正直に言えば、私は新作『You Had It Coming』には少し違和感を持っていた。創作意欲が換気し、前作からあまりインターバルを置かずに発表した、そうした積極的なスタンスはいくら絶賛してもし足りない。が、肝心の音の方は『Who Else!』がテクノミュージックとギターサウンドが拮抗しギリギリのところでバランスを保ちそれが絶妙であったのに対し、新作はテクノの方が勝ってしまっているように思えたのだ。
しかし、この夜のジェフ・ベックはそんなたわごとを根底から覆してみせた。圧倒的な音の洪水。アグレッシブなパフォーマンス。次々に繰り出される『You Had It Coming』からの楽曲。まるで発する曲全てがクライマックスのようで、過去の作品と同レベルか、むしろそれ以上のパワーを以って私たちオーディエンスを襲う。私は今まで、ジェフ・ベックのことを線の細いしなやかなベジタリアンだと決めつけていたが、ここにいるジェフ・ベックはパワフルで筋肉質。大地に根ざしたかのような体から放出されるエネルギーに体が吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられる思いがする。まさにギター殺人者の凱旋、まさにギターウォリアーが降臨しているのだ!!
ゴキゲンなのは相変わらずのようで、積極的にステージ前方に身を乗り出したり、オーディエンスを煽ったりしている。もちろんアドリブのギターさばきも満載。『Rice Pudding』〜『Jack Johnson』〜『Savoy』の息もつかせぬメドレーも切れ味鋭い。『Star Cycle』ではイントロをトチり場内から笑いが漏れ、テレ臭そうに手で顔を覆うジェフ・ベック(笑)。『Rollin' And Tumblin'』はジェニファーがvoを担当。2日のときは照れながらやりにくそうに歌っていたジェニファーだったが、この日は堂々と歌い上げた。
本編ラストはお馴染み『Blue Wind』。イントロだけで場内の空気を一変させオーディエンスの身を引き締める、必殺ナンバーのひとつだ。そしてアンコール。ジェフ・ベックはステージ前方に陣取り、ジェニファーは右後方からサポートするようにしての『Where Were You』。そしてそれは、私にとってのジェフ・ベック見納めの瞬間が刻々と近づいていることを表わしている。
同じアーティストのライヴを続けて観に行くと、1回目は1曲1曲がズシリと重くて見応え聴き応えがあり、対して2回目は時間が経つのが早く感じ、最後の瞬間が来るのを拒みたくなってしまう。しかしこの日のライヴ、私の気持ちはそうはならなかった。ラスト『A Day In The Life』の演奏が終わり、メンバーが揃って礼をしたとき、私は素晴らしいライヴを観れたことをただただ彼らに感謝し、そして拍手で応じた。日程的にこの日は東京地区の最終公演にあたり、ツアーは折り返して関西方面に向かうことになる。メンバーが後半戦も素晴らしいライヴで乗り切ってくれることを願い、私はただひたすら拍手した。
ステージを後にするその間際、ジェフ・ベックは「Thank you for great audience」と言い、ピースサインを出した。私はその姿とそのことばを忘れることはないだろう。そして個人的に4度目となるジェフ・ベックのライヴは、間違いなくこの夜の公演がベストだ。私は自身2000年最後のライヴを、この素晴らしいライヴで締めくくれたことを幸せに思う。