Radiohead 2004.4.18:幕張メッセ国際展示場

17日の公演では、ALブロックというステージ向かって左前方のポジションだった私だが、この日は反対側つまり右前方となるARブロックに陣取っている。開演前のBGMも、音がぼわぼわしていてびっくり。ポジションによって、音の良し悪しがあるんだなと痛感する。そして17日と同じように、開演時間になるとスタッフが縄梯子でステージ上部に登り、準備ができたところで場内が暗転した。





 ステージの両端には、それぞれパーカッションが配置されていた。もしやとは思ったが、少しの間SEが響いた後、フィルの合図に続いてジョニーとエドがスティックで叩き始めた。そしてトムがギターを弾きながら歌い、『There, There』でライヴは幕を開けた。決して17日の出だしが悪いとは言わないが、私にとっては、やはり今の彼らにはこの曲でライヴをスタートさせて欲しかった。ジョニーは中盤でギターに持ち替えて弦をかきむしるが、ラストではまたパーカッションに立ち戻るという、慌ただしくも頼もしい活躍ぶりだ。続くは17日のオープニングだった『2+2=5』で、これは昨年夏のサマーソニックのときと全く同じ出だしということになる。


 この日の私のポジションはARブロックということで、つまりはジョニー側だ。広い会場でステージとフロアとの距離もあり、かつ長髪に顔面が覆われているので、その表情はほとんどわからない。ではあるが、全身を躍動させながらギターやキーボードを弾くその姿を見れば、この人の音楽に対するこだわりとひたむきさが、痛いほどに伝わってくる。そして17日のときはほとんど見えなかった後方の2人だが、フィルは白いスーツ姿で淡々とバスドラを刻み、ドラムセットに寄り添うように、つまりオーディエンスには背を向けてプレイする形になっているコリンは、ベースを弾きながらぴょんぴょん跳ねていた。


 フロントマンで、ふだんはMCのほとんどを担うトム。17日は日本語を連発し、かなりアットホームなムードを漂わせていたのだが、この日はほとんどMCを発することがなく、歌と演奏に集中している。トムのこの姿勢がこの日の演奏を象徴していて、場内の雰囲気を引き締まったものにしている。尋常ならぬ緊張感が漂い、やはり日本最終公演となると違うなと思う。これは2001年来日時の最終公演となった、横浜アリーナ公演のときにも感じたことだ。





 レディオヘッドのライヴはセットリスト固定ではなく、日々少しずつ変化する。なのでファンとしては1公演では飽き足らず、つい複数回足を運んでしまうのだ。この日はなんと『Kid A』が披露され、しかもオリジナルとは異なるトムのヴォーカル入り。そのトムだが、傍らに用意した電子楽器を時折手で触り、すると鉄琴のような透き通った音色が発せられる。続いてはトムがピアノを弾きながら歌う『Morning Bell』で、これも前日には演らなかった曲だ。この曲は、むしろフィルの淡々としたドラミングの方が印象に残る。


 しかし、日替わりはそれだけに留まらなかった。『The Bends』収録の曲だが、ライヴで披露されるのは非常に珍しい『Bullet Proof...I Wish I Was』。正直言ってオーディエンスの反応も薄かったし、私自身も喜んだというよりはむしろ呆気に取られてしまったのだが、派手さこそないが優しさと美しさを感じさせる曲だ。個人的にはレディオヘッドの作品の中で好きなのは『Kid A』であり最新作の『Hail To The Theif』なのだが、しかしセカンド『The Bends』は、ギターバンド期の作品でありながら、聴けば聴くほどにハマってしまう底知れぬ魅力を備えているアルバムだ。


 そしてクライマックスは、幻惑的なイントロの『Backdrifts』を経た後にやってきた。またまた『The Bends』からの『My Iron Lung』で、しかもこの曲は、私がレディオヘッドと向き合うきっかけになった曲でもあったのだ(『Creep』ではなかったのです)。静から動への転化が見事な展開を見せ、サビのところになるとヴァリライトが閃光し、トムの聞き取れない低音ヴォーカルが地を這うように突き進む。そしてこの場において見せ場を作ったのは、実はジョニーだった。ほとんどステージ向かって右を定位置にしているこの人だが、このときは中央へ歩み寄り、トムとエドの間に陣取ってギターをかきむしっている。まさにこのときのジョニーは、「体だけが勝手に動いている」状態だったのではないだろうか。





