Kraftwerk 2004.2.29:Zepp Tokyo

クラフトワークはグッズをたくさん用意してくれるアーティストだが、しかしこのグッズは毎回ことごとく即効で売り切れている。過去、98年赤坂ブリッツの公演でも、また一昨年のエレクトラグライドのときでも、私が目にしたのは売り切れましたという告知だけだった。それならと、今回は開場時間前に現地に到着し、先行販売に乗り込んでの調達を試みる。めぼしいアイテムはほとんど売り切れていたり、サイズがXLしかなかったりしたのだが、そうした中でTシャツ1枚を購入。6年越しで、やっと手にできたのだ。





 開演時間ちょうどになるとイントロのSEが流れ出し、そんな状態が5分ほど続いたところで客電が落ちる。ステージを覆う幕の中央部が赤く照らされ、4人のシルエットが浮かぶ。ここで場内の歓声は一段と高くなる。そして幕が開いて4人がお目見え。オープニングは、意外や『The Man Machine』だ。後方には例によって大きな3面スクリーンがあり、「MACHINE」の文字が右から左に流れたり、階段状に積み重ねられたりという、お馴染みの映像が流れる。


 メンバー4人は横一列に並び、ラルフ・ヒュッターが左端に、フローリアン・シュナイダーが右端に陣取る。真ん中2人は、いわゆる「お弟子さん」。4人とも黒いスーツに赤いシャツ、そして黒のネクタイといういでたち。4人の前には卓があり、おのおのノートパソコンを操作している。ただ、誰がどのパートをやっているのかは、未だによくわからない。フローリアンなんて、まるで人形のようにほとんど動かないし(笑)。


 4人は少し高い壇の上に陣取っているのだが、この壇は曲にリンクして発光する。『The Man Machine』では赤く、続く『Expo 2000』では蛍光グリーンにという具合。選曲からすると、どうやら序盤は近未来路線のようだ。映像の方は、黒の背景に蛍光グリーンの近未来都市が描かれる。映画「トロン」を思い出すな。そしてサウンドだが、重低音が効いていてかなり意外だ。音にせよ映像にせよ演出にせよ、彼らがこだわりを以って臨む集団であることは重々承知しているつもりだが、しかしこのオープニング、カッコよすぎる。





 そしていよいよ、今回の軸である『Tour De France』へ。去年リリースされたアルバムは、この曲の2003年バージョンが3曲メドレーになっているのだが、ここでは『Intro』からじっくりかつたっぷりと披露される。言うまでもなく、テーマはヨーロッパを横断する自転車レースで、電子音楽を手がけるクラフトワークと、肉体を駆使するスポーツとは、一見ミスマッチのようにも感じる。しかしそこをうまくリンクさせてしまうのがこの人たちのセンスであり、そして何よりラルフ・ヒュッター自身、自転車にのめり込んでいるとのことだ。モノクロのレースの映像に、洗練されたメロディ。共に心地良い。


 『Vitamin』は、カプセルが飛び交い錠剤がコップの中の水に溶けるという、なんだか愉快な映像。そして恐らく、ラルフがこのライヴで初めて生で歌った曲だ。4人ともいちおうヘッドフォンマイクをつけているのだが、歌っていたのはライヴを通してラルフだけだったように見えた。そしてそのラルフだが、歌うときは耳に手をかざす。このポーズもお馴染みである。そして中盤を締めくくったのは、83年版の『Tour De France』だった。





 さて後半戦だが、まずはクルマのエンジンがかかる音のイントロ。これがとちったのかそれとももともとそうなのか、なかなかエンジンがかからない(笑)。ただ、この音があらかじめプログラミングされたSEではなく、この場でメンバーが手がけているというのが伝わって来て、個人的には好感が持てた。もちろんこの後は『Autobahn』となり、映像は高速道路をメルヘンタッチで描いた画像へ。


 クラフトワークの中ではかなり珍しい、「歌もの」の『The Model』。ヴォーカルはラルフなのだが、その右隣にいるお弟子さんがキーボードを弾いている。この曲になって初めて、ラルフとこの人の卓にはノートパソコンだけでなく鍵盤がセットされていることに、私は気付いた。更に意外な『Neon Lights』を経て、『Radioactivity』から『Trans-Europe Express』で、本編が終了。イラク戦争や北朝鮮問題などで不安定な今の世の中、『Radioactivity』は警告の意味を持つ曲にも聴こえた。





