Radiohead 2004.4.17:幕張メッセ国際展示場

開演の1時間半くらい前に会場に着いたのだが、外のグッズ売り場前には既に長蛇の列ができていた。時間的に余裕があるとはいえ、こりゃ開演前は避けた方がいいなと思い、ひとまず入場。内部は9番ホール部分がステージとAブロック、10番ホール部分がBブロックという構成になっていたが、11番ホールにもグッズ売り場が2箇所あって、外より断然すいている。なのでココでTシャツを購入。売り場の分散化とは、プロモーターも少しは考えたな。同じ11番ホール内には、フェスに出ているような出店があり、またオフスプリングやサマーソニックのチケットも発売されていた。





 開演前のBGMはレゲエがほとんどで、予定時間を過ぎたところでスタッフが縄梯子を伝ってステージ上部に登る。そうして15分ほど過ぎたところで、場内が暗転。割れんばかりの歓声が沸き起こる中、メンバーがステージに登場。それぞれが持ち場につく間、既にチッチッチッチッ・・・という、イントロのSEが始まる。やがてトム・ヨークが歌い始め、『2+2=5』でライヴはスタートした。先日来日記念盤としてこの曲を軸にしたミニアルバムが発売されたということもあるのだが、『Hail To The Thief』の冒頭を飾っているこの曲は、今回のツアーのテーマ曲的な位置づけになるのではないだろうか。歌いながらトムが両手で手招きし、それに場内は一層どよめく。


 続くは、イントロの重低音が印象的な『Myxomatosis』。ステージセットは昨年夏のサマーソニックのときとほとんど同じと思われ、後方に5本の鉄骨と電飾柱があるという具合。ただ今回は、ステージの両端に縦長のコンパクトなスクリーンがあって、時にはトムのアップをモノクロで、また時には画面分割してメンバー全員をフォローしている。メンバー配置もこれまでと同様で、中央にトム、左に大柄なエド・オブライエン、右にはジョニー・グリーンウッド。トムの真後ろにはフィル・セルウェイ、そしてドラムセットに寄り添うようにコリン・グリーンウッドが陣取っている。


 5人の調子は好調そうに見え、特にトムが序盤から異様なまでに踊り狂っている。「一番調子が出るのは自分でも何をやってるかわからなくなって、体だけが勝手に動いているとき」と以前インタビューで語っていたのが私には印象的なのだが、この日はそれが序盤からできているのかな。そしてこの日、私はALブロックに陣取っていた。つまりはエド側なのだが、今までのライヴだとついトムやジョニーにばかり目が行ってしまっていたが、今回はこの人の動きに注目することが多かった。その大柄な体格からはちょっとイメージしにくい裏声によるバックヴォーカルは、トムのメインヴォーカルと相俟っている。


 一方のジョニー、この人も基本的にはギタリストなのだが、付近にはキーボードやらコンピューターやらいろいろと機材があって、曲によってこれらを手際よく使いこなしている。フィルとエドは、この日の私の位置からはよく見えなかったのだが、リズム隊としてサウンドの屋台骨をしっかりと支えているようだ。私は『Kid A』以前のレディオヘッドは、トムが牽引しているバンドだと感じていたのだが、現在はトムとジョニーを軸にしつつも、5人それぞれが重い役割を担い、そして鉄壁のコンビネーションによって極上の音の世界を作り上げているように見える。そうして放たれる『Hail To The Theif』からの曲は、異次元のような世界観でありながら、リアリティを以って観る側聴く側に迫ってくるのだ。





 新作からの曲の演奏のテンションは高く、オーディエンスのリアクションも良好。近年の彼らのライヴでは、1曲毎に機材がステージ上に出し入れされていて、ともすればそれはライヴそのもののテンションを削いでしまいがちなのだが、この日のライヴではそうしたことはなかった。そして『Lucky』『Just』といった、今やレディオヘッドクラシックと化した感のある曲については、更に歓声が大きくなる。この辺りはギターを軸にしたロックナンバーなのだが、ライヴの場ではトムのヴォーカリストとしての表現力が増幅されていて、更なる凄みを帯びているように感じる。前者には壮大な世界観が宿り、後者には静から動への劇的な転化があって、共に聴き惚れてしまう。


 『Hail To The Theif』に伴うツアーということであれば、昨年夏のサマーソニックで既に彼らのライヴを観てしまっている。なので、今回のライヴもそのときと変わり映えしない内容になり、野外と屋内という舞台の違いこそあれ、ほとんど同じ印象になってしまうのではないか。実はそんな心配もしていたのだが、全くの杞憂だった。確かにサマーソニックのステージは群を抜いた素晴らしいものだったが、フェスティバルのトリつまりは締めということもあったのか、その時点までのレディオヘッドの集大成のような印象がある。しかし、今回は明らかに『Hail To The Theif』を前面に出していて、そして各地でツアーを重ねてきた成果なのか、どの曲も引き締まった演奏になっているのだ。


 どこまで凄い音楽を作り上げようとも、彼らは決して自らを神格化された存在に置こうとはしないし、常に私たちファンと同じ目線であり続けようとしてくれる。そして、それが自国においてならまだしも、遠くはなれた極東の島国のファンにまでそうした愛情を注いでくれるのが、たまらなくありがたい。超大物アーティストになればなるほど、メディアへの露出はコントロールされ、また日本への足も遠のく傾向にある。世界をマーケットにしていれば、それは仕方のないことなのかもしれないけど、でもやっぱり、8年だ10年だなんて間が空いてしまうのは、待つ身としてはキツいのです(笑)。だけど『You And Whose Army?』での、歌いながらカメラに向かっておちゃめなことをしているトムを観ると、アーティストとオーディエンスとの壁は、実は私たちの方で勝手に作っているんじゃないかという気にさせられる。





