A Perfect Circle 2003.10.18:Liquid Room

本国アメリカでの人気は絶大と聞いているが、日本ではライヴハウスでも満員にはならないだろうとタカをくくっていた。しかし前売りチケットは売り切れ、当日券の販売もなし。会場入り口前で「チケット譲って下さい」「I need Ticket !」というカードを持って立っている人は、決して少なくなかった。


 しかしこの状況には裏があると思っていて、つまりは純粋なトゥール~ア・パーフェクト・サークルのファンだけでなく、ジェームス・イハやトゥイギー・ラミレスのファンも足を運んでいるからなのだろう。自分が信じていたアーティストのその後の動向を追いかけたいという心理は正しいとは思うけれど、これがライヴの進行を歪ませるようなことになったらやだな、という不安もよぎる。と同時に、メイナード・キーナンの懐の深さがどれだけのものかというのも、試されることになると思う。





 定刻より10分ほど過ぎたところで客電が落ち、『Lullaby』がSEとして流れ出す。真っ暗になったステージに人影がちらつくが、『Pet』のイントロで真紅のスポットに彩られ、メンバーの姿が確認できた。向かって右にギターのビリー・ハワーデル、左にベースのトゥイギーことジョーディー・ホワイトが陣取り、2人とも弾きながらステージを右に左にとにじり寄る。ドラムのジョシュ・フリーズは、向かって右の奥に鎮座。そしてステージ奥の白いスクリーンにライトが当たり、その裏側にメイナードはいた。つまり影絵状態で、半身になって体をくねくねさせながら、結局まるまる1曲歌い切ってしまった。


 続く『The Hollow』~『Magdalena』でメイナードはスクリーンから登場するが、やはりというか直接ライトは当たらず、やや後方が照らされている。よって観る方としてはメイナードがシルエット姿のようになり、表情がよくわからない。「no flash camera」とも言っていたし、後方のPAに陣取っていたビデオカメラも、早々に撤去されてしまった。ライヴハウスでステージ演出にこだわりを見せるアーティストはあまりいないと思うのだが、この人は徹底している。そしてメイナードの立ち位置は後方中央部で、四方を柱で囲まれたお祭りのやぐらのようなスペースでだった。


 ダークな世界観が延々と繰り広げられるのかと思いきや、なんとメイナードのMCが入る。さらりとメンバーを紹介するが、ジョーディーのことはトゥイギーと紹介(笑)。そしてジェームス・イハだが、向かって左奥の非常にこじんまりとしたところに立っていて、スポットもほとんど当たらず、まるでキング・クリムゾンのロバート・フリップ状態(笑)。それでもメイナードやジョーディーにいじられていて、ブレイクダンスをしろと言われていたり(笑)、アカペラで歌わされたりとかしていた。





 事前に2枚のアルバムを何度か聴いたのだが、個人的にはなかなか理解できずにいた。メイナードの意により歌詞対訳はなく、ジャケットには意味ありげな写真や何語かわからない文字でのメッセージがある。ロッキンオンにもインタビュー記事が掲載されてはいるが、メイナードの返答は抽象的だったりうまくはぐらかしたりしていて、よくわからない。考えるよりも、感じて欲しいということなのだろうか。


 私の感触では、トゥールはダークでありながらもポップだ。ポップというのはヒットチャートをにぎわす売れ線サウンドではなく、ヘヴィーかつダイナミックでありながら聴きやすく、それはリンプ・ビズキットやリンキン・パークとは一線を画し、むしろレッド・ツェッペリンに通じている。ではア・パーフェクト・サークルはというと、アルバムを聴いた限りではヘヴィーなプログレという印象を受ける。いや、むしろかつてのプログレバンド以上にプログレ的というか、個々の曲の際立ちよりも、複数の曲が連鎖して大きな流れを生み出しているように思える。





