Television 2003.9.25:Shibuya-AX

今年は、ニューヨークを代表する大物アーティストが相次いで来日。7月にはパティ・スミス、つい数日前にはルー・リードの公演があったばかりだ。そして今度はテレヴィジョン。もともとは朝霧高原で行われる野外フェスの出演がメインだが、東京に限って単独公演が行われる。





 定刻を10分ほど回ったところで、場内が暗転。ステージ向かって左の袖の方からメンバー4人が登場する。本人たちがそれ相当の年齢なら、この日の客層も結構高め。落ち着いた雰囲気の中でトム・ヴァーレインがギターをチューニングし、音を鳴らす。しかしこれが、いつのまにかインスト曲の演奏になっていて、やがて『1880 Or So』へ。テレヴィジョンにしか発することのできない、独特の空気が漂い出す。


 ステージは、中央にトム・ヴァーレイン。かなりの長身だ。向かって右には、もうひとりのギタリストであるリチャード・ロイド。左はベースのフレッド・スミスで、ヴァーレインの後方にはドラムのビリー・フィッカという配置。ステージには何の装飾もなく、シンプルというか殺風景というか。だけどそれは、演奏そのものがメインなのだという、彼らのこだわりを表しているようにも感じられる。


 序盤は『Call Mr Lee』など、92年リリースのサードからの曲が披露。だけど未発表曲と思しき曲も合間に演奏されて、ちょっとびっくり。私がわからないだけかもしれないが、ヴァーレインのソロの曲とも違うし、もしかしたら誰かのカヴァーか、あるいはコンピ盤に提供されている曲なのだろうか。リリースされたオリジナルアルバムはわずかに3枚だが、キャリア自体は(間に10年以上のブランクがあったとはいえ)長いバンドなので、ストックはまだまだあるのかもしれない。


 これらの曲はサードの文脈を継いだ落ち着いた曲調だったのだが、こうしたまったりした空気を一変させるのは、やはりファーストにして不朽の名盤である『Marquee Moon』からの曲だ。『Venus』ではイントロが響いただけで場内は狂喜し、『Prove It』や『See No Evil』は、サビを一緒に歌うという具合。蔵出しという埃臭さはなく、封印を解かれたという大袈裟さもない。時代を超えた名曲は、いつ聴いてもカッコよく、そして美しい。





 ほとんどのロックミュージックって、イントロがあって歌詞が歌われて、そして間奏があってソロパートがあったりなかったり、といった具合だと思うのだが、ことテレヴィジョンに限っては、こうした認識というのは意味がない。というか、間奏のギターソロこそがメインで、歌のパートの方がつなぎになっているんじゃないかという錯覚に襲われる。そしてこれは、CDを聴いているだけではわかりにくいのだが、リードギターはそのほとんどがリチャードによるものだ。


 私が思い描くギタリストは、上体を大きく反らせたり、あるいは逆に前かがみになったりして、まるでギターと肉体とがひとつになっているかのようなパフォーマンスをする人が多い。しかしリチャードもヴァーレインもほとんど派手なアクションをせず、ただ淡々と弾いている。特にヴァーレインは、ほとんど指先しか動いておらず、弾いていないんじゃないかと誤解されても不思議のないほど。しかしその微妙にして繊細な指使いが、印象的かつ官能的なフレーズを連発しているのだ。





 ぶっきらぼうなドラムのイントロで始まる、これまた名曲の『Little Johnny Jewel』。ヴァーレインの歌い方もぶっきらぼうで、そして声は時折かすれ、ひしゃげていて、あまり伸びがあるとはいえない。しかしルーズでダルな曲調は序盤だけで、中盤以降はまたもや官能的にして壮絶なギターバトルに突入。更に曲は『Glory』と続き、いよいよクライマックスが近づいたという予感が走る。


 そして、ついにそのときは来た。ほとんどの曲でそうしていたように、ヴァーレインはまずはギターをチューニング。しかし不意にジャジャッジャジャッというイントロを発し、ここで場内の熱狂も最高潮に。次いでリチャードのギターがからみ、続くはフレッドのベース。そしてビリーのドラムという具合で、1人ずつ演奏に加わり、4人の持ち味が絶妙にからまったところで、『Marquee Moon』が始まった。


 リードギターはそのほとんどがリチャードだが、この曲に限っては少し事情が異なっていた。ヴァーレインが歌い終えたところで、なんとリチャードがそれまでヴァーレインが弾いていたフレーズを継承。ではヴァーレインはというと、独自のギターソロを繰り広げ始め、それが延々と続く。淡々としたたたずまいは相変わらずだが、それでもこのときばかりは、とても自由にそして楽しそうに、弾いているように見えた。張り詰めた緊迫感で塗り固められたような曲であるにもかかわらず、だ。





 オリジナルを大きく凌ぐ15分オーバーの大作『Marquee Moon』で本編を締め、アンコールではカウント・ファイヴの『Psychotic Reaction』のカヴァーを披露。約1時間40分のステージだった。私が初めてテレヴィジョンのライヴを観たのは、昨年のフジロックフェスティバルのとき。このときは約1時間のステージだったが、今回はそのときのフォーマットを基本としつつ、単独ライヴということで拡大版になったという感じだ。


 フジロックのときは客層も若く、また普段のライヴとは異なる空間ということもあって、熱狂ぶりもかなり凄まじかった。今回は言わば「普段のライヴ」で、客層も70'sのテレヴィジョンをリアルで体験されていたであろうと思しき人が多く、年齢層は高めだった。また、外人客も結構目に付いた。テレヴィジョン自身はテレヴィジョンのままだが、そのときそのときの環境によって雰囲気は大きく変わるんだな、ということも感じたライヴだった。




(2003.9.27.)
















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