Pearl Jam 2003.3.1:パシフィコ横浜 国立大ホール

開場は遅れていた。リハーサルが長引いたためとのことだが、外は強い雨。そしてパシフィコ横浜は海沿いに位置していることもあってか、風がとても強い。なので体感はとても寒く、傘を持つ手もかじかんでいた。こうして20分ほど並んだ後にようやく入場。ロビーのグッズ売り場には長蛇の列ができており、一方場内はガラガラ。ほんとにチケット売り切れになっているのかしら?と疑いたくなる状態だ。だけど、それも開演予定時間頃になるといつのまにか席が埋まり出し、そして20分ほど遅れて客電が落ちた。





 一度として、同じセットリストのライヴを行わないパール・ジャム。なので1曲目が何なのかも全くもって予測不能だったが、この日は『Love Boat Captain』だ。新作『Riot Act』からで、テーマはずばり「愛」。「既にそう歌った奴がいるのは知っている/だけど、何度歌っても足りないのだから/All you need is love/love...love...love...」。エディがこの曲を書いたとき、他のメンバーはびっくりしたのだという。だけど私には、この曲こそが現在のバンドの立ち位置を示しているように思えてならない。キャプテンとは、パール・ジャムの5人。そしてラヴボートに乗り込んでいるのは、この日この場に集まった私たちなのだ。エディはギターを弾きながら歌うのだが、早くも弦を切る気合いの入りようだ。


 『Love Boat ~』は一聴して地味だが、それでも嵐の前の静けさのような凄みを備えた曲だ(『Release』の流れを継いでいると思う)。しかし続くは、早くも必殺ナンバーのひとつ『Even Flow』。この静から動への転化もたまらず、ああパール・ジャムのライヴに来たんだなあと実感させられる。マイク・マクレディのリフは、贔屓目かもしれないがエリック・クラプトンの『Layla』にも匹敵するくらい印象的だ。そして間奏はそのマイクの独壇場となり、エディは脇に下がってワインをボトルのままラッパ飲みしていた。





 メンバーのポジションは、向かって左にギターのマイク・マクレディ。その右隣にベースのジェフ・アメン。中央がエディ・ヴェダーで、右にギターのストーン・ゴッサード。この4人が横一列に並んでいる具合で、エディの真後ろにドラムのマット・キャメロンが。マットの右横にキーボードのサポートがいて、この人はまるで仙人のような風貌だった。ストーン以外はみなそれほど大柄ではなく、特にマイクは、ライヴDVDではかなりマッチョな体型に見えていたのに、実物は細身だった。


 そしてどうしても気がいってしまうのは、エディの髪型だ。トレードマークといってもよかった以前の長髪をやめたのを知ってはいたが、まるでこち亀の両さんのような(笑)短髪の角刈りヘアーにはおっさん度がにじみ出ていて、お世辞にもかっこいいとは言えない。エディをはじめとするメンバーは、ロックスターというよりも、ただのロック好きな小僧たちが大人になっただけというたたずまいだった。頂点を極めたといってもいいことを成し遂げているというのに、神々しさがまるでなく、いたってふつうだ。


 だけどこのロックスター然としていないところこそが、パール・ジャムの本質なのではないか。カリスマ扱いを受けたり、時代の代弁者として祭り上げられたり・・・、恐らくは自分たちのあり方と周囲からの受け取られ方との間にある大きなギャップに、これまでずっと悩ませられてきたに違いない。かつてのPVを作らない宣言や、チケットマスターとの確執なども、はっきり言ってしまえばぜんぜん賢くない。もっとりこうになって上手に折り合っていけばいいのに、でもそれができずに不器用に振舞ってしまうのが彼らなのではないか。私は1階前から10列のほぼ正面という、かなり恵まれた座席で観ていたのだが、メンバーを間近にして感じたのは、そんなことだった。