 『Sail To The Moon』『Go To Sleep』といった、最新作からの曲を畳み掛けると、なぜか筋肉がどうこう~♪という日本語のサンプリングとなり(そのときのテレビかラジオの音を拾ったのかな)、そして『The National Anthem』の重低音イントロへ。17日は終盤に演奏されていたので、え、もうこの曲なの?という印象を持ってしまった。それくらいこの日のライヴのテンションは終始高いままに進んで来たし、間延びする瞬間もほとんどなかったのだ。もちろん、いつ何時どこで行われるライヴの場でも彼らはそうしてきたと思うが、その時点でのベストのパフォーマンスをせんとする姿勢が、この日ほどにじみ出ていると感じられたときはない。


 『Scatterbrain』『Sit Down, Stand Up』と、またまた最新作からの曲が続く。『Hail To The Theif』は、トータルで凄い作品だとは思っても、個々の曲は決してキャッチーではないというイメージがあったのだが、ナマを体験した今となっては、そうした先入観もあっけなく崩れ落ちてしまった。そう思わせるのは他ならぬ彼らの力量であり、ツアーの成果なのだろう。そして、先ほどの『Bullet Proof...』にも劣らないレア度を誇る『Exit Music』を経て、トムの阿波踊り(笑)が炸裂する『Idioteque』で本編は締めくくられる。





 アンコールは、トムがタンバリンを手にしてリズムを刻みながら歌う『I Might Be Wrong』で始まり、更には『Pyramid Song』と、『Amnesiac』からの2連発となる。17日はこの作品からの曲が少なかったので、『Hail ~』がリリースされた今となっては、(ことばは悪いかもしれないが)谷間的な作品になっちゃったのかななんてことも思ったのだが、どうやらたまたまそうなっただけのようだ。そして『Hail ~』のラストを飾る『A Wolf At The Door』となり、いよいよライヴが終末に向かっていることを予感させる。


 そしてお次は、なんと『Street Spirit』。1998年の『O.K.Computer』のツアーのときは、アンコールのラストとして演奏されることの多かった曲だ。というか、セットリストが日々変化することは知っていたつもりだったけど、こうまで大胆にいじられるとは思わなかったし、おかげで聴きたい曲の大半は聴けてしまい、お得感たっぷり(笑)。2公演はまるで印象の異なる内容になったし、2日間続けて観てよかったなと、すっかり満腹状態である。





 さて2度目の、つまり最後のアンコールになり、ジョニーの歪んだリフをイントロにして始まる『Planet Telex』を経て、『Everything In It's Right Place』となる。この日も17日と同じく、終盤になるとトムはステージ前方ぎりぎりのところにまで立ち寄っておじぎをし、拍手をし、飛び跳ねながら真っ先にステージを後にした。少しするとフィルとコリンが一緒にステージを離れ、最後に残るのはジョニーとエドの2人。しかし今回はほぼ同時にステージを後にし、電子音の残響がややしばらく響くが、やがてスタッフがステージに現れて機材のスイッチを切り、これで全てが終わった。











 開演前には気になった音の悪さだが、開演中私のポジションにおいては、不思議とほとんど気にならなかった。『Everything ~』のラストでは、例によって「FOREVER」の電飾がひっきりなしに右から左へと流れていた。またトムは、この日の数少ないMCの中で、確かすぐ還って来るというようなことを言っていた気がする。つまり彼らのライヴをまた拝めるのに、そんなには時間がかからないかもしれない。


 サマーソニックのときのように必殺の『Creep』こそなかったが、それでも個人的にはライヴの出来には充分満足している。誤解を恐れずに言わせてもらえれば、『Creep』は安易に連発するのではなく、ツアーに1度とか、年に1度とか、そのくらいの極少の頻度で、ここぞというときの決めの一撃として放ってくれれば、私はそれでいいと思っている。








 彼らはほんとうに凄いバンドになったが、各人ひとりひとりは決して派手なキャラクターではなく、むしろ驚くほどに地味だ。しかしそれだけにこの5人の結びつきはとてつもなく堅く、そして深いように思える。この日の公演において、トム、ジョニー、エド、コリンの4人が、おのおのの楽器を弾きながら寄り添う場面が何度かあって、そこに私はこのバンドのスタンスを垣間見た気がする。この5人のうち、誰が欠けてもバンドは成り立たなくなるだろうし、逆に言えば、この5人ある限りレディオヘッドは永遠に続いて行くのだと思う。




(2004.4.20.)































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