Eric Clapton 99.11.27:日本武道館

時間に余裕を持ちすぎて、午後3時半に武道館の駐車場に到着する。それでも客層が高いことが関係してか駐車場は既に7割方埋まっている状態。早々にグッズを買い、近くのレストランで軽食しながら時間が経つのを待つ。ジェフ・ベックのときは、ああいよいよ観れるんだ、というこみ上げるものがあったが、さすがにクラプトンだとリラックスできる。個人的にはジョージ・ハリスンと組んでの来日公演を含め、実に6度目となるからだ。





 5時15分頃に客電が落ちる。なんと、御大が真っ先に登場。白のシャツにジーンズという、とてもステージ衣装とは思えないラフな格好だ。今やトレードマークのひとつとなりつつあるメガネもかけている。その後にバンドメンバーがついてぞろぞろと姿を見せる。ステージ後方にはかなりのスペースが。メンバーがそれぞれの位置につき、もちろんフロントにはクラプトンが。まずは小手調べとばかりに滑らかなギターソロをサワリで披露し、そしてアルバム『Pilgrim』のトップでもある『My Father's Eyes』で幕が切って落とされる。ブルーのスポットライトがステージを照らす。


 哀愁を帯びた歌声。そして歌いながらのけぞるその姿に、クラプトンの波乱万丈の生きざま、それを経て今に至っているさまがオーバーラップしてくる。クラプトンは、ここ武道館でもう100回以上もライヴを演っている。ほぼ2年に1度の来日公演。クラプトンにとっての武道館とは、自分の立ち位置を確かめるための道標ではないのか。





 続いては『Pilgrim』『River Of Tears』と、アルバム『Pilgrim』からの曲が演奏される。90'sは多くのベテランアーティストにとって原点回帰の年代であったと思う。かのボブ・ディランも全曲アコースティック、全曲トラッドのカバーアルバムを作り、それらを経て大傑作『Time Out Of Mind』を産み落とした。かたやクラプトン。『Unplugged』にて一大アコースティックブームを巻き起こし、プラス自己のスタイルの中にブルースを取りこむことに完全に成功。次作『From The Cradle』では全曲ブルースを打ち出し、ブルースオンリーのツアーも敢行。『Unplugged』は多くの賞と栄誉をもたらし、『From The Cradle』は長年クラプトンが引きずっていたブルース・コンプレックスに落とし前をつけることとなったはずだ。


 こうした流れを経て98年4月に発表された、オリジナルとしては実に9年ぶりになる『Pilgrim』。60'sや70'sに輩出された傑作アルバムと同レベルのところにおいて、80'sの終わりには『Journeyman』があったように、90'sのクラプトンには『Pilgrim』がある、と私は思っている。もちろん、クラプトンはここにくるまでに何度もピークを迎えた人だ。何度も輝いた人だ。傑作をいくつも生み出した人だ。だけど、クラプトンはそれらの余勢で生き延びている人ではない。アクセルから足を離してスローダウンしている人ではない。このアルバムがどうして『Unplugged』ほどに売れなかったのか、どうして『From The Cradle』ほどに話題にされなかったのか、不思議でならない。


 哀感溢れる、そして精魂込めたかのような力強いヴォーカルが冴え渡る。そして、恐らく何度となく形容されてきたであろう"泣きのギター"が要所要所で炸裂する。ステージ上には再びブルーのスポットライトが無数に当てられ、ギターの神様と呼ばれ続けてきたひとりのオトコを映し出している。自分は神様でもなんでもない。みんなと同じように笑い、苦悩し、涙するちっぽけな存在でしかないんだ、とでも訴えているのか。『River Of Tears』は、この日のライヴの最初の沸点であった。





 クラプトンの日本公演は概して長期に渡ることが多い。そしてこの日の公演は、地方を一通り回って来た後での東京6日目に当たる。よって、それまでの公演がどのような内容であったか、という情報も結構溢れている(特にネット上では)。私の頭の中にはセットリストがほぼインプットされていた。序盤はアルバム『Pilgrim』からの曲が中心であり、そしてマディ・ウォーターズでおなじみのブルースナンバー『Hootie Coochie Man』となるはずなのだが、この日はなんと『Hootie Coochie ~』が演奏されなかった。まさかトータルの曲数がまたも減らされてしまうのか。私の不安をよそに、そのままアコースティックセットに突入してしまう。まずはほのぼのとしたたたずまいの『Rambling On My Mind』。そして『Tears In Heaven』へ。これは90'sクラプトンの顔的な曲で、最早ライヴでははずせない曲だろう。がしかし、飛び道具はこの次に待っていた。


