We Are The Brain Police ! 2001.6.9:日比谷野外大音楽堂

時期が時期なだけにあるいは雨中のライヴになることも覚悟していたが、幸いにも好天に恵まれた。頭脳警察が眠りから醒めるのを、天も受け入れているように思えた。今回はその頭脳警察を含む計4バンドのジョイント。ステージ後方には"WE ARE THE BRAINPOLICE !"の文字が書かれた幕があった。まだ日も暮れず明るい中、開演時間ちょうどにトップバッターの怒髪天がステージに立った。


 彼らは北海道出身の4人組で、voのコミックバンド調MC(笑)でスタートする。しかし音割れがひどく、耳が痛い。音は70'sのガレージパンクを日本人がやるとこうなるのかなといったふうで、泥臭くて真新しさはないが結構メリハリがあるバンドだった。voの兄ちゃんは、ほとんどの人が座っておとなしく観ているのをなんとかしようと必死。彼らも客の多くが後に出てくるバンドが目当てなのを充分承知の上でやっているはずだし、その上でなんとか自分たちの音やスタイルを認めてもらおうと仕掛けているはずだ。





 怒髪天は約20分のステージ。そしてセットの入れ替えも手際良く行われる。"WE ARE ~"の幕がめくれるとドラムセットが台車に載せられてがらがらと出て来る。そうしてものの10分でチェンジ完了。フジロックの演奏やセットチェンジのインターバルに慣れてしまった私にとっては、逆に新鮮だった。


 2バンド目はIn The Soupという4人組。割とルックスがいい兄ちゃんたちがフロントを固め、場内からは黄色い声援が飛ぶ。立って踊る客が多く、そのほとんどが女性。どうやら固定ファンがいるようで、曲によりお約束のフリもあるらしい。そして音の方だが、ラウドでありながらルーズさも兼ね備えていて、個人的には中期ツェッペリンのような感触を覚え、好感を持った。ロック・イン・ジャパンや小岩井ロック・ファームなど夏のフェスにも出演予定。そして10月、ここ野音でワンマンライヴを行うそうである。





 そしてソウル・フラワー・ユニオン。女性ファンがステージ前方まで押し寄せ、柵の直前に群がりちょっとした騒ぎに。本人たちはさすがに貫録たっぷりで、だけど飾らないスタンスでの演奏には更に好感を持つ。まるで大人数で演奏しているかのようながちゃがちゃしたにぎやかな音だが、しかしバンドは5人。多彩な楽器、そして中川敬のクセがありながらそれが深みと味わいにもなっているvoにも聞き惚れる。ちょうど演奏中に日が沈み、薄明るかった場内が一転して漆黒の世界に変貌。ステージに神秘性が漂う。


 途中MCで、中川がPANTAのことを少し話す。10年前、ニューエスト・モデル/メスカリン・ドライヴ時代に他のバンドと何度かジョイントする機会があって、そうした交流を経た中でPANTAにベタ惚れしたとのこと。私は頭脳警察は聴いているがソウルフラワーは知らず、私の嫁は頭脳警察は知らないがニューエスト・モデルはリアルタイムで体験。ナマ中川を観るのも10年ぶりぐらいなのだそうだ。こういう私たちがこの日野音に足を運んだのも何かの縁かなと思い、ソウルフラワーの絶妙の露払いを受けて、この後いよいよ頭脳警察が復活する。





 ソウルフラワーのライヴが終了した途端、場内からは「パンタ~」の声援が飛ぶ。またIn The Soupやソウルフラワー目当ての女性ファンも多かったらしく、頭脳警察を待たずして自分の席を離れ後方に下がるというのが目立った。この日のライヴの客層はほんとに面白く、こうした若い女性ファンから、70'sの頭脳警察をリアルで享受していたのではと思われる、かなり年配の方も多かった。そしてセットチェンジの間に流れていたのはフランク・ザッパの『Who Are The Brain Police ?』だ!言わずと知れた、頭脳警察の語源になった曲である。











そして午後7時52分。ついにそのときは来た。












 メンバーがステージに姿を見せ、場内は興奮の坩堝に。ヘルメットをかぶった兄ちゃんがいつのまにか最前を陣取り、少しばかりヤバい雰囲気にもなる。そしてしょっぱなは、いきなり『銃をとれ』だ!!!長い長いイントロ。PANTAはきりっとした視線で場内をゆっくりと見渡す。そしてスタート。今までCDでしか聴くことのできなかった頭脳警察が、ついにこの2001年によみがえった!伝説の封印が解き放たれた瞬間だ。


 PANTAはかなり大柄でがっちりした体格。上半身は袖を破ったGジャン姿。そして黒いズボンにひざパットとすねパット。まるで機動隊のような下半身だ。ギターを持つ手は左利きだというのにも少ししてから気付く。そしてPANTAのすぐ横に陣取るトシ。見てくれはいいオッサンだが、パーカッションを叩くその姿は音を操る魔術師のよう。メンバーはあと3人いて、計5人の編成だ。


 『歴史から飛び出せ』『ふざけるんじゃねえ』などの往年のナンバーに加え新曲も披露。しかしどの曲も想像をはるかに上回るハードでラウドで、度肝を抜かれる。何度も繰り返し聴いたCDでは古臭く聞こえ、ああ70'sだなあ時代だよなあなんて思っていたのに、ナマはちっともレトロじゃない。この圧倒的な音は何だ。この説得力を帯びた音は何だというのだ。PANTAもトシも50を越えたと思われるが、このアグレッシヴさは凄い。欧米には50を越えても今なお精力的に活動を続けるアーティストがたくさんいるが、日本にも彼らに抗し得る奴らがいたのだ。





 本編は約40分で終了。しかし1曲1曲がとてつもなく重厚でしかも緊張感に溢れ、時間の長い短いといった次元を超えている。ダメ押しのアンコール、まずは『コミック雑誌なんかいらない』。内田裕也の映画とその主題歌でも有名だが、原曲はもちろんコチラだ。そして中川を呼ぶPANTA。中川敬がギター片手に現れ、藤井一彦の隣に陣取って演奏に加わってのラストは『悪たれ小僧』だった。











 頭脳警察は自分の意志と関係なく時代とリンクする−。これは入場時に配布された冊子に書かれていたPANTAのインタビューの中のことばのひとつで、この日のライヴの充実度はこのことばに集約されていたと思う。何故にああまで演奏に説得力があったのか。何故にああまで音にリアリティがあったのか。それはPANTAやトシがそうしたのではなく、時代が頭脳警察を呼び起こし、再び世に解き放ったということなのだ。以前のように政治活動とリンクすることはないのかもしれないが、往年のファンはもとより私のように今回初めてライヴを体感するファン、そして更に若いファンにも叫び、訴え、仕掛けていくのだろう。











そしてあの幻のファースト『頭脳警察1』が、ついにCD化されることが決まった。


















(2001.6.11.)
















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