 曲は新旧満遍なくセレクトされ演奏されているが、幾分新作『Riot Act』に寄っているだろうか。改めてナマで彼らの音楽と向き合っていて、いろいろと細かいこともわかってくる。決してギターやギタリストが前面に出たバンドではないイメージだったのだが、ほとんどの曲はギターのリフで始まっている。そしてその半分はマイクだが、後の半分を担っていたのはエディだった。エディはまずはシンガーでありコンポーザーであって、ギターを弾くのはニの次と勝手に決め付けていたのだが、そうではなかったのだ。


 ステージには装飾という装飾もなく、強いて挙げるなら曲によりスポットライトが後方からメンバーを照らすくらい。だが『Wish List』のときには、ミラーボールがステージの上の方から降りてきて、その光は客席の方にまで広がった。ハードでヘヴィーな音が売りのパール・ジャムだが、ゆったりしたこのメロディで「俺は伝令になりたい/俺はブレーキペダルになりたい/俺は「信頼する」という動詞になりたい」と歌われるこの曲が、私は大好きだ。続く『Jeremy』はこの日何度目かのハイライトとなり、場内大合唱だ。


 序盤の『Even Flow』でマイクの長いギターソロがあった以外は、ほとんどが原曲に近いアレンジでの演奏だった。なので曲が進む割には時間の方はあまり経過しない。しかし場内に漂う緊張感は曲を重ねる度に増し、この曲で終わりか、いや次かという変な勘定をしながらステージに見入ってしまった。そして本編ラストは、これまた必殺ナンバーのひとつである『Go』。ヴァリライトが閃光し、メンバー5人全員の演奏がひとつに結集され、尋常ではない空気を生んだ。





 アンコールはなんと『Last Exit』でスタートし、思わず声を挙げてしまった。私がパール・ジャムのライヴを観るのは、95年の武道館以来8年ぶりなのだが、この曲はその当時の軸的位置づけの曲だった。8年のインターバルは、あまりにも長かった。だけどこの8年の間に解散したバンドも少なくないはずだし、パール・ジャムにもその危機はあった。それを彼らは克服し、こうして再び日本の地を踏んでくれた。それでいいではないか。そしてこのアンコールは、まるで8年前のライヴを思い起こさせるように、『Daughter』『Alive』と初期の代表曲が連発となった。


 2度目のアンコールで、エディがメンバーを紹介。マイク・マクレディにだけ「ミスター」とつけていたのが印象的だった。エディにばかり注目が集まりがちなパール・ジャムだが、バンドを作ったのはジェフ・アメンとストーン・ゴッサードで、エディが加入したのは実は最後。全員が作曲に携わっているということもあってか、メンバー間の結束は簡単には揺らぎそうになく、観ていて頼もしく感じる。


 またも8年前を思い起こさせるような『Indifference』。これで締めくくりかなと思いきや、ラストはなんとザ・フーの『Baba O'riley』だ!彼らのライヴでは既にお馴染みの曲だが、日本で演奏されるのは、もしかすると初めてのことではないだろうか。イントロと同時に客電がついて、場内が明るくなる。エディはビートに合わせて2つのタンバリンを叩くのだが、勢いが強すぎるのか、そのたび破片が飛び散る始末だ(笑)。





 8年前は道なき道を重戦車で突き進むかのような勢いがあったのだが、この日のライヴの大半は抑え気味で進められていたように思えた。エディが何度かジャンプし、マイクがギターソロのときにステージの前の方にまでにじり寄ってきた以外、メンバーに派手なアクションはなかった。何曲か演るとエディのMCが入り、『I Got Shit』の前には2階席や3階席のオーディエンスにも呼びかけていた。こうしたことは、ちょっと考えすぎかもしれないが、あのロスキルドの事件を踏まえてのことではなかっただろうか。オーディエンスが興奮しないように、暴走しないように心がけ、あの悪夢を二度と繰り返すまいとする、バンドの決意のようにも見て取れた。




(2003.3.3.)
















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