 おぼろげなイントロが徐々にクリアになってくる。なんと、これは『Before You Accuse Me』ではないか!日本ツアー序盤ではアンコールを飾っていた曲なのだが、日程を重ねるうちにアンコール曲は『Sunshine Of Your Love』に取って変わられ、この曲は演奏されなくなっていた。もちろんツアー初だが、もしかしたらMTVアンプラグド出演以来のアコースティック演奏に当たるかもしれない。これはめちゃめちゃ貴重だ!よっしゃ、これで『Hootie Coochie ~』を削ったのは帳消しにしたる(笑)。


 というか、もともとクラプトンはツアーのセットリストが決まっている人のはずなのに。今回のツアーは日程を重ねるうちに曲が変わったり、曲順が入れ替わったりしている。こんなことは今までにはほとんどなかったことのはずだ。97年の公演時には、1度だけディレクTV撮りの日があってそのときだけ『White Room』が演奏されたことはあったけど。クラプトンの今年の主だった活動は、6月にマジソンスクエアガーデンで行われたベネフィットコンサートと、今回の日本公演だけである。つまりこのツアーは日本限定ということだ。この場に足を運んだ人たちは、ここが日本であること、クラプトンが親日家であることに感謝しなくてはなるまい。


 続いては『Bell Bottom Blues』。大傑作2枚組アルバム『いとしのレイラ』のトップに収められている曲で、ある意味今回のツアーの目玉だ。『Before ~』でサービスしてくれた替わりにこの曲はカットされてしまうのでは、という不安が私の頭をよぎったのだが、それは杞憂に終わった。恐らく多くの人がそうであるように、私もまたクラプトンの全てのアルバムから1枚選べと言われれば『いとしのレイラ』を挙げるだろう。だけど、その理由は悲痛な叫びの表題曲が収録されているからだけではない。表題曲以外にもこのアルバムが数々の名曲を収録しており、とても2枚組とは思えないほど密度の濃い作品だからなのだ。クリーム~デレク&ドミノス時代がその活動の最盛期にあると私は思うのだが、『Bell Bottom Blues』はその扉のような位置付けにも思える。目に染みる。耳に染みる。胸に染みる。心に染みる。





 ポール・マッカートニーの怒涛のビートルズメドレーのように、ローリング・ストーンズの電撃の代表曲攻撃のように、後半は往年の名曲群がこれでもかこれでもかと畳みかけられる。コレ演って世界中で盛り上がらないトコロなんてないでしょ、当然でしょ、という感じである。本編ラストは"エレクトリック"『Layla』。ロック史上最も劇的な瞬間の一角を形作る、この永遠不滅のギターイントロによって場内は総立ちに。"キミの前にひざまづきたい"なんて、こんなこっ恥ずかしい詞をよくもつけたなとも思うが、しかしこれほどまでに情熱溢れる歌が他にどれだけあろうか。そして曲の後半はピアノの音色に移行する。前半は激しく荒れ狂い、そして後半は優しい音色に癒される。CDで何度聴いたかわからない。そして、ナマでも既に何度も観て聴いている。しかし、この曲が持ち合わせているドラマ性の前に、またもや私は打ちのめされるのだ。


 そしてアンコールは『Sunshine Of Your Love』。gのアンディ、bのネーサン・イーストとでvoを歌いつなぎ、なんだかお祭り騒ぎの様相を見せる。全てが終了し、割れんばかりの大拍手に包まれる中、メンバー全員と肩を組んで客席に向かってお礼するクラプトン。これが私にとって今世紀最後のクラプトンのライヴとなるのか。





























 90年のジャーニーマンツアー、私はクラプトンを初めて観た。『I Shot The Sheriff』から『White Room』への繋ぎに狂喜し、『Bad Love』を一緒に歌った。

 91年のジョージ・ハリスンのサポートでの来日は、15年ぶりのライヴで今ひとつ乗り切れないジョージをうまくフォローし、『While My Guitar Gently Weeps』での両雄並び立つ姿に全身震え上がった。

 93年、『Unplugged』世界的大ヒットを受けての日本限定ツアーは、前半のブルースナンバーに眠くなりながらも、ジミヘン『Stone Free』のカバーにニヤリとした。

 95年のブルースツアー、クラプトンのミュージシャンとしての根幹に近い部分を垣間見たような気がした。『Have You Ever Loved A Woman』『Crossroad』のこってこてブルースバージョンに唸らされた。

 97年、これ以上何があるのかという期待と不安で臨んだが、既に半分出来あがっていた『Pilgrim』からの数曲が披露され、また私が観に行ったときは『White Room』が炸裂し場内は弾け飛んだ。

 99年、今回はワーナー時代を総括するベスト盤に伴うツアーだが、新旧バランスの取れた味わいのある内容だったように思う。90's、私は数多くのクラプトンのライヴに足を運んだが、同じように2000年代に突入しても、クラプトンの歩みに注目し、彼の姿を追いかけることになると思う。




(99.11.28.)































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