The Rolling Stones 2003.3.15:東京ドーム

武道館~横浜アリーナという夢のようなライヴが続いたが、それもこれも、東京ドーム2公演の完売があってこそ実現した追加公演だ。そしてその東京ドームのステージは奥行きがなく、平面で横長の格好。花道は横には2段に伸びていて、中央からは客席に突き出すようになっていた。その中央花道の先にあるのは、ライヴ後半の舞台となるBステージ。ど真ん中ではなく、むしろスタンド席の方に近めに設置されている。





 例によって例の如く、開演前はR&BのBGMが流れていて、曲が終わる毎に歓声が沸いた。そしてまたまた開演は30分ほど遅れ(もう慣れっこだ)、やっと客電が落ちる。光るバッジを着けたファンが多く、点滅する無数の光が場内を彩った。真っ暗なステージにピンスポットが当たり、そこにいたのはギターを抱えながらにじり寄ってきたキース。オープニングは、なんと『Brown Sugar』。ここまでの3公演、いずれも異なる出だしとなったばかりか、まるで横浜アリーナ公演のBステージを引き継いでいるかのようだ。この曲は近年のライヴでは終盤もしくはアンコールに演奏されることが多く、終盤は延々引っ張られることが多いのだが、ここでは割とシンプルなアレンジに留めていた。


 続くは勢いづけの『Start Me Up』。そして3曲目の『You Got Me Rocking』になって、ステージの上に大きく広がっていた画像(唇に下着に、という今回のツアーのポスターやパンフレットの表紙にもなっている絵柄)にスクリーンがお目見え。4分割されて、メンバー4人をそれぞれに追いかける。新曲『Don't Stop』では、またもロニーのギターにつけられた小型カメラの映像が広がった。スクリーンが稼動し始めるのがどの公演でも3曲目からで、これは序盤2曲はとにかく演奏で勝負、お次はプラスで映像、ということなのかな。





 日替わりコーナー、まずは『You Can't Always Get What You Want』。名作『Let It Bleed』のラストを飾っている曲だが、大袈裟で勿体つけた曲調はストーンズらしくないなあと、初めて聴いたときからしばらくの間は感じていた。その認識が大きく変わったのは、90年初来日公演でナマを目の当たりにしたときだ。この曲が東京ドームに響くのも、恐らくはそのとき以来のはず。管楽器隊のイントロで始まった『Bitch』も、同じく初来日時以来だと思う。


 そのときに観たストーンズのライヴは、個人的には人生2度目のライヴ体験だった。チケット争奪戦騒ぎも凄かったが、当時大学生でライヴにも慣れていなかった私は、それ以前にチケットの取り方すらまるでわからず、同級生の友人にすがってなんとかドームに入ることができた。ライヴではとにかくほんものを観れたことに狂喜していて、内容の方はほとんど覚えていない(大汗)。あれからもう13年。ストーンズも私も、13年経って今再び同じ東京ドームにいるというのは、なんだかとても不思議なことのように思える。そしてもちろん、たまらなく嬉しいことだ。


 武道館以来となる『Can't You Hear Me Knocking』では、メンバーおのおのが代わる代わる見せ場を作った。ボビー率いる管楽器隊のソロ~ミックのブルースハープ、ロニーのギターソロといった具合だ。その間チャーリーは、ドスンという重いバスドラを要所で効かせ、キースはジャジャッとギターをかきならしていた。中盤以降のジャムセッション風の演奏は、何度聴いてもスリリングだ。


 『Tumbling Dice』は前半のハイライトで、ミックはステージ右端の花道まで走っては踊り、そして手拍子。この日の私の席は1塁側の1階スタンドだったので、ここで大はしゃぎする。ミックは今度は走って反対側の左端の花道にまで行き、同じことをしてオーディエンスをノセる。最期は中央花道にまで降りて、歩きながら両腕を突き上げる。このとき曲は終盤の「keep on rollin'~♪」というコーラスに差し掛かっていた。結成40年を経て、今だ衰えずエネルギッシュに活動するストーンズは、まさに「転がり続けている」んだなあと痛感した。





