だけど、もはやそんな心配は無用。彼らの圧倒的ともいえる存在感がラップを通してびしびしと伝わってきて、やはり彼らはスタジアムクラスのユニットなのだということを、改めて認識させられる。


 今回はアリーナがオールスタンデイングになっていて、計6つにブロック分けされている。そのせいもあってか、場内のヒートアップ度も凄まじい。私はスタンド席にいたのだが、アリ−ナのモッシュ大会の凄まじさは、上から観ていても充分に伝わってくる。席のあるなしは、やっぱりライヴに影響するんだなあと実感。そしてアリーナの熱さがこのライヴを牽引しているように思え、場内を密度の高い空間に変貌させていると感じた。もともと武道館はすり鉢型の形状で、キャパ1万人の会場ではあるものの、ステージと客席との距離をあまり感じさせない空間だ。ではあるが、実際に密閉感を体感できるライヴというのは、あまり多くはない。





 いったん3人はステージを後にし、MMMのDJプレイとなる。2つのターンテーブルにレコード盤を滑らせ、その手さばきがまたしてもスクリーンにクローズアップされる。回すというより、まるで鍵盤をなめらかに弾いているかのようなナチュラルな技だ。そして人影がステージ後方のカーテンの奥に消えて行くのが見え、するとそのカーテンの方からバンドの機材がセッティングされた台が、ゆっくりとステージにお目見えした。上の方にはお祭りのように提灯がぶらさげられ、暗いステージの中において妖しく光り、ムードも満点。ここでまたしても、場内は興奮の坩堝と化した。


 台がステージ中央に収まり、いよいよバンドセットがスタート。アド・ロックがギター、MCAがウッドベース、マイク・Dがドラムだ。右端にはキーボードでマニー・マークが、左端にはパーカッションの人がいて、計5人の編成になっている。5人とも水色のタキシードを着ていて、そしてサングラスをかけている。まるで、結婚式での演奏を担当するバンドみたい。曲はフュージョン~ファンク色の濃いインストがほとんどで、先ほどまでのラップセットでの騒ぎとは対照的に、じっくりと聴き浸るモードになった。





 バンドセットが終わってメンバーがステージを後にすると、スクリーンにはこの日の開場前に場外で撮影したと思われる映像が。みんな英語や日本語でリクエストをしている。神戸から来ていて大阪も観たとかいう気合いの入った人もいたし、メンバーの名前がプリントされたTシャツを着ている人もいた。リクエスト曲は、『Intergalactic』『Egg Man』『Body Movin'』辺りが多かったかな。しかしオープニングといい、観る側を少しでも楽しませようという姿勢が出た、こうした構成は見事だ(個人的には浜田省吾のライヴ以来だ)。 


 そしてメンバーが赤いTシャツに着替えてラップセットで再登場し、いよいよ後半戦。『Open Letter To NYC』では新譜『To The 5 Boroughs』のジャケットにも描かれ、また彼らの本拠地でもあるニューヨークの街並みが、スクリーンにうっすらと浮かび上がる。『Body Movin'』では、3人も場内もタテノリモードに。『3 MC's And 1 DJ』での出だしのハモリも絶妙だ。新譜の顔的な曲だとも言っていい『Check It Out』では、「ちぇっちぇちぇっちぇっちぇっちぇちぇきら~っ♪」と、場内大合唱に。勢いは、留まるところを知らない。


 『So Whatcha Want』を経て、いよいよ必殺の『Intergalactic』のイントロが。スクリーンには宇宙や銀河の映像が繰り広げられていたのだが、ここではスクリーンどころではなかった。3人の中で最も地味と思われていたMCAがなんとステージを降り、アリーナに降臨。Bブロック最前のオーディエンスとタッチを交わし、続いてBブロックとCブロックの間の通路にまで足を伸ばし、両サイドから差し伸べられる手でもみくちゃにされる。そうすると今度は反対側へ行き、AブロックとBブロックとの間へ。武道館でアリーナをスタンディングにするというのも稀なことだと思うのだが、そのアリーナでこんなことが起こってしまうのも、また稀なのではないか。





 アンコールは再びバンドセットとなり、今度はMMMも加わって、オールスターキャストになった。まずは軽くMCで、ロースンロースンと言っていて、チケットをローソンで買ったのかと言っているらしいと、みんな理解し始める。ロースン?ファミリーマート?サンクス?そんな問いかけに、手を挙げて応えるオーディエンス。でも、なんだこれ(笑)?それはさておき、先ほどのバンドセットがフュージョン/ファンクなら、今回はハードコアモード。MCAも、ふつうのベースを弾いている。曲は意外な『Gratitude』を経て、アド・ロックが最後にMCを。次の曲が最後の曲で、そしてこの曲はアメリカ大統領のブッシュに捧げる、と言って放たれたのは、『Sabotage』だった。マニー・マークが、全身を躍らせながら鍵盤を叩いていた。








 この3人って、誰がリーダーシップを執っているとか、そういうのあるのかな?プレイではアド・ロックがサービス精神を発揮して精力的に動いてくれていた気がするが、基本的には3人が3人ともフラットな関係にあって、つかず離れずの絶妙の距離感を保ち、それがいいバランスになってビースティーズが成り立っているように感じる。たたずまいは極めてシンプルだが、そのようにあらんとすることは、実はとても難しいことに違いない。




(2005.1.15.)


































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