 『Climbing Up The Walls』から、曲間を切らさずにコリンの重低音ベースがイントロの『The National Anthem』へとなだれ込み(このつなぎは見事だった)、いよいよライヴが終盤に差し掛かったことを予感させる。ジョニーがステージにうずくまるようにして電子機材を操り、トムは何かが乗り移ったかのように、全身を震わせて踊る。続く『Fake Plastic Trees』では、アコースティックギターを弾きながら切々と歌うトム。それが徐々にヴォルテージが高くなり、またまた静から動に転じる劇的な瞬間を迎えるのだ。しかもこの曲はそれだけに留まらず、ラストにまた静に立ち戻るという、非常にヴォリューム感に演奏になっていて、私にとってはこの日のライヴのハイライトだった。


 『Sit Down, Stand Up』ではステージがヴァリライトで彩られ、続く『Paranoid Android』は、先ほどの『Fake ~』にもひけをとらない密度の濃い仕上がりに。そして曲が終わるとステージにパーカッションが用意され、ああ来るなと思った。現在の彼らのテーマ曲的な位置づけにあり、また勝手に私自身のテーマ曲にもさせてもらっている、『There, There』だ。フィルのドラムを中軸に据え、ジョニーとエドのギタリスト2人が、ステージ両端でパーカッションを叩く。ジョニーは上体を大きく揺らしてスティックを叩くのに対し、エドはほとんど直立不動でまるでリズムマシーンのように淡々と叩いている。そしてダメを押すように、トムの切なくも美しいヴォーカルだ。時代を切り開かんとする5人の勇姿、そしてその姿を目の当たりにできている幸福感を噛み締めつつ、本編が終了する。





 アンコールは、トムのピアノによる『We Suck Young Blood』で始まった。退廃的なムードが漂うゆったりめの曲で、最初Bブロックの方から自然発生的に手拍子が起こったのだが、エドとコリン、フィルが手拍子の音頭を取り、オーディエンスもそれに合わせるようになった。3万人以上を収容するとされている会場だが、トムが切々と歌うときはじっと聴き入り、そして手拍子を合わせるところはきれいに揃って、こんなにたくさんの人がきちっと手を叩けるのってすごいよな、とか思いながら、もちろん私も一緒に手を叩いた。


 お次は、またまたドラマティックな『Karma Police』。何度も繰り返し書いている気がするが、この曲も静と動のコントラストが見事な名曲だ。『Kid A』以降の曲は電子音楽を重要なファクターにしているため、アコースティックを基調とする曲は逆に物凄く心に響いてくる。電子音楽を駆使するも、生楽器を弾くも、同じ生身の人間。そしてライヴという場では、その生身臭さがもろににじみ出てくる。続く『idioteque』は、生身臭さとは対極にありそうな曲であるにもかかわらず、この場においてはエモーショナルだ。トムは我を失ったかのように飛び跳ね、序盤でも見られた「体だけが勝手に動いている」状態になっている。そしてこの場を締めたのは、『How To Disappear Completely』。『Kid A』はシングルカットなし、PVなしというスタイルを取っていて、『Amnesiac』では逆にそれをしていたにもかかわらず、今回『Kid A』の曲が個々に際立ちを魅せているのは、まさにライヴならではなのだろうか。





 やや間があって、2度目のアンコールになる。本編を締めたときも、最初のアンコールで出てきたときもそうだったのだが、この人たちは笑みを浮かべ拍手しながらステージに姿を見せた。そしてややかすれたイントロで始まった演奏、やっぱり『Planet Telex』だった。実は2度目のアンコール前に、スタッフがステージ上のセットリストを貼っていたように見えたのだが、これって予定を切り替えたのか、それともここまでの流れで今日はコレにしよう、という感じだったのかな。


 そしてラストは、『Everything In It's Right Place』。中央でトムがエレクトリックピアノを弾きながら淡々と歌い、両端ではジョニーとエドがうずくまって機材を操作。終盤になるとトムはピアノを離れ、ステージ前方ぎりぎりのところにまで立ち寄り、おじぎをし、拍手をし、飛び跳ねながらステージを後にした。フィルとコリンのリズム隊もやがて挨拶をしてステージを離れ、残ったのはジョニーとエドの2人。いつ終わるともしれない電子音を発し、果たしてどっちが最後まで居残りするんだというムードに(笑)。先に去ったのはジョニーの方で、最後の最後まで粘ったのはエドだった。そしてエドもステージを後にし、無人のステージには電子音だけが延々と響き渡る。やがてスタッフが出てきてその音を止め、後方には「FOREVER」の文字がひっきりなしに流れた。この曲を聴くと、これが締めくくりというより、新たな幕開けのように私には思えた。











 彼らは決して、ライヴに対して絶大な自信を誇るバンドではないと、私は思っている。トチリもすればバランスがちぐはぐなときもあり、曲自体やり直すことだって珍しくはない。この日は日本公演のラス前で、ことばを悪くすれば谷間に当たり、ミスが目立つことも覚悟して私は臨んでいた。そうした下衆な勘繰りは2曲目の『Myxomatosis』で早くも払拭され、以降アットホームなムードを漂わせながらも質の高いライヴが続いたのだが、とすれば最終となる18日の公演は、これ以上の密度の高いものになることを、期待してしまう。




(2004.4.18.)































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