Sketch Show 2004.12.18:The Garden Hall

 恵比寿ガーデンプレイスは今年オープン10周年を迎えるそうで、構内にあるライヴハウスのガーデンホールでも、10周年を記念したライヴが続いている。今回のスケッチ・ショウのライヴも、その一環だ。ガーデンホールは入り口を通ると右側の階段を上がるのだが、上がりきったところではグッズ販売はもとより、10周年記念ということでビュッフェが設けられていた。ワインやビール、ジュースなどのほか、おつまみなどがいただけるという具合だ。





 開演時刻になり、まずは青木孝允が登場。ステージ後方には機材やドラムセットなどが設置されているが、これらはきっとスケッチ・ショウのものだろう。青木はその前に用意された卓の前に立ち、2台のiBookを駆使して硬質の電子音を発する。本人はノリ気味で体を小刻みに揺らしながら操作しているが、音そのものがさほどダンサブルでもないため、フロアのオーディエンスは直立不動でステージをじいっと観るという具合。途中2回ほど、熱と振動のためとかでiBookがフリーズしてしまうという、気の毒な場面もあった(こんなこともあり、途中からミニ扇風機が卓に設置された)。ラストは、アコギ弾き語りで切々と歌っていた。意外だ。


 続いては半野喜弘。向かって右の卓で同じくiBookを操作し、しばらくの間は電子音の世界が繰り広げられる。すると、袖から外人が出てきて、フランス語か何語かで詩を朗読する。入れ替わりに別の外人が現れ、今度は英語で朗読を。音は環境音楽のようなぼわぼわした感じから機械的な音に変わり、やがて人間的な温かみを感じさせる音へと変貌。すると、袖の方から追加メンバーが出てきて演奏に加わる。チェロ、女性コーラス2人、ウッドベース、そしてサックスで、電子音と生音との融合になる。


 するとまたまたゲスト登場で、なんとクラムボンの原田郁子が。彼女はステージの左端に陣取り、キーボードを弾きながら2曲ほど歌う。べたついた声質で、歌い方にもかなりクセがあるのだが、これがこの人が持ち合わせている味なんだろうな。原田郁子が下がった後は、コーラスの女性が交互にリードヴォーカルを務めて、それぞれ熱唱した。電子音オンリーではない、多種多彩な編成と音の世界だった。





 ここまでで開演から2時間が経過していて、ずーっと立ちっぱなしで足の裏や膝の裏が痛くなってきた。そんな中を淡々とセットチェンジが進み、そしていよいよスケッチ・ショウが登場。細野晴臣は向かって右の機材に囲まれた狭いスペースでベースを弾き、高橋幸宏は向かって左側で、まずはおもちゃの鉄琴のようなものを叩いている。


 2曲目『Turn Turn』に差し掛かったところで幸宏はドラムセットに移動し、袖の方からはコーネリアスこと小山田圭吾が姿をみせた。細野の右側に立ち、軽快にギターを弾く小山田。既に共演経験があるとはいえ、大御所2人を前にしても少しもたじろぐところがなく、ディストーションを効かせてギターを唸らせている。2人の方も、逆に若き才能とのコラボレートを楽しみ、小山田に好きにやってもらうことを望んでいるのではないだろうか。


 幸宏の後方には、VJとして黒川良一がいる。ステージ後方にはスクリーンがあるのだが、黒川の手によって、曲にリンクするように映像が繰り広げられる。しかし、小山田が操っている機材でも映像の一部を加工できるらしく、その場において映像は微妙に変化。また小山田は、コードの先端を卓にこすりつけて軋んだ音を出す。幸宏のドラムは時にメリハリがあり、細野は時折iBookをいじりはするが、基本的には淡々とベースを弾いている。一見各人がごちゃごちゃといろいろなことをやっているように見えるのだが、トータルとしてはとてもシンプルなステージのように思え、それがまたカッコいい。





 客層は、大きく2つに分かれているように思えた。つまり、YMO時代からフォローし続けているであろう年配の人たちと、コーネリアスのファンと思しき若い人たちだ。歓声をあげていたのはほんのひと握りの人たちに過ぎず、魅入っている人が多かったように感じた。しかしそれは、ライヴの精度が恐ろしいまでに高く、その場にいる者全てを引き込むような磁場が発生しているからであり、決して凡庸な内容だからではない。私も、正直驚いている。スケッチ・ショウは去年のAudio Forma #2というイベントで1度観ているのだが、このときは生楽器を使わずほとんど電子音楽中心だった。今回は、幸宏や細野の肉体的な躍動感がひしひしと伝わり、それがこんな狭いライヴハウスで間近で観れてしまっていいのだろうかという、妙な後ろめたささえ感じてしまう。


 本編は、約1時間ほどで終了。アンコールになると青木や半野も登場し、オールスターキャスト状態の中、細野がひとりずつ紹介する。そして曲だが、青木が手がけた『Mars』のリミックスバージョンを、ナマで披露するとのことだ。青木や半野はそれぞれステージの両端に陣取ってiBookを駆使し、中央部の大御所2人と小山田は、本編と変わらぬ精度の高い演奏を披露。そしてその後方では、やはり映像が繰り広げられた。オールスターキャストという豪華さとは裏腹に、緊張感に満ちた演奏だった。





 単発のプロジェクトに終わるかと思われていたスケッチ・ショウだが、作品はぽつぽつとリリースされているし、ライヴ活動に至っては、かなり精力的に行われている。今年の夏はサマーソニックに出演し、10月にはスペインのフェスティバルであるソナーを日本に持ち込んだ、ソナーサウンドに登場している(ここでは坂本龍一とも共演)。そして今回は2組のアクトを従える形ながら、久々となる単独ライヴだった。この先の活動がどうなるのかははっきりとわからないが、大御所2人はまだまだやる気だし、期待してもいいと思う。





(2004.12.25.)



















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