Patti Smith 2003.7.19:渋谷パルコギャラリー

17日の赤坂Blitz公演を以って、パティ・スミスの来日公演は終了している。しかし、翌18日より渋谷パルコギャラリーにて、彼女のアート展が約1ヶ月に渡って開催されることに。これは彼女が描いた絵や撮った写真などを展示するもので、音楽活動と同様、彼女の大切な表現行為のひとつなのだと思う。そしてこのギャラリーにて、なんとシークレットライヴが開催されることになった。


 開場は午後9時とかなり遅いのだが、整理券は当日の朝10時から会場受付にて配布していた。しかし私は所用があったため、渋谷に来たのが午後7時過ぎ。結果、後ろから数えた方が早い入場順となった。このライヴ、300人限定と聞いていたのだが、実際は200人だったようだ。更にリハーサルがおしたらしく開場時間そのものも遅れ、フロアのウォールギャラリーに飾られている彼女の写真(フジロックのときのもの)を眺めながら、時間になるのを待った。





 予定より15分ほど遅れ、ようやく開場。番号の早かった人は前の方に座り、真ん中らへんの人たちは椅子に腰かけ、私を含む番号が遅い人は、後方で立ち見となった。ギャラリーの中は狭く、天井も低くて少し圧迫感が。壁には彼女の作品が飾られていて、小さなステージにはマイクスタンドと椅子とギターが、それぞれ2つずつ用意されていた。アコースティックライヴと聞いてはいたが、どうやらフルバンドではないらしい。


 入場もひと通り済んだのかなという頃になって、不意に彼女がステージに現れた。手を振りながら、相変わらずの笑顔で私たちに応えるパティ。こんな狭いところで、わずか数メートル前方に彼女が立っている・・・。自分が200人のひとりとしてこの場に居合わせたことの喜びを、改めて噛み締める。そしてパートナーだが、てっきりレニー・ケイなものとばかり思い込んでいたのだが、現れたのはもうひとりのギタリストであり、パティのボーイフレンドでもある、オリバー・レイだった。





 彼女は場内をざっと見渡して、ふたことみこと挨拶を。そして詩集を取り出して、朗読を始める。やがてオリバーがギターを弾き始め、『Piss Factory』に。Blitz 2Daysでのエモーショナルなライヴを観たばかりなので、狭いギャラリーでの穏やかな彼女のたたずまいには、大きなギャップを感じる。のだが、これも彼女の魅力のひとつだ。


 序盤は、1曲毎に彼女がしゃべったり、あるいは詩を朗読したりした。来日公演をひととおり終えたこともあってか、さすがに声が少しかすれている。ミネラルを口にする回数も多く、本人も苦笑いしながら声のことを話していた。私が観たのは東京2公演だが、特に来日最終となった2日目の方は凄まじい暴れっぷりだったのだから、無理もない。その2公演のときは、終始うつむき気味でギターを弾いていたオリバーも、この場ではしっかり面をあげ、時折彼女の方を見やっている。『Seven Ways Of Going』での、彼の弦をはじく音は印象的で、耳に残った。





 穏やかなたたずまいと先に書いたが、私はそのうち彼女がノッてしまい、そうするとこのギャラリーはとんでもないことになってしまうのではという、余計な心配もしていた。そして『Dancing Barefoot』のときに、その兆しが見えた。CDで聴く原曲はとてもシンプルなのだが、現在の彼女はこの曲にただならぬ情念をこめて歌い上げている。続くはなんと、『Because The Night』だ。アコースティックであるがために、原曲とは異なる深みと味わいがある。サビを客に歌わせるのは普段のライヴさながらで、場内と彼女はまたしても一体になった。


 彼女はスタッフに時間を聞き(始まりから時間がおしていたので、帳尻を合わせなくてはならなかったのかな)、最後に挨拶を。今回の来日で10日間ほど日本に滞在したこと。その間外を出歩き、写真を撮ったりしたこと。今回関わった、多くの人に対して感謝していること。・・・などを語った。「人」というキーワードが来れば、曲は『People Have The Power』だ!もちろんサビは大合唱となり、曲が終わると彼女は手を振り、にっこりと微笑みながらステージを後に。場内もここで総立ちとなり、拍手で彼女を見送った。





 会場や時間などからするに、さすがにアンコールはありえないなと思った私は、早々に動き出した。するとすぐ前をシーナ&鮎川誠夫妻が歩いていて、私は鮎川さんの後につくような格好になった。やがて鮎川さんは立ち止まり、壁に持たれて立っていた背の高い外人とことばを交わしている。その相手とは、なんとレニー・ケイだった!


 パティはライヴ中、今日はフルバンドではないけど、メンバーもここには来てくれているの~といったようなことを言っていて、それを聞いた私たちは辺りを見回したのだが、結局どこにメンバーがいるのかそのときはわからずじまいだった。しかしレニーはここにいた。そのすぐ脇にはJ・D・ドーハティもトニー・シャナハンもいて、スタッフらしき人と会話を交わしている。


 鮎川さんとレニーの会話が終わると、私は思わずレニーの前に出て、握手を求めた。何かことばもかけた方がいいなと思ったのだが、とっさに「Thank you , Lenny」と言うのがやっとだった。それでもレニーは、にっこりと微笑みながら手を出してくれた。ステージ上でギターを弾くレニーはとてもエネルギッシュで、とても若々しく見える。それが今回間近で見たレニーは、年を重ねて渋味を増したようなたたずまいで、そのギャップに私は少しとまどった。





 約1時間というコンパクトなステージではあったが、観ていて心温まるライヴだった。何度も言うようだが、間近で彼女の姿を目の当たりにすることができたことは、先日のエネルギッシュだった公演とはまた違った、素晴らしい体験になった。そして・・・、


 決して自らは前面に出ようとはせず、実際派手に脚光を浴びることも少ない。だけどこの人無くしては、こんにちのパティの充実した音楽活動はありえなかったと思う。私が好きなアーティストはたくさんいるが、私がこの人のようになりたいと思うのはただひとり、その人はレニー・ケイである。今回のシークレットライヴ自体ボーナスのようなものだが、個人的には最後の最後に、もうひとつのボーナスがあったのだ。




(2003.7.23.)
















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