そしてやっとステージが明るくなり、実質的に『Vespertine』の1曲目だと自ら語っていた『Homogenic』収録の『All Is Full Of Love』となる。白い衣装は、山伏がまとっているような白装束を思い起こさせた。体は骨太という印象があったのだが、意外や(失礼)ほっそりめに見える。しかしたくましさを感じるのは、母になってもう長いからなのと、表現者として発するオーラの強さからなのだろう。マイクスタンドを両手で握って歌うその姿はとてもりりしい。そして圧倒的とも言える甲高い声とその声量は、レコードまんまだ。真っ黒の髪。くりっとした目。あのビョークが、自分のほんの数メートル前に立って歌っている。ああ、ビョークのライヴをこんな間近で観ることができるなんて・・・。
20分という時間は、決して短い時間ではないと思う。が、終始座って観ていたにもかかわらず私はへとへとで、この休憩時間をフルに使って休むことだけに専念した。そして『You've Been Flirting Again』で第2部スタート。ビョークは赤のドレスに着替えていた。上半身はラメ地に。スカートの部分はふくらんでいて、羽根がたくさんついていた。2部構成とは言いながら、第1部の内なる世界はまだ継続していた。
『Isobel』を経て、ついに『Pegan Poetry』。『Vespertine』の世界観を象徴する曲であると同時に、今回のツアーの軸にもなっている重要な曲だと思っている。ビョークはスカートに鈴をつけているようで、小刻みに踊るたびに鈴の音が響く。PVでは裸身をさらすことも厭わなかったそのありさまに度肝を抜かれたが、ここではシンプルに歌で勝負だ。更に続いては汽車のイントロが響き渡り、『I've Seen It All』となる。原曲はトム・ヨークとのデュエットだが、ここではビョークが全てを歌う。「ダンサー・イン・ザ・ダーク」で彼女が演じたセルマは、今も彼女自身の中に生き続けているのだろう。
プログラミングの重低音が響き、ここから真の第2部が始まる。『Army Of Me』で、最前列の私はじっとこのときを待っていた。ライヴの楽しみ方や感じ方は人それぞれだと思うし、その人の観ている位置にもよるとは思う。ただやみくもに手拍子や声援を送ればいいというものでもないし、かといって終始腕組みしてふんずり返って観ているというものでもないだろう。静かに聴くべきところはじっくりと聴き、歓喜の声を上げるべきところでは上げ、それを体全体で表現する。つまりは場の空気を読むことがとても重要だと思っていて、それがアーティストとオーディエンスとが素晴らしい時間と空間を共有することにつながっていくのだ。こんなに素晴らしいライヴを観させてもらって、なんとかそれに応えたかった。ここまで場内はほとんどの客が座って観ていた。最前の自分が立てば、後ろはそれに倣って立つ。このときこそが、まさにそれをすべきところなのだ。