J Mascis & The Fog / Number Girl 2001.2.17:赤坂Blitz

私は97年のダイナソーJr.のライヴを観ていることもあって、当初今回の来日公演を観に行くかどうか迷いに迷っていた。後になって東京公演のみナンバーガールがオープニングアクトを務めることが発表され、更に迷った。で、ここまで迷っているんならええ~い行ってしまえ!と最後は開き直り(笑)、チケットを入手。だけど、この日のライヴはそんな迷いがケチくさく思えてくるくらい、素晴らしいモノだった。





 まずはそのナンバーガール。近年特に躍進めざましい日本のロックの一端を担うギターバンドだ。ライヴを観たい観たいと常々思っていて、それが今回Jのオープニングというやや意外な形で実現することとなった。もともとピンでBlitz公演も行っており、今回のチケットの売れ行きにも貢献したと思われる。


 「福岡市博多区から参りました~」という、向井秀徳のMCでライヴは幕を開ける。オープニングは『タッチ』。予想以上の音量。機材はステージ中央部に集約されるようにこじんまりと配置され、それに囲まれるようにして4人が弾ける。中央が向井。向かって左にb、再奥にds、向かって右に田渕ひさ子という立ち位置だ。


 曲はメドレー形式でほとんど途切れなく続く(楽器を交換したのは計2回くらい)。細身ながらパワフルなアクションを見せる田渕ひさ子。倒れんばかりにのけぞってギターをかきならす向井。その2人に少しも劣らないbとdsのリズム隊。向井のvoは轟音ギターに拮抗し切れず弱い気もするが、しかしこの向井の声は妙に哀愁を帯びていて、妙にノスタルジックだ。それがひんやりとしたギターサウンドの渦の中にあって生身の人間の息遣いのように思え、好感が持てた。約50分のステージだったが、この姿はいつかまた観てみたいと思った。例えばフジロックフェスティバルの白舞台とか。





 そしていよいよJマスキス登場。のっしのっしと巨体を揺らしながら現れる。ここでもう場内から大歓声。そして1曲目はダイナソーナンバーの『Raisins』だ!甘美なJのギターソロが最初から惜しみなく炸裂する。続く『Same Day』で一気に場内タテノリに。『More Light』の冒頭に収録されているこの曲は21世紀の『The Wagon』といってもいいポップナンバーで、それは今現在のJの姿を反映し、まさにJが再出発のスタートラインに立ったことを私たちに教えてくれる。


 先ほどのナンバーガールとは対照的に、ほとんど1曲ごとにギターを交換するJ。そして少し照れくさそうに「all right,thanks」と答える。長髪に隠れて表情がよくわからないが、どうやら機嫌は良さそうである。調子も良さそうだ。今回のツアーメンバーは、bがマイク・ワット。dsは末期ダイナソーのドラマーだったジョージ・バーツだ。Jは向かって右に立ち、中央にドラムセットとジョージ。マイクは向かって左でトライアングルのような絵柄を成している。機材はこれまたステージ中央部に集約され、両サイドと後方には大きな空間が。まるでスタジオのような殺風景さだが、今のJには装飾など必要ないはずだ。





 ライヴは『More Light』からと、ダイナソー時代のナンバーがミックスされた形で進む。『More Light』はダイナソーの文脈を受け継ぎつつ、なおかつヘヴィーロックとポップチューンの境界線ギリギリを突き抜けた力作であり、J復活を高らかに宣言することに成功している。対してダイナソー時代のナンバーだが、これらを演奏することを私は懐メロだともファンサービスだとも思わない。ダイナソーが放ってきた音楽性が21世紀にも通用することの証明に他ならないと思うからだ。『Out There』には背筋がゾクゾクさせられた。


 私はこれまで数多くのライヴを観に行き、アーティストが再出発する瞬間を見届けてきた。例えば92年のポール・ウェラー。例えば95年のフー・ファイターズ。例えば98年のバーナード・バトラー。昨年3月のオアシスもそれに数えることができるかもしれない。そうした彼らの姿にJがダブる。しかし決して気負うことなく、余裕と風格を漂わせてJは帰ってきた。決して派手なアクションではないが、ゆったりとギターをかきならすJの姿に、私はこみ上げてくるものを押さえられなかった。





 ゆったりと始まった『Ammaring』は、ライヴが終盤大詰めに差し掛かったことを知らせてくれる。この曲は『Same Day』と並び私が『More Light』の中で最も好きな曲で、アルバムでは泣きのギターソロがほんの少しだけ炸裂している。が、ここではまるでジャムセッションのようにいつ終わるともしれないJのギターが鳴り響き、私たちを別世界へと誘う。そしてJがワンコーラス歌った後再びギターソロとなり、今度はジョージとマイクも演奏を止め、Jのギターだけが鳴り響く。場内は水を打ったように静まり、その音色に聞き惚れる。この1曲だけでもBlitzに来た甲斐があった。音としてはライヴのハイライトだった。


 その余韻に浸る間もなく、本編ラストはストゥージズのカヴァー『TV Eye』。この日のライヴではマイクがリードvoを取った曲が5曲くらいあって、そのうちの1曲だ。同じストゥージズの『Loose』も演奏していて、どうやらマイクが歌った曲は全て他のアーティストの曲だと思われる。





 そしてアンコール。Jはギターを背負い、その上からハンディのキーボードを背負う。が、キーボードが逆さまになっていて、苦笑いしながら背負い直してアルバムタイトル曲の『More Light』を始める。が・・・、マイク・ワットの脇に、サポートらしきギタリストがいる。日本人なのか?しかし向井秀徳にしては長身すぎるし、いったい誰なんだ?

















サーストン・ムーアだ!!!


















 まさか?なんてこったい。アメリカオルタナシーンを代表する両巨頭が、しかもここ日本で同じステージに立っている!ソニック・ユースは来週19日からここBlitzで来日公演をスタートさせるのだが、サーストンはどうやら遊びに来ていたようだ。終始うつむき気味で、長髪に隠れて表情がわからない。しかしほとんどノイズのようなギターはJのキーボード&ギターのプレイと見事にクロスし、幻惑的な空間を作り上げている。


 結局サーストン・ムーアはこれ1曲だけでステージを後に。もっと共演して欲しかったが、このさっぱりとした引き際もサーストンらしい。そしてすっかり興奮のるつぼと化した場内に追い討ちをかけるように、怒涛のダイナソーナンバーの連発。まずは今回のツアーでは定番ナンバーの『Little Fury Things』。1曲はさんで(この曲ではローディーくんが「Yeahhhhhh」とシャウトして活躍/笑)、必殺の『The Wagon』!!!更にメドレー形式で『Freak Scene』になだれ込み、ダメを押した。











 ルーズでダルでやる気レスなふにゃふにゃ兄ちゃん、Jマスキス。しかし、果たしてほんとうにJはそのような人なのだろうか。ダイナソー時代はともかく、今のJは力強く、そして自信に満ちている。私はこの日のライヴを通じ、Jマスキスがこんなにも懐の深いアーティストだったのかと今更ながらに思い知らされた。リスタートしたJの今後は大丈夫だと確信し、次の便りを楽しみに待つことにする。





(2001.2.18.)
















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