 ストーンズのライヴは、メンバー紹介コーナーも見どころのひとつだ。「バンドヲ ショウカイ シマ~ス」という日本語MCの後、サポートから順にミックが紹介。最初に歓声が大きくなるのはボビー・キーズのところで、恐らくはダリル・ジョーンズを凌いでいると思う。リサ・フィッシャーのところでは、ミックは「スカート ミジカスギ」と突っ込みを入れる(笑)。短髪になったはずのリサは、この日はカツラをかぶっていたらしく、ロングになっていた。次の歓声はロニーのときで、あまりにも止まないので今度は「シツコイ」とミック。チャーリーの番になると歓声は更に大きくなり、ライヴが中断してしまうんじゃと思ってしまうほどだ。そうして最後に紹介されるのはキース。ここでミックは退き、キースコーナーとなる。


 曲は武道館のときと全く同じ2曲だが、『Slipping Away』は間奏のキースのギターソロのところで少しじぃんとなった。今や軸は『Happy』ではなく、この曲に取って代わってしまったのだろうか。キースもそうだしロニーもそうなのだが、2人とも足を大きく開いて前傾姿勢になってギターをかきならすことが多い(キースの場合は蹴りのポーズも入る)。エリック・クラプトンやジェフ・ベックが、上体をのけぞらすようにして弾くのとは対照的だ。





 後半戦は『Sympathy For The Devil』で幕開けとなり、スクリーンには燃えるベロマークが。これがサビに近づいたところで爆発してバーンとはじけ、炎がメラメラと燃える映像に変わる。ミックはやっぱり花道を右に左にと移動しては盛り上げ役を担っているのだが、しかしあれだけ走り回っていながら、なんで息も切れずに歌い続けられるのか。恐ろしい肺活量というか、なんと言うか。今年で還暦だぜ。一方ステージ中央では、キースがギャギャッとギターをかきならしてスリリングなソロを展開している。


 この後シャカシャカというイントロが響き、横浜アリーナよりも早い段階でのBステージコーナーになった。メンバーは花道を歩きながらファンにタッチしたり、プレゼントを受け取ったりしている。私の位置からはBステージはちょうど真横のアングルになり、キースやダリル、チャーリーがよく見える側だ。まずは『It's Only Rock'N Roll』だが、ドームのBステージでは、オーディエンスとの一体感が生まれるライヴハウス感覚というよりは、スポットライトを浴びるバンドが更に神々しくなったように見える。


 続くはレアものの『Little Red Rooster』。90年のライヴアルバム『Flashpoint』には、エリック・クラプトンがゲスト参加したテイクが収められている。格闘技好きのクラプトンが、翌16日に行われるPRIDE 25を観戦するために極秘来日して、この日のライヴに飛び入りするのではという噂も一時はあったのだが、それはなくなったなということを、私はこのときに悟った(当たり前か)。


 そしてお次はなんと『Midnight Rambler』。うひゃー、ドームでこの曲演られた日にゃ、武道館のセットリストがレアでもなんでもなくなっちゃうじゃないか(苦笑)。ミックは満遍なく四方を歩きながら歌い、キースも比較的動きながらギアーを弾く。そして見せ場はやはり後半部で、ミックのブルースハープを経て場内は暗くなり、Bステージの外枠のライトが点灯する。ミックが終盤に歌い上げるところでチャーリーのバスドラがドスンと効き、それに合わせるように3塁側からスポットが当たる。『ハイド・パーク・コンサート』での、ミックがステージにぺたんと座りながらシャウトする絵が、一瞬頭に浮かんだ。時代も国も環境も、まるで異なるはずなのに。





 ステージではリサのコーラスが長い長いイントロになっていて、キーボードのチャックがいち早く戻って弾き始める。そしてメンバー全員が生還したところで、『Gimmie Shelter』ときた。リサがカツラをかぶったのは、もしかしたらこの曲のためだったのかな。プリンスは、かつてツアーメンバーとして一緒にプレイしたロージー・ゲインズをアレサ・フランクリンのようだと絶賛したことがあるが、ミックを向こうに回してもひけを取らないリサは、若き頃のティナ・ターナーを思い起こさせる。


