thee michelle gun elephant 99.7.18:Zepp Tokyo

柵はなかった。クーラのときは、1階フロアはステージに平行にAからFまできっちりブロック分けされ、その境目には地面に埋め込まれたような柵があった。入場のチェックも厳しかった。だけど、今回はその柵は外され、赤坂Blitzのように黒い手すりが数カ所に配置されているだけで、ブロック毎に区切るようなこともしていなかった。これで今日の中止はなくなるな、とほっと胸をなでおろす。もっとも、今回も私は2階席なのだけど。


 開演時刻を10分ほど過ぎた頃だろうか、客電が落ちる。いよいよである。フロアの方はいっせいに前の方に人が押し寄せる。私のいる2階席もほとんどの人が立つ。私も立った。なんか座って観てるのが勿体なかったのだ。私は幸運にも2階席最前列ほぼ正面の席だったので、前方の手すりにへばりついて以後暴れることとなる。Blitzであれば係員が来て手すりから離れるように言うところだが、ここZeppではそれはなかった。それともミッシェルだから?





 西部劇のテーマのようなBGMが流れる中(正確な曲名ご存知の方教えて下さい)、メンバーが1人ずつ入場する。クハラはウド鈴木のような髪型(あるいはモヒカンか?)。アベは金髪。私の中の彼らに対するビジュアルのイメージといえば、昨年のフジロックやアルバム『ギヤ・ブルーズ』のジャケだったので、この変貌ぶりに少し面食らう。ウエノだけがそれと変わらぬいでたち。そして最後に登場したチバは、白いスーツに髪はオールバック。この風貌をヤクザと呼ばずして何と呼ぶ。


 オープニングは犬ミチ・・・というか『Dog Way』。ステージ上が薄暗いのが少し残念だが、しかしそんなこともどうでもよくなってしまうくらいに、凄い。バンドのテンションが。そしてオーディエンスの熱狂ぶりが。こんなに大勢でモッシュできるのか、というくらいに1階フロアは頭、頭、頭が揺れている。上から見ているとそれがよくわかる。しかしgとbの音量が大きすぎて音割れしている。そしてこの轟音が私の両耳に突き刺さる。1曲目から耳鳴りしてるぜ、おい(そして耳鳴りは次の日いっぱいまで続いた)。


 そしてそしてそして、2曲目で早くも『G.W.D.』だ!!!昨年のフジロック以来、私の中ではミッシェル=『G.W.D.』という図式が勝手に確立されてしまった。そう、あれからちょうど1年になる。あの暑かった、そして熱かった夏の日。照りつける日差しの中、連中は黒スーツに黒グラサンで登場。『Cisco』でカマした後、当時はまだシングルカット前だったこの曲をブン投げてきた。オーディエンスは狂乱し、ステージ前方は危険地帯と化した。演奏はイントロだけで中断し、そしてやりなおしせざるをえなかった。チバが「おまえらがロックンロールを好きな気持ちはわかる」と言い放った、あの瞬間だ。フジロック98で真に伝説として語り継がれるべきパフォーマンスは、初日ホワイトのトリだったイギー・ポップと、このミッシェルだけだったろうと私は決めつけている。とにかく、この曲を聴けただけでもう満腹状態。もう帰ってもいいくらいだ(もちろん帰りませんよ/笑)。


 『Soul Warp』『あんたのどれいのままでいい』と、ここまで4曲立て続けに疾走し、その後メンバーはgを交換したり、ミネラルを口にしたり、なんか後ろ向きになってもそもそしたりしている。と、「久しぶりの東京です。ミッシェル・ガン・エレファントです~」というクハラのMC。上着を脱ぎ、既に汗だくでシャツがべったり体に貼り付いているチバはひとこと「元気だった?」とボソッ。そして、「お・き・あ・が・れ、ルーシーーーーー」!!イントロのgのリフのカッティングが耳に残る。サビは当然のこと大合唱となり、アベ&ウエノとチバの掛け合いも完璧である。


 もちろん1階フロアで押し合いへし合いされ、もみくちゃにされている人たちの比ではないのだが、私のいるところも暑い。暑くて汗ばんでくる。Blitzでのライヴなども通して考えてみても、2階席がこうまで暑くて蒸してるのは異常だ。というか記憶にない。いちおう冷房が効いているのだが、それが熱気に押し殺されているのだ。恐るべしミッシェル。ウエノのアクションがめちゃめちゃカッコいい。ここまで暴れるベーシストも珍しい。対してアベはほとんど動かない。チバは曲によってはロカビリー調のダンスを披露している。





 私自身は遅れてきたファンもいいところなので、アルバムを聴いたり友人からいただいたライヴビデオを観る以外はフジロックでの体験がそのほとんどを占め、私の中のミッシェルに対する観方を決定づけている。フジロックのときも、そして今年1月に敢行した横蟻でのオールスタンディングもきっとそうだろう。あれはやはりより多くの、というか最大公約数的に支持されるためのパフォーマンスだったのであり、その後再びハコをライヴハウスに戻して敢行しているWorld Gear Blues Tourは、それまでのバンドのあり方に戻った、というか本来のミッシェルの姿が観れるものと私は思っていた。Zepp Tokyoは今年3月に出来たばかりの最新ライヴハウスではあるが、今こうしてここで観ているパフォーマンスは、消炎のようなきな臭い匂いを、ギラギラした、どこか危ない、そして今であって今でない、そんな雰囲気を私は感じている。


