四人囃子 2002.5.2:渋谷公会堂

当初は、東京と大阪1回限りの公演のはずだった。しかし特に東京公演は入手困難のプラチナチケットと化し、観たいのに観れないという、熱狂的なファンの不満を募らせる結果にもなった。そうしたファンの声にバンド側が応えたのか、追加公演が発表に。私は4月27日に続いて四人囃子を観れることに狂喜する一方、スモーキー・メディスソのライヴとどう向き合うべきか気持ちの整理がつかないまま、会場に足を運んだ。





 私の座席の位置の違いによるのかもしれないし、あるいは単に気のせいかもしれないが、この日は27日よりはるかにオーディエンスのノリがよかった。イントロのSEが流れた時点で場内は拍手と歓声の渦となり、四人囃子のメンバーがステージ上に姿を見せたところで、そのヴォリュームは更に高くなった。オープニングは『おまつり』。私のこの日のポジションは1階後方の向かって左、つまりは森園側だ(27日は佐久間側だった)。イントロのギターが心地よく聴こえるが、幾分荒っぽい。しかし荒っぽいのは森園だけではないことを、この後思い知らされる。


 緻密さと正確さをとことんまで追求するテクニシャン集団。これが私が四人囃子に抱くイメージだ。現在メンバーの年齢は50に差し掛かろうとする大人で、若かりし頃のように熱きエネルギーを以って弾けることは難しいと考えるのが妥当だろう。増してや四人囃子解散後は、それぞれが音楽プロデューサーとして幾多の若いバンドを手がけ、言わば裏方として業界で活躍してきただけに、今になって自分たちが前に出て一歩を踏み出すというのは、かなり照れくさいはずだ。


 27日のときは、メンバーはかなりリラックスして演奏に臨んでいたように思えた。どこでどうして起こったかわからない、時ならぬ四人囃子ブームとチケット争奪戦。当人たちはまさかそんなことになるとは思いもよらず、もっと気楽に演りたかったのではないか。そんなふうに見て取れた。ところが、この日はまるで違う。メンバーの気合いが、各々が手にする楽器をフィルターとしてビシビシと伝わってくる。その演奏は緻密というより、勢いでぐいぐいと押し切るような荒っぽさだ。


 セットリストは27日と全く同じ。演出も特に変わった様子はない。なのに場内を包む雰囲気が27日とはまるで異なり、緊張感に溢れている。これは決して27日がよくなかったということではなく、この日が追加公演ということで、自分たちとその音楽を求めてくれたファンに対する、バンド側からの礼なのだと思う。更には、四人囃子の音楽をノスタルジーとして披露するのではなく、今だからこそ世に高らかに鳴らすべき音楽として、攻めの姿勢で臨んでいるのだ。公演を重ねることでメンバーはその意思を確かめ、それができるという自信をつけたのではないだろうか。





 そして、その瞬間は再びやってきた。ステージ後方からはスモークが沸き上がり、電撃のイントロと同時にヴァリライトが閃光する。場内には尋常ではない雰囲気が漂い、持続されてきた緊張感は、いよいよその度合いを増してメーターを振り切った。『一触即発』だ。彼らの音が作り出す最高のカタルシスに、その後どれだけのアーティストやバンドの音が到達し得ただろうか。ここで本編を締めくくり、27日と同様アンコールで『Cymbaline』を披露して、ライヴは終わった。短期間ではあるが密度の濃かった四人囃子のツアーは、ここで幕を閉じた。しかし私はこれで終わったのではなく、これが新たな始まりのように、思えてならなかった。





 さて、この後は私にとって問題のスモ−キー・メディスソだ。27日のライヴを見終えた時点では、この日は四人囃子を見終えたところで即帰ろうかとも考えたが、四人囃子のライヴの余韻をかみ締めながら、とりあえずは残ることにした。オープニングは『空と雲』のカヴァーではなく、こちらも27日とは違うライヴになりそうな予感がした。


 3曲を演奏し終えたところでCharのMC。実は27日のときは四人囃子を茶化すようなことばもあって、これはCharなりのユーモアなのだろうと受け止めていたのだが、この日はそれもなかった。では何をしゃべったのかと言うと、スモーキー・メディスンというバンドがどうやってできあがったのかというエピソードを披露。当時メンバーはみな10代で、アマチュアとして別々のバンドに在籍し活動していたこと。イベントなどでお互い顔見知りになり、アマチュアながらにスーパーグループを組もうといってスモーキーを始めたこと。当時はあまり練習をせず、ミーティングばかりしていたこと。・・・などだ。そのミ−ティングの中でカヴァーしようと決まった曲の1つが次の曲と言い、ジェフ・ベック・グループの『I Got To Have A Song』を始めた。


 このMCは、正直とても嬉しかった。27日のときにはなかった、四人囃子目当てでこの日初めてスモーキーを観る人に対するメンバーの配慮をCharが代弁したのだと、私は受け取った。そもそも洋楽アーティストの公演ならまだしも、観る側も演る側も日本人であるならば、MCはもっと有効に発するべきなのだ。当時はみんな若くて実績もほとんどなかったが、それが後にそれぞれが成功し活躍することによって、スモーキーというバンド自体が見直される。そしてその若かりし頃、とにかくやってみよう試してみようというさなかで、彼らはいろいろなアーティストの曲をピックアップした。そう考えれば、スモーキーのライヴは単なるカヴァー大会には留まらず、緊張感を帯びたものに転じてくる。


 セットリストは、27日とは少し異なっていた。アンコールはCharと金子マリとのアコ−スティックで始まり、1曲目はなんとジョン・レノンの『Imagine』だった。しかし歌詞は直訳に近い日本語で、これはRCサクセションが88年に発表したアルバム『Covers』に収められているバージョンだ。続いては『Honey』。27日のときにも歌われた曲だが、この日は金子マリのエモーションがよりストレートに出ていたように思え、静かに聴き入りながら噛み締めた。褒めるのが最後になってしまったが(笑)、たとえ演奏の大半がカヴァーであるにしても、それをカヴァーと感じさせないメンバーの力量は、さすがだと思う。





 4月27日の公演にはテレビカメラが入っていて、6月22日にテレビ朝日系で放送されることになっている。そしてこの日の四人囃子のライヴについては、ライヴアルバムとして発売する予定があるらしい。更にはこのレポートを書いている時点では非公式の情報ながら、どうやら四人囃子は、Charの参加も既に発表になっている、フジ・ロック・フェスティバルに参戦するようだ(5月8日に正式発表になりました)。今回のツアーのサブタイトル「ROCK LEGENDS」とは、封印されている伝説の中を覗き込むのではなく、封印を解き放ち復活させるためにつけられたサブタイトルだと、私は思っている。




(2002.5.4.)
















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