 しかしだ。ここライヴの場においては、プログレを思い起こさせるのは部分的なフレーズにおいてのみで、むしろ王道ヘヴィー・ロック/ヘヴィー・メタルのようなたたずまいだ。演奏はライヴならではのインプロヴィゼーションというのはほとんどなく、原曲に忠実。ジョーディーもビリーもフットワークは軽いが、ベースやギターを弾く位置はものすごく低く、そして演奏そのものに関するアクションはほとんどない。アルバムでは地の底から鳴らされているかのようなサウンドも、ここではもっとハードでヘヴィーで、そして生々しい。


 このバンドはまずはビリーありきで、メイナードが彼に持ちかけて誕生したと聞く。ではリードギターは全てビリーなのかというと、どっこい地味にイハが務めている箇所もあった。前述の通りでイハにはほとんどスポットが当たらず、彼のギターさばきを判別するのはとても難しかったのだが、時折ジョーディーもビリーもおのおのの楽器を手放しているときがあって、そこをつないでいるのがイハだったのだ。


 オリジナルメンバーのひとりである、ドラムのジョシュ。『Mer De Noms』のライナーノーツによると、一時期はガンズ・ン・ローゼズにも在籍し、パール・ジャムの後任ドラマーの候補としても名が挙がったことのある腕利きだ。この人の技術は、めちゃくちゃやっているようでいて実は整っていて、それがバンドの屋台骨としての役割をしっかりと果たしているように見える。メンバーの入れ替わりがあって、ともすればそのメンバー内によるバトルのような演奏になるかとも思ったが(それはそれで観てみたい気もするけど)、新生ア・パーフェクト・サークルは、驚くほどにまとまったバンドだ。





 そしてメイナードだが、『Weak And Powerless』で上着を脱ぎ捨て、上半身が裸に。髪はドレッドの長髪のように見えたが、果たしてこれは地毛なのかそれともヅラなのか・・・。そして、この人の声には独特の響きがある。人間の肉声というより、まるで楽器のようなひんやりとした硬質の感触があって、そしてこれがとても美しく、みずみずしい。エキセントリックなアクションもオリジナリティーに溢れていて、仮に誰かがまねたとしても、それは陳腐な出来に留まってしまうはずだ。


 ジェームス・イハは、3年前はビリー・コーガンの隣にいた。ジョーディー・ホワイトと名を変えたトゥイギー・ラミレスは、2年前はマリリン・マンソンの隣にいた。そして今、2人はメイナード・キーナンの隣にいる。この豪華さはオーディオスレイヴ以上のスーパーグループぶりだが、実際メイナードという人はクリエイターやパフォーマーとして優れているだけでなく、そうした求心力をも備えた人なのだろう。








 こうしてライヴは1時間10分ほどで終了。時間にすればあまり長くはなかったことになるが、そうした物足りなさを感じることはなかった(この後ジョーディー、イハ、ビリーの3人による余興があって、それぞれが楽器を持ち替えてイハがビートルズの『Day Tripper』を歌ったり、またメタリカの『Master Of Puppets』が飛び出したりして、そのうち機材の撤去が始まり、訳が分からない終わり方だった)。この日ライヴを観ることができたのは、千数百人の幸運なファンだけだったが、メイナードは目の前の私たちはもとより、この場にはいないもっと多くの自分達のファンに対しても歌っているように見えた。


 ア・パーフェクト・サークルは、決してサイドプロジェクトではないというのがメイナードの弁だが、だってトゥールの方が断然キャリアが長いし、普通に考えればそう思われても仕方ないでしょと言いたくなる。しかし実は、トゥールの方がメイナードの個性をより強調したものになっていて、ア・パーフェクト・サークルではメイナードもひとりのメンバーとしてやっているように感じられる。メインとサブという位置づけをしたくなるのは、今までそうしたスタイルで活動をしていたアーティストがほとんどだからかもしれない。このバンドがそうした固定観念を打ち破れるかどうかはまだわからないが、今後も気にし続けて行くだけの価値はありそうだ。




(2003.10.19.)



















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