Eric Clapton 2003.12.13:日本武道館

2年ぶりのエリック・クラプトン来日公演だが、私が前回観に行ったのは最終日の横浜で、そして今回観に行く武道館も最終だ。前回はグッズの大半は品切れ状態だったのだが、今回はストックを大量に用意したのか、はたまた売れ行きが今ひとつだったのか、とにかく品揃えは豊富に見えた。11,000円のフィギュアまで売られていたりして・・・。更には、パンフレットやTシャツを買う毎に、トートバッグまでもらってしまった。ありがたし。





 5時20分過ぎに客電が落ち、クラプトンその人が真っ先にステージ向かって右の袖の方から登場。白い半袖シャツにジーンズという、例によって飾らないいでたちだ。よく見てみると、今回はひげをほとんどたくわえていない。「ドーモ アリガトウ」と挨拶もそこそこに、早速ギターを弾き始める。曲は『Nobody Knows You When You're Down And Out』というブルースナンバー。ギターは、前回のツアーと同じくレインボー柄だ。


 続く『When You've Got A Good Friend』で他のメンバーも登場し、演奏に加わる。ベースのネーサン・イースト、ギターのアンディ・フェアウェザー・ロウ、ドラムのスティーヴ・ガッドというお馴染みの面々に加え、他はキーボードがひとりという、近年のクラプトンのバンドとしては最小構成になっている。スーツ姿のアンディは髪を短くしていて、オッサン度が増している(失礼)。他3人は、いずれも白いシャツ姿だ。演奏はメドレーで『Crossroads』に移行。ヴォーカル箇所のときは演奏も比較的原曲に忠実なのだが、クラプトンによる間奏のギターのリフだけがなぜかクリームバージョンになっていて、狂喜すると同時にそのちぐはぐさに苦笑もしてしまった。





 今回はアルバムのリリースに伴うツアーではないので、とすれば選曲は幾分自由度が増すのではと思っていた。まずは久々となる、この人のソロでの最初の大ヒットシングルである『I Shot The Sheriff』。続くデレク&ドミノス時代の『Bell Bottom Blues』は、近年の公演でも披露しているのでそれほど新鮮さはないが、まさかブラインド・フェイス時代の『Can't Find My Way Home』まで飛び出すとは、思ってもみなかった(リードヴォーカルがネーサン・イーストなのはご愛嬌)。60's後半から70's前半の、バンド時代を中心としたセレクトは、まさに私が今回のクラプトンのツアーに対して臨んでいたことだった。


 そして、場内が最初にピークに達したのは『White Room』。おおお。ここで私の頭の中は、一気に13年前にタイムスリップする。その13年前とは、私が初めてこの人のライヴを観たときで、場所は同じ武道館。89年にリリースされた『Journeyman』に伴うツアーで、長髪のクラプトンはアルマーニのスーツをまとい、そしてまだめがねをかけていなかった。以降私は、クラプトン来日の都度足を運んでいるのだが、先の『~ Sheriff』とこの曲を同時に聴けたのは、恐らくこの13年前以来になると思う。


 当時私は大学生で、評価の定まった名盤CDをこつこつと集める一方、ストーンズやデヴィッド・ボウイなどのライヴに足を運び、こんにちまで続いているコンサート通いが習慣づくことが決定的になった年でもあった。そして更に遡れば、洋楽に目覚めはしたがお金がなくてアルバムにまで手が出なかった高校時代、ラジオにかじりついて聴いていたときのクラプトンの曲といえば『~ Sheriff』であり、『White Room』だったのだ。クラプトンのアーティストとしての生きざまに深い歴史があるように、洋楽と出会って以来こんにちに至るまでの私自身にも、それなりの歴史があった。そして喜々としてギターをかきむしるクラプトンを目の前にしながら、ロックを聴き続けてきてよかったと改めて確信する。





 続いてはブルースナンバーのコーナーとなり、場内はリラックスしたムードに。ここで映えるのはもちろんクラプトンのプレイなのだが、もうひとりの立役者としてキーボードのクリス・ステイントンを挙げたい。L字型に配置された鍵盤を巧みに操り、クラプトンのギターとはかぶらないところで魔法のような音色を発する職人だ。パンフレットによると、過去にもクラプトンのバンドメンバーとして来日したことがあるのだが、他3人があくまでクラプトンを引き立てるための脇役に徹しているのに対し、この人だけがそれなりの自己主張をしていて、それに好感が持てた。


 今回の来日公演も約1ヶ月に渡る長期のスケジュールで、公演地もほぼ全国に渡り、そして会場はいずれもアリーナクラス。札幌はドームだったし。これだけのヴォリュームともなれば、もしかしたら日によっては調子が今ひとつということもあるのかもしれない。幸いこの日はそうしたことはなく、ギンギンにギターを弾きまくっていてほっとひと安心。それがライヴを緊張感あるものに仕上げている。この人は見た目それほど強靭そうでもないのだが、しかし相変わらず異常とも言える公演数をこなしていて、結構タフだよな。





 お馴染みの曲のひとつである『Badge』で、ライヴがいよいよ後半戦に差し掛かったことを痛感させる。この曲といえばやはり故ジョージ・ハリスンさんで、亡くなった2年前はちょうどクラプトンは来日公演中だった。では今回はというと、昨年ロンドンで行われたトリビュートコンサートのDVDがリリースとなり、公演に先立って東京と大阪で試写会が開催。クラプトンはコンサート出演のみならずDVDの監修も務めていて、東京試写では自ら姿を見せている。・・・のだが、自身のライヴでは特にハリスンさんへの思いを表現することもなく、淡々と演奏していた。こういう人なんだな。


 続く『Holy Mother』は、ファンの方には映像作品『Hyde Park Concert』のゴスペル調の演奏が印象に残っているかもしれない。この曲は85年作『August』に収められている感動のバラードで、80's時代の曲も今一度取り上げてほしかったという、私が今回願っていたことが叶った形になった。そしてこれもキャリアの中で重要な曲のひとつである『Lay Down Sally』だが、ミディアムな曲調から場内のヴォルテージが極端に上がることこそなかったものの、個人的に嬉しいセレクトだった。





 この後は怒涛の必勝リレーとなる。『Wonderful Tonight』は、今回は女性コーラスもいなければ前回ツアーで活躍したデヴィッド・サンシャスもいない。なので原曲に近い比較的シンプルな演奏となった。デヴィッドはともかく、この曲で女性コーラスのフィーチャーはないだろうと私は長年思い続けていたので、原点回帰を果たしたことが逆に新鮮に受け取れた。続く『Cocaine』では例によって場内総立ちとなり、そして本編ラストはもちろん必殺の『Layla』だ。


 この日の公演、というよりはむしろ今回の来日公演についてだが、私が最も驚いているのは、この国でのクラプトン人気が今だ衰えていないことだ。ほとんど2年おきに来日を果たし、しかも近年は純粋にオリジナルと言える作品をリリースしていない。ことばは悪いかもしれないが、いいかげん飽きられて集客が鈍るようなことがあれば、次回の来日は東京や横浜でも会場がホールクラスになるのではなんて淡い期待も抱けるのだが、この熱狂ぶりだと今度もまた武道館や代々木や横浜アリーナになってしまいそうだ。


 そしてこの日のライヴの熱狂ぶりは、この終盤でまさに最高潮に達している。ローリング・ストーンズのライヴで『Brown Sugar』や『Start Me Up』を演らないことがありえないように、この人のライヴで『Cocaine』や『Layla』が外れることはありえない。今までこの人のライヴを観続けてきて、正直私はこの予定調和ぶりにうんざりしていたのだが、この場におけるオーディエンスとアーティストとの一体感を目の当たりにさせられるにつれ、これはやはり正しいのだと思わずにはいられなかった。


 アンコールは2年前と全く同じで、『Sunshine Of Your Love』からアコースティックでの『Somewhere Over The Rainbow』へ。ただ、最後の曲の前にクラプトンはメンバーを紹介し、今夜が最後の公演であるということ、日本を愛していることなどを語ってくれた。そして、「Merry Christmas♪」「See you soon♪」というメッセージも。「soon」とは、どんなに遅くても2年後だろう。








 2年前に引退宣言をしたとされているクラプトンだが、私はかなり楽観視していた。というのは、公式サイトに声明文はなく、Rolling Stoneの記事へのリンクが貼られていただけで、つまりは本人が明確に発した宣言ではなかったからだ。ただそうは言っても、近年のクラプトンの作品からはクリエイティヴィティは薄れ、趣味の世界に走っていることもまた確かだった。新たに作品を作ってワールドツアーをすることはないけれども、アメリカと日本についてはツアーで来てくれる、というのが実際のところだろう。


 ただそれだけに、今回の公演が発表されたときに私は躊躇した。今のクラプトンに、いったい何を求めればいいのか。何を見出せばいいのか・・・。それで、当初発表された日程ではチケットを取りに行かず、その後発表になった追加公演であるこの日のチケットを取った。つまりは追加が出なければ今回の公演は行かずじまいだったかもしれないし、取った理由も、やっぱり観に行けばよかったと後になって後悔しないためで、あまり前向きなものではなかったのだ。


 そんな中で、私が今回の公演に最も求めたのは選曲だった。序盤はバンド時代の名曲を披露し、中盤はブルース、後半はお馴染みの曲と、大きく3つのパートで成り立っていたと思う。個人的には序盤の名曲群がハイライトだったのだが、冷静になって考えてみると、近年の公演のベースになっていた『Pilgrim』から1曲もないのが興味深く、今回の選曲は自らの活動を総括しているようにも思える。


 パンフレットの冒頭には、クラプトンから日本のファンへのメッセージ文が寄せられている。それによると、現在新しいアルバムの制作に取り組んでいる、とある。明らかにコンテンポラリーに寄っている今のクラプトンが、今後もその路線を踏襲して行くのか。あるいは、新しい音楽性を注入するなどの大胆な手を打つのか。恐らくは前者の方だと思いつつも、その予想が裏切られるのではという思いも、抱かずにはいられない。




(2003.12.14.)































Eric Claptonページへ



Copyright©Flowers Of Romance, All Rights Reserved.