Aerosmith 2000.1.7:東京ドーム

当初は見送るつもりだったエアロの今回の来日公演。しかし、公演日が近づくに連れてふつふつと自分の中で湧き上がる衝動が。そこへ、友人がチケットの余らせているとの情報。相方には「東京ドームに行こう」と言って納得させ(笑)、すかさず飛びつくことにした(hideさんありがとうございます)。


 私がライヴで東京ドームに来るのはなんと98年3月のストーンズの公演以来。アリーナ席ともなると、これがその少し前のエアロの公演以来だ。A-15ブロックと、ステージ向かって右側の位置で、これも前回エアロを観たときと酷似している。何かの因縁だろうか。ひとつ隣のブロックに、イエローモンキーのbとgの人がいた。





 客電が落ちる。ステージの後方にある巨大なオーロラビジョンに龍のCGが映し出され、その龍がうねるのに合わせて龍の咆哮を思わせる効果音が場内に響く。やがてそのCGはフェードアウトし、スティーヴン・タイラーのアップ画像へと切り替わる。そして1曲目は、『Eat The Rich』だ!「トキオーーーーッ」とシャウトするスティーヴン。そのスティーヴンがフロントに、そしてその脇に陣取り、体を前後にくねらせながらgを操るジョー・ペリー。髪が短くなり、そしてまるで映画「マトリックス」のキアヌ・リーブスのようなサングラスをかけている。


 次の『Falling In Love』では、そのジョー・ペリーがステージを右の方へ、つまり私のいるブロックの方へ、ギターを弾きながらどんどん近づいてくる。近づいてくる。これだけでもう大熱狂だ!カッコいい。そのアクションがなんとなくキース・リチャーズがかっている気がしないでもないが、とにかく今回のジョー・ペリーは派手に動く。貫禄というか何というか。フロントでは、上着を脱いだスティーヴン。タンクトップにはなぜか「安」の字があり、両肩には目玉がペイントされている。





 序盤は『Parmanent Vacation』以降の曲を中心にした、これでもかこれでもかというグレイテストヒッツ攻撃だ。しかし、最初からこうまで代表曲を惜しげも無く出してしまっていいのだろうか(笑)。そしてそれ以上に驚きなのが、5人全員のライヴパフォーマーとしての力量のupだ。エアロスミスはスティーヴン・タイラーとジョー・ペリーが核になっているのは今更言うまでもないことで、ライヴでも当然この2人は目立っている。


 だが他のメンバーはどうかというと、これが2人に負けず劣らず凄みを帯びているのだ。ジョーイ・クレイマーのバスドラは足元からズシリと伝わってくる。『Livin' On The Edge』のイントロ、そしてクライマックスに至る直前のドラミングは存在感抜群で感動的だし、『Janie's Got A Gun』では最早スティーヴンを食って主役も同然、スクリーンをひとり占めだ。トム・ハミルトンはスティーヴンと、ブラッドはジョー・ペリーとからんで見せたりして。5人全員のコンビネーションが一層強固になったことをひしひしと感じさせてくれる。


 また、ステージセットも今までのエアロからすると珍しく凝った作りだ。巨大スクリーンの両脇には龍があしらわれ、たまに目が光るようになっている。小型スクリーンがステージの左右にも計4台設置され、またクレーンが左側に設置されてカメラマンが上からメンバーを映し出す。カメラマンは他にも数人いて、スティーヴンやジョー・ペリーが右に左に動くときはくっついてその姿を追う。そして、ハンディカメラをスティーヴン本人が持ちながら歌ったり、ジョー・ペリーのgのネックの先に小型カメラが取り付けられてジョーの指使いが巨大スクリーンに大写しになったり、とサービスしまくりなのだ。会場がドームであること、後方の席のオーディエンスにも少しでもより以上に楽しんでもらおうという、バンドとスタッフの尽力に心が動かずにいられない。


 そしてこのグレイテストヒッツ攻撃、セットリストは今まで固定のまま公演は重ねられてきた。それが、なんとこの日は『Livin' On The Edge』の後に来たのは、スティーヴンの口笛、そして顔をくしゃくしゃにしての強烈シャウトで始まった『Back In The Saddle』だった!うおおおおっ。さすが最終日だぜ。更には初期エアロの代表作であり、今なおバンドにとって重要な位置を占めている『Dream On』。私が最も好きなエアロの曲だ。クライマックスでは天井から火花が放たれる。この3連発。正直、参った。まるでゴングが鳴ったと同時にウエスタンラリアットで首を刈られ、もうろうとしているところに天龍源一郎のパワーボムを食らってグロッギー状態になり、更に追い討ちをかけるように小川直也のSTOで"落とされた"ような気分だ。やりすぎだ。しかし、凄すぎる。





 今回の来日公演では、日替わりで初期のレアな曲を演奏するコーナーがある。この日は『Lick And A Promise』『Last Child』の2曲だったようだ(その場では反応できず、後でネットで調べて知る)。スティーヴン・タイラーがピンクのサングラスとピンクのシルクハットをかぶって切々と歌った『Pink』の後に2度目の飛び道具が!『Draw The Line』だ!70'sのギラギラしていた頃のエアロが見え隠れする。これも今回のツアー初。もしかしたら今夜演ってくれるんじゃないかって密かに期待していた曲だったので、とっても嬉しかった。


 そしてジョー・ペリー・コーナーとなる。98年のときはただのっぺりと歌っているだけで、おせじにもうまいとは言えなかったジョー・ペリーのvoだが、驚くことにこれが今回はちゃんと歌えている。場数を踏んだからなのか、それとも開き直ったのか。1曲はジミ・ヘンドリックスのカバーである『Red House』。スライドギターの音色がドームに響き渡った。


 『Walk This Way』~『I Don't Want To Miss A Thing』のくだりは、まさに場内がひとつになった瞬間か。『I Don't Want ~』が最大の盛り上がりを見せてしまうところに違和感を感じるファンもいるかもしれないが、この曲はエアロの長い長いキャリアの中で初めてにして唯一の全米ナンバーワンヒットだし、映画そのものも大ヒットしたので、この曲によってエアロを知ったファンも多いはず。そして何より、スティーヴンがこの日何度目かになるだろう、私たちの方に歩み寄りながら熱唱してくれたので、私個人としてはぜんぜんおっけーである。





 そしていよいよ終盤。スティーヴンが魂込めて熱唱する『Cryin'』。スクリーンにはビデオクリップが映る。少女が橋から飛び降りて中指を立てるシーンがあるが、途中から中指の部分にモザイクがかかってオンエアされるようになっている。だけど、スクリーンにはモザイクなしでしっかり中指が映っていた。しかし、こんな細かいトコロを気にしてる私って・・・(笑)。そしてステージは更にヒートアップ。お祭りモードへと誘う『Dude』『Mama Kin』をもって本編が終了する。しかし凄いテンションだ。ここまでほとんど息もつかせぬ展開だった。私はだいたい腕時計をちらちら見ながらライヴを鑑賞してしまうことが多いが、彼らはそのヒマすらも与えてくれなかった。


 アンコールは劇的にスタートする。ステージがエアロのエンブレムマークがあしらわれた幕で覆われ、幕の中から光が発せられる。スティーヴンがマイクスタンドを持ちながらバンザイをしていて、そのシルエットが映し出される。ここまで来たという自信、ここまでやったという達成感が、スティーヴンの両手を突き上げさせるのか。そして始まったのは、大阪ドームではカウントダウンのため途中で打ち切られてしまった『The Train Kept A Rollin'』だ。言わずと知れたヤードバーズの曲で、エアロもセカンドアルバムにてカバーしているロックの古典的名曲である。ブルースがかった古臭さを漂わせながらも、この曲のイントロが響いた瞬間に全身に電流がほとばしるような感覚を覚えてしまう。


 そして『Sweet Emotion』へ。ああ、もう終わりだな、終わっちゃうんだな、という、妙にたそがれた気持ちが私を襲う。そして、注目すべきはこの曲のラストだ。98年のときは『Dazed And Confused』のフレーズが飛び出した。今回のツアーの大阪2公演では『Heartbreaker』だったという。だけど、私はこの結末に釈然としていなかった。エアロほどの実力と実績があるならば、なんでライヴのラストをツェッペリンで締めくくらなくっちゃならないんだ、って。リスペクトなのか。それとも遊び心なのか。でも、私はエアロがツェッペリンより格下であることを自ら認めてしまっている行為に取れてならなかった。自らのオリジナルで勝負してほしいのだ。さて、果たしてどうなるか?


 曲がほとんど終わり、例によってジョー・ペリーが機材ににじり寄る。ああまたか、という不安(と思っているのは私ぐらいかもしれないが)がよぎる。だけど、それは単なる思わせぶりでしかなかった。そこから放たれたのは、実はこれもセカンドアルバムに収録されている『S.O.S.』だったのだ!嬉しい、というよりはなんだかほっとした。もういい加減、ラストにツェッペリンというスタイルからは脱却してほしかったのだ。よかった。





























 ドームが揺れた。5万人が叫んだ。暑い、そして熱いライヴだった。98年の来日と今回の間には、ライヴアルバム『A Little South Of Sanity』の発表と『I Don't Want To Miss A Thing』の大ヒットがあったぐらいで、私は今回のツアーに対するテーマを見つけられず、よって当初は見送るスタンスでいた。だけど、そこはさすがにエアロなのだ。この日のドームには、2年前から更に密度の濃くなったパフォーマンスがあった。ここに来ていまだ成長を遂げ前進を続けるメンバー5人の姿があったのだ。




(2000.1.10.)































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