Paul Weller 2001.7.17:Club Quattro

私は92年以来ポール・ウェラーの来日公演を欠かさず見ているのだが、昨年から1年足らずの再来日にはさすがに躊躇した。(さま~ず三村風に)またかい、もう来るのかい、というツッコミを入れずにはいられなかった。そんな私の迷いを振り切ったのは、クアトロで追加公演という報。地方ならともかく、東京でキャパ1000を切るハコでウェラー先生の勇姿を拝める機会は、後にも先にももうあるまい。





 予定より5分ほど遅れた頃、客電が落ちる前に大歓声が沸く。ウェラー先生登場だ!今回はバックバンドが一切ない、本人オンリーのアコースティックセットで、ステージには4つのギターが置かれている。その中心の椅子に座り、ギターを手にする先生。特別何かをしなくても、ただそこにいるだけでカッコいい。これは私の嫁によるポール・ウェラー評だが、目の前で見ていることもあってか、私もこのことばを噛み締めずにはいられなかった。まだライヴが始まってもいないのに。


 『Above The Clouds』でスタート。先生は弾くというより手ではらうようにしてギターをかきならす。金髪がなびく。左足で大きくリズムをとる。黒いTシャツからは筋肉質の上腕が覗き、そして声には力強さと延びがある。この声をこんな間近で聴けるなんて!もちろん場内のリアクションも上々だ。


 狭い会場。低い天井。飾りのないステージ。そしてアコースティック。まるでウェラーが地元のクラブにふらっと現れて、身近な人を前に歌っている。そんな錯覚に襲われ、勝手に身内意識が芽生えてくる(笑)。がしかし、それは状況がそうだというだけで、目の前にいるポール・ウェラーはやはりプロだ。気分はリラックスして自分も楽しんでいる様子だが、ギターを手にしマイクの前に向かって歌うその姿には、今の自分にできる最大限を絞り出さんとするエネルギーがほどばしっている。





 序盤は『All The Picture On The Wall』や『The Loved』など、近年のライヴでは演奏されることのなくなったソロ初期の曲が続く。私個人としては過去の2大バンドの曲と同じくらい楽しみにしていて、目立ちはしないがいい曲をたくさん書いていることが、アコースティックという場で再認識されてよかったなと思う。どちらが先でどちらが後かはわからないが、盟友スティーヴ・ホワイトは、弟アランが指を骨折したためその代役としてオアシス=クロウズのツアーに参加。片やウェラーの方はたったひとりでツアーをすることとなった。だけどウェラーにしてみれば、アコースティックオンリーのライヴはどこかでやってみたかったのではないか。


 アコースティックライヴというのは、普段のエレクトリックのときには見えにくかった曲の別の一面が明らかになったり、アーティストのパフォーマーとしての力量がダイレクトに出てしまったりするという性質があると思う。そして、ともすれば"アコースティックで演った"こと自体が過大に評価され、「渋い」「味がある」といった表現で片付けられてしまう恐れもある。だけどウェラーのアコースティックは、そんなことばで片付けることなどできはしない。やっぱりハードで、やっぱりソリッドだ。3月に武道館でボブ・ディランの『Tangled Up In Blue』を観て、アコースティックがこんなにも緊張感に溢れ、ぞくぞくするものなのだと思い知らされた私だが、ポール・ウェラーもそれに比肩すると言い切りたい。





 ついにジャムの曲が解き放たれた。『English Rose』。正直聴くのが怖かった。ジャムやスタカンの実績に頼ることなくポール・ウェラーはソロアーティストとして自分を磨き、そして第3のピークを迎えたはずだ。なのになんで今更?−その答えは、この演奏の中にこそあった。曲自体が持つパワーにウェラーが依存し時計の針を逆回転させるのではなく、40代になった今のウェラーが、新たな命を吹き込んで今の世に蘇生させているのだ。


 今回のツアーは、キャリア総括のように新旧満遍なく選曲されている。そうした中、もっかの最新作である『Heliocentric』からの曲が印象に残った。『There's No Drinking ,After You Dead』はアコースティックになってもその緊張感は少しも変わらず、『Back In The Fire』での歌い上げは見事としか言いようがない。昨年は引退説も流れたが、いったいどこのどいつがそんなことを言ったのか。過去もそして現在も、ここまで前のめりであらんとする男が、ここで引退などするわけがない。





 いよいよ終盤。『You Do Something To Me』の余韻も覚めあらぬうちに、全身を貫くあのイントロ!『That's Entertainment』だ!トリビュート『Fire & Skill』ではリーフが荒々しく歌っているが、本家本元はカッコいいし、凄みがある。封印を解いたのには、やはり解いたなりの重みはあった。懐メロじゃないんだ。逆行じゃないんだ。顔面を紅潮させ、汗を流し、座っていながら何度も腰が浮いてしまう勢いでギターをかきならすこの姿こそが、ポール・ウェラーの今なんだ。


 アンコールは、昨年のツアーでもラストを飾っていた『Wild Wood』。ソロの中ではずっと歌い続けられている数少ない曲で、よほどの本人のお気に入りなのだろうか。そしてラストは『Heartstart for Happiness』!「お洒落」「爽やか」と形容されることの多いスタカン時代だが、それもここではハードでアグレッシヴに生まれ変わっている。この幅の広さ。この懐の深さ。この引き出しの多さ。アーティストとして3度もピークを迎えたことの凄さ、改めて痛感せずにはいられない。











 実はこの後、私を含む場内のオーディエンスは粘りに粘った。再度のアンコールを求め、力の限りに拍手を続けた。客電がつき、アナウンスが入り、スタッフが機材を片付け始めても、帰ろうとする人はほとんどいなかった。それでも出てこなかったポール・ウェラーは、やっぱり「先生」なのかな(笑)。




(2001.7.18.)
















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