 ミッシェルって、4~6曲ぐらいやってその後間を取るバンドなのね。ここでまたまたワンクッション。チバとウエノは煙草をふかす(Zepp Tokyoは禁煙ではない?)。続いては「お台場海浜公園皆殺しのブル~~~~ス」と言い放って『Killer Beach』。続いて『Brian Down』へ。ほとんど『Gear Blues』から入った私としては、やはりこのアルバムこそがミッシェルの臨界点のように感じられ、過去のアルバムの曲群に比べて一段上の高みに上り詰めているように受け取れる。この2曲もそうだが、見えない手がぐいと引っ張ってバンドもオーディエンスも会場も何もかも違うところに誘っているように思うのだ。そして、今回のツアーでは新曲も披露している。「ラプソディー~♪」を連呼している、恐らく『Rhapsody』という曲を演っていたが、新機軸といった趣は感じられず、『Gear Blues』の延長線上といった感じに取れた。対して『Young Jagger』の方は次期シングルに抜擢されてもいいくらいのクォリティの高さである。『Gear Blues』での成功がプレッシャーとなり、次作を無事に捻出できるのだろうか、大丈夫だろうかという不安は少し気が早すぎる心配なのかもしれない。そして、その感触はもしかしたら『Chicken Zombies』が発表されたときにも感じられたことなのかもしれないのだから。





 『Hi! China!』は、ステージがいよいよ終盤に差し掛かったことを予感させる(個人的に好きな曲ではありません。ごめんなさい)。そして『Satanic Boom Boom Head』。この曲はある意味私が『G.W.D.』の次に楽しみにしていた曲だ。ただひたすら「サタニックブンブンヘェーッド」を連呼するだけで、アルバムのインナースリーブには歌詞がオミットされてるばかりか、何も触れられていない(笑)。曲はスロー目に始まり、徐々にアップテンポに変わっていく。ペットボトルの水を周囲にふりかけ、ボトルが空になるとひょいっとブン投げる光景が乱発。


 『Free Devil Jam』でギアがまたひとつ上のポジションに入ったような感じになる。今まで薄暗かったステージもばっと明るくなり、メンバーの動きや表情が一層クリアに見える。今回のツアー、ドクロがキャラクターというかシンボルマークのようになっていて、Tシャツにも、そしてステージ後方にもドクロがあしらわれているが、それってもしかしてこの曲で連呼されている"ズガイコツ"から来てるのかな?とかふと思った。そして本編ラストは『Smokin' Billy』!!「愛と!言う!ぞう(憎悪)!イェ~~~~イ~~~~」ではオーディエンスから両手が差し伸べられ、そして絶叫大会と化す。





 アンコールを求める声は、意外にも小さかった。???・・・。というか、フロアの人たちの多くは酸欠状態に陥っているらしく、結構な人数が外に溢れ出す。あらら。しかし徐々に拍手のボリュームも大きくなり、それに答えるようにメンバー再登場。外で休んでいた人たちも慌ててフロアに戻ってくる。『Baby,Please Go Home』は性急に、そして『Jenny』がロングバージョンに生まれ変わってどっしりとブチかまされる。アベのギターソロ、美しかった。


 2度目のアンコールでは、チバは白いTシャツに着替えていた。ヤクザ転じて気のいいあんちゃんみたいだ(笑)。そして、これ演らなきゃ収まらんだろうという『Cisco』でガツン!くどいようだがフジロック98の衝撃がよみがえってくる。そして、ほんとうに最後の曲となったのは、『The Birdmen』・・・ではなく、なんと『リリィ』だった。今回のツアー、セットリストはほとんど『Gear Blues』『Chicken Zombies』からが中心であり、初期の曲は限定された範囲でしか演奏されてこなかった。思いもかけぬプレゼントである。どのバンドにも通ずることなのかもしれないが、キャリアを重ね、成功を収めていくに従い、初期の頃の荒々しさというか、がむしゃらさというのか、いい意味でのダサさというのが、徐々に洗練されてそぎ落とされていってしまうと感じることがある。もちろんいつまでも初期衝動を持続することはできないし、バンドが少しずつステップアップしてメジャーにのし上がることは否定すべきことでもないと思う。ミッシェルは、ここまでのバンドの背景、今現在のバンドの置かれている状況。そして未来。これらをひとつに結ぶ1本の糸としてこの曲をラストに選んだのではないか。





 昨年のフジロックからもうすぐ1年がたち、そしてそのフジロックは会場を苗場に移して今年も開催される。その一方で、フジロックに触発されたフェスティバルが各地でも開催される。富士急ハイランドで、札幌は石狩湾新港で、関西は南港コスモスクエアで。そして、フジロックを除くその全てにミッシェルは出演を果たす。今まで洋楽ファンが洋楽にしか求められなかったグルーヴ感というのか、スピリットというのか、そういったものを体現できる日本のロックバンドがここに来て一気に名乗りを上げた感がある。私がミッシェルに惹かれ、ミッシェルを聴くようになり、こうしてミッシェルのライヴに足を運ぶようになったのもそういった理由からだと思うのだ。この夏は、かつてないほどに日本が熱くなりