Mogwai 2003.11.5:Shibuya-AX

小雨が降る中、会場に着いたのはほぼ開演時間ちょうどぴったりだったのだが、それでも外にかなりの 人がいた。そして中に入ってみると、今度はロビーに結構な人が。いくら前座があるからとはいえ、この緊迫感のなさに少し面食らう。


 その前座だが、Envyという日本人バンド。6人組だが、うち3人がギターという編成だ。音やスタイルもモグワイを継承したところがあり、淡々としたギターのインプロヴィゼーションが、やがて爆音モードに転換するという具合。ただモグワイと決定的に異なるのは、「がなる」ヴォーカリストがいること。ことばが全く聴き取れず、また声量そのものが演奏に打ち消されてしまっている状態。個人的にはあまり関心が沸かなかった連中だが、場内のリアクションは割とよかった。彼ら固定のファンもいたのかな。





 セットチェンジが終わり、いよいよ真打ちであるモグワイが登場したのは、午後8時20分過ぎだった。メン バー5人がゆっくりとステージに姿を見せ、まずは肩ならしとばかりに『Yes! I Am A Long Way From Home』を。ステージは、機材は比較的後方に配置され、前方の空いたスペースではステュアートが自由に動く。ニット帽をかぶり、ラフな格好でギターを弾くステュアート。小柄だ。いちおう彼の前にはマイクスタンドが用意されていたのだが、それは歌うためではなく、曲が終わる毎に「アリガトウ/サンキュー」と挨拶するためだった。


 私が顔と名前が一致するのはステュアートだけなのだが(苦笑)、では他のプレーヤーというと、特にキーボードの人が目についた。時にヴォコーダーを駆使し、また曲によってはギターに持ち替えて演奏したりと、忙しくやっている。モグワイというとどうしても轟音ギターのイメージがあるし、また実際それは正しいと思うけど、今回観て感じたのは、鍵盤を叩く切れのいい音色も、このバンドの魅力のひとつだということだった。





 モグワイの最近の来日は2年前と今年のフジロックだが、私はそのときそれぞれアラニス・モリセットやマッシヴ・アタックを観ていたこともあって、その前の来日である2年半前の赤坂Blitz公演以来となる。そのときは何をしでかすか想像がつかないような得体の知れない(いい意味での)不気味さがあったのだが、今回の彼らにはそうした危険な香りはなく、そのさまには自信と余裕、そして風格が漂っている。それはバンドとして歩みを続けて行く上での自然の成り行きかもしれないし、また日本でも彼らの存在や音楽が認知されてきたからかもしれない。


 ギターを交換するという都合もあるのだが、演奏は怒涛のメドレー形式とはならず、曲と曲との間がはっ きりと分かれてしまっている。新作のタイトルは『Happy Songs For Happy People』となっていて、これはステュアートによれば「Happy Songs」は作品に収められた曲であり、「Happy People」はモグワイ自身なのだそうだ。前作『Rock Action』が重かったことの反動なのか(個人的には彼らの作品の中で最も好きなんだが)、今の彼らはひたすらリラックスしている。がっかりはしないが、この雰囲気はかなり意外だった。


 しかしそのまったりめの空気は、終盤になって塗り替えられた。『Helicon 1』での、静から動への ドラマティックな転化、溜めに溜めた後に放たれる爆音ギター、つまりは「モグワイ節」が健在であるこ とを、改めて認識させてくれたのだ。そして対照的に、ステュアートはこの曲のときは右端の方に寄って 椅子に腰掛 けながらギター(ベースかも)をかきならしている。なるほど、勢いや力技に頼らずとも、今の彼らは自然体のままでより音楽を楽しみ、かつ高いテンションを保持できるようになったんだな。





 アンコール、まずは『Christmas Steps』。序盤は徹底して「静」であり、演奏が進むに連れて徐々に音量が小さくなって行き、それはやがてステュアートのギターと、ドラムの音だけになる。場内にはファンやスタッフ、そしてもちろんバンドを含め、全部で2000人近い人がいたと思うのだが、その中で誰ひとりとしてことばを発することがなく、静かな演奏はもとより、空調の音までもが耳に届いてしまうというという、摩訶不思議な状態に。その消え入りそうなかすかな音が一転して爆音モードとなるその瞬間、私は思わず体をびくつかせてしまった(笑)。


 そしてラストは、必殺の『Mogwai Fear Saturn』。イントロだけで(来た!という期待感で)場内はざわつき始め、そして20分近くにも渡る音の洪水と、曲の展開にシンクロするような閃光するライトに、ただただ圧倒。レッド・ツェッペリンの代表曲のひとつに『Dazed And Confused/幻惑されて』というのがあ るのだが、『~ Fear Saturn』は、観る者聴く者を「幻惑させる」という意味において、その21世紀版に当 たるのではないだろうか。





 モグワイのアルバムにはおよそ駄作はなく、それどころかシングルにも相当なこだわりが感じられる。しかし彼らの真価が発揮されるのはやはりライヴの場であり、その魅力はスタジオレコーディングの作品とはまるで異なるのだ。大作EP『My Farther,My King』は、彼らのライヴの醍醐味を収めることに成功したという評判もあるが、個人的にはそうは思わない。なのでここらでひとつ、ライヴアルバムをリリースしてみてはどうだろうか。




(2003.11.8.)
















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