 さてアンコールだが、幕は開けどもステージは無人。しかし4人が右の袖の方から登場する。衣装は同じだが、ネクタイのところに赤く点滅するライトをつけていて、暗い場内で妖しく光る。曲は、過去2回の日本公演ではオープニングだった『Numbers』だ。例によってスクリーンには各国語で数字が羅列され、「イチ、ニ、サン、シ」という日本語になったとき、場内は一段と沸いた。メドレーで『Computer World』へとなだれ込むのも、過去2回のオープニングまんまだ。


 そしていよいよ、『Pocket Calculator~Dentaku』へ。3面スクリーンは、中央には電卓。両サイドには日本語で「電卓 クラフトワーク クリング クラング プロダクション」というアナログ盤の帯のような表示が。曲に合わせて映像には電卓を押す指が現れ、ピポパッという効果音が響く。この曲でこんなにテンションが高くなるのは日本くらいだと思うが、ごちゃごちゃ考えずにここは楽しんだモン勝ちだ!





 ライヴはまだまだ終わらない。終わるどころか、ハイライトはここから先にこそある。少しインターバルがあった後に再び幕にシルエットが浮かび上がるのだが、オープニングのときとはちょっと様子が違う。そして幕が開き、ステージに鎮座ましますのは、エレクトラグライドのときにはなく、98年の赤坂ブリッツ公演以来、日本では実に6年ぶりのお目見えとなる、4体のロボット!曲はもちろん『The Robot』だ!


 4体のロボットだが、その表情は気味が悪くなるくらい4人のメンバーに似ている。胴体は灰色ボディーで、両腕は金属の骨組みがむき出しという具合。映像のロボットの動きにリンクするように、実物のロボットも、上体が動いたり両腕が伸縮したりする。音にこだわり緻密な電子機材を導入するアーティストはいる。大金をつぎ込んでド派手なステージを構築するアーティストもいる。だけど、自分たちにそっくりの精巧なロボットを作ってライヴに持ち込むアーティストは、クラフトワークだけだ。いくらこだわりの集団とはいえ、ここまでやるか、ふつう(苦笑)。





 さてアンコールも3度目になるが、またも彼らはやってくれた。全身黒のぴったりスーツに、蛍光グリーンのラインが入った衣装になっていた。曲はまもなくシングルカットされる『Aero Dynamik』に続き、「boing boom tschak...」というSEから『Music Non Stop』へ。曲が終盤になると、右端のフローリアンからソロっぽいアクションをし、そしてひとりずつ礼をしてステージを後にする。お弟子さん2人もそれに倣い、最後はラルフひとりに。


 ラルフはひと通り鍵盤を叩いて生演奏を披露した後、「サヨナラ」という、ライヴを通して唯一と言っていいMCを放ち、ステージを後にする。やがてSEは「ミュージック ノンストップ」というキーワードが乱発。男の電子音声、女の電子音声、あるいは歪んだ音声が入り乱れるうちに、幕が閉じる。しかし3面スクリーンは幕越しに見えるようになっていて、相変わらず電子音声が入り乱れる中で客電がついた。





 私にとっては今回が3度目のクラフトワークのライヴで、映像についてはさすがに見慣れたものが多かったが、それでも飽きは来なかった。ブリッツ以来の生ロボットあり、そして新曲ありで、このオッサンたちは過去の実績と評価の地に安住することなく、今なお第一線で勝負しようとしている。今回の日本公演も、計8回という異例とも言える回数をこなしていて、そして世界ツアーはまだまだ続く模様だ。


 ふと思うのは、これだけ随所にこだわりを見せている彼らなのに、どうして映像作品のリリースがないのだろう。PV集だけでもかなりの精度の高いモノが期待できると思うし、パフォーマンスとスクリーン映像とをシンクロさせたり、それぞれがセレクトできたりするライヴDVD辺りを、出してくれてもよさそうなものだ。




(2004.3.2.)
















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