 ここからは定番ショーとなるのだが、『Honky Tonk Women』のとき、私はある試みをした。ミックもスクリーンもそっちのけで、キースだけに着目したのだ。イントロはキースの指で始まるのだが、その後はどうかと言うと、おおお結構弾いてるじゃん(笑)。そしていよいよサビだが、バックコーラス、いやミックとのツインヴォーカルだ。そして本編ラストの『Jumpin' Jack Flash』では、なんとキースは上着を脱いでしまい、上半身をあらわに。自信か、それとも単なる勢いか(笑)、でもとにかく、この人って役者だ。武道館や横浜アリーナではアンコールのときに吹き出ていた紙吹雪が、この時点で飛び出していた。


 アンコールは、もうこれしかない『Satisfaction』で、ラストはステージ両端から花火が上がり、爆竹が弾けた。会場のキャパシティにより、3種類のセットをこなしている今回のストーンズだが、花火が打ち上げられるのはスタジアムだけ。ちゃんとツボを押さえてますなあ。最後はこれも恒例の、メンバー全員が肩を組んでの挨拶。まずはサポートを含めて横一列になって礼をし、次いでメンバー4人だけで肩を組み直して再度礼。必ずしもミックが真ん中に、というわけではないのね。








 キャリアのあるアーティストなら、創作のペースが鈍くなるのもある意味仕方がない。増してやストーンズの場合、もう40年もやっているし。とはいえ、久しぶりに活動を再開したと思ったら、リリースされたのはベストアルバムだった。煮詰まったときにベストを出すアーティストは、決して少なくない。オールタイムのベストは初めてだとか、新曲が4曲収録されているとか、そういったキャッチフレーズも、正直インパクトに乏しかった。


 しかしストーンズは、このグレイテストヒッツツアーを逆利用した。キャリア総括の重み付けを、選曲のみならず会場にも反映した。従来のスタジアム公演に加え、アリーナ公演、更には60'sには主戦場として行っていたであろうライヴハウス(シアター)公演という、3パターンの会場でそれぞれに内容の異なるライヴを行ったのだ。確かに日本では、ライヴハウス=武道館という、いささか強引な位置付けにはなった。しかしストーンズは、武道館で公演を行っていない最後にして最大のバンドであり、しかも73年に予定されていて中止になった、幻の日本公演の舞台は同じ武道館だったというところにドラマが生まれた。日程が公演初日となり、日本では初めてのドーム以外の公演ということも、追い風になった。





 キャリア総括ライヴは、同時に私自身にとってのストーンズとの関わりの歴史を思い起こさせた。ついに夢が叶った、90年のスティール・ホイールズ・ツアー。日替わりアコースティックに狂喜した、95年のヴードゥー・ラウンジ・ツアー。初めてセンターステージが導入された、98年のブリッジズ・トゥ・バビロン・ツアー。そして、そのときそのときの自分のありよう。更には今や遠い記憶になりつつあった、初めてストーンズの音に触れたときのことまでもだ。


 今回、3度の公演を通して最も強く私の印象に残ったのは、レア曲やBステージを凌いで、実は往年の代表曲が持つ、限りのないパワーだった。これまで何度も繰り返し聴いてきて、「慣れ」を通り越して「飽き」のところに行き着きつつあったはずなのに、それがなぜか、とても新鮮に受け取ることができたのだ。なぜ「慣れて」しまったのか。なぜ「飽きて」しまいそうになったのか。それは、あまりにも「当たり前」になってしまったからだ。


 観れて当たり前、聴けて当たり前、この「当たり前」の領域に到達したロックナンバー、そしてロックバンド、他にどれだけある?これは物凄く地味で平凡なことのようでいて、実はとてつもなく高いハードルをクリアし続けなければ、成し得ないことなのだ。・・・そう考えたら、ローリング・ストーンズは、今や「奇跡」を体現し続けている唯一のバンドということになる。そしてその「奇跡」を何度も目の当たりにできて、私はこの上なく幸せだ。




(2003.3.16.)































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