Mick Taylor 99.10.23:Club Quattro

整理番号の早かった私は開場してすぐに中に入り、数少ないカウンター席を狙う。だけど、半分以上の席に「Reserved」の札が。関係者用ということなのか。それでもなんとか、バーカウンターの前のところを確保できてほっとする。その関係者席にはハウンド・ドッグの鮫島秀樹の姿もあった。他にもきっと、ストーンズがらみの音楽評論家とか芸能人とかがいるのだろう。開演時間が近づくにつれ、徐々に場内のスペースは人で埋まってくる。"元ストーンズ"の金看板があるとはいえ、正直こんなに人が集まるとは意外であった。もちろん客層は高く、中年女性の2人組や、皮ジャンにリーゼント頭というイカした(死語)オジさんの姿もある。





 ほぼ定刻に客電が落ち、バンドメンバーが顔を見せる。ピアノにds、そしてサポートのギタリスト。bはなんと日本人だ。この人はクマ原田というイギリスを拠点に活動しているミュージシャンで、ミック・テイラーとも親交の深いらしい。そして最後に御大がゆっくりと姿を見せ、歓声が一段と高くなる。あの70'sのストーンズ在籍時のヴィジュアルなイメージがどうしても印象として強いが、現在の当人はがっちりした体格になっている。


 ライヴは『Secret Affair』でスタート。ストーンズ脱退後のミック・テイラーは'79年にソロアルバムを発表したが、主な活動はセッション・ミュージシャンとしてであった。それが昨年、突然思い出したようにスタジオレコーディングとしては2枚目となる『A Stones' Throw』を発表。この曲はそのトップとして収録されている。しかし私は、ライヴ4日前に慌ててこのアルバムを買って聴き込んだクチで、それまでミック・テイラーが"歌う"ことを知らなかった不届き者である。


 この歌が、実は結構うまい。ボブ・ディランやエリック・クラプトン、あるいはマーク・ノップラーを思わせるシブ~い声だ。そして曲の後半はギターソロとなる。クアトロという狭い会場、そしてミック・テイラーにピンスポットが当たっていることで、魔法のような指の動きを物凄くクリアに見て取ることができる。演奏が終わり、思わず歓喜の声が場内から漏れる。本人も機嫌が良さそうな様子である。


 続いての『Twisted Sister』も同じく新作収録の渋い曲だ。アルバム『A Stones' Throw』は、どの曲も5分から8分と長めだが、実際聴き込んでみるとその倍以上の時間のように錯覚してしまう。もちろんどの曲でもギターソロが炸裂していて、ひとつの曲の中にドラマというのか、物語性のようなずしりとした重みを感じることができるのだ。ライヴではその物語性が一層色濃くなってきていて、まるで食べても食べても厚手のステーキがテーブルに差し出されてくるようで満腹感でいっぱいである。私の座っているところの左ななめ後方では、酔っ払った山本晋也似の外人がノリにノッてひとりで踊りまくっている(笑)。





 4曲演奏した後バンドメンバーを紹介し、そして自ら曲名を告げて始まった曲は『You Shook Me』だ。もちろんレッド・ツェッペリンで有名な曲だが、開演前にはオリジナルのマディ・ウォーターズのバージョンが流れており、また'95年発表のコンピ盤『Coastin Home』に収録されているのを私はつき止めていたので、ライヴでは必ず演ると思っていた。もちろん場内も一段と湧く。だけど、演奏自体は今ひとつだったかな。というか、比べてはいけないとは思いつつも、ツェッペリンの大胆かつパワフルなアレンジが頭をよぎってしまい、つい物足りなくなってしまったのだ。


 ノンヴォーカルのジャムセッション。序盤はミック・テイラーのギターをフィーチャーしつつも、バンドトータルとしてのコンビネーションが浮き彫りになるようなプレイだ。そしてメンバーひとりひとりのソロ合戦となる。各人がそれぞれに妙技を披露した後、ミック・テイラーが改めてそのメンバーを私たちに紹介する。個人的にはピアノのソロパートのところにシビれた。


 大仰なイントロ。やけに引っ張るが、徐々にミック・テイラーのギターワークにサウンドが集約されつつある。そして聴き覚えのあるギターリフへ。そう、『You Gotta Move』だ!しかし、この曲も『Coastin Home』に収録されていて、彼のツアーでは定番と化している曲である。もちろんストーンズのバージョンに比べてギターワークが随所に光り、ブルージーなアレンジに仕上がっている。


 本編ラストは新作のラスト(ボーナストラックを除く)でもある『Blind Willy Mctell』。ボブ・ディランのカバーであり、ディランのアルバム『Infidels』時にレコーディングされていながらそのときはオクラ入りとなり、後に『Bootleg Series』にて日の目を見た佳曲だ。序盤はピアノの鍵盤を叩く優しい音色で彩られ、やがてギアチェンジしてシブい歌声が冴え渡る。間奏では『Layla/愛しのレイラ』のリフもチラリ(私が気がつかなかっただけで、この日のライヴ、恐らくはこの他にも随所に他の曲のリフが散りばめられていたはず)。後半は、いつ終わるとも知れぬような延々たるギターソロで、まさにギターを生業にしている男の面目躍如といったところか。この曲は新作のカラーがそのまま凝縮されたようにも思え、収録されている中でも私が最も気に入った曲だ。





 お礼のことば、そして翌日も公演があることを告げてステージを去るミック・テイラー。ここまででもう満腹状態だったし、アンコールなしでこのまま終わってしまうのでは、いや、アンコールなんかなくても充分すぎるほどのライヴだったのでは、と私は感じていた。しかしメンバー再度登場。ほんとかい(嬉)。


 アンコールはまたもやお馴染みの曲。『Little Red Looster』である。スライドギターの音色が心に染みる。そのままメドレーで『Can't You Hear Me Knocking』のインストバージョンへ。不覚にも、私はライヴ中は、ああこの曲『Sticky Fingers』で『Wild Horses』の次に収録されている曲だ、という記憶しかなく、すっかり不意打ちを食らった状態になってしまった。ラストのソロはまさに圧巻。年を取ったことに甘えてしまうこともなく、もっぱら"技"を主体にして勝負してくるミック・テイラー。この人は立派だ。





 私は自分で楽器は弾かないのだが、もしギターを弾く人がこの日のライヴを見ていれば、涙や鼻水やヨダレや、それこそ体中の体液が総タレ流しになるくらいの密度の濃い内容だったと思う。それこそ毎年のように来日して、ブルーノートかSweet Basil辺りで1週間連続でライヴをやってしてくれてもいいのでは、なんてことを考えたりもしたくなる。




(99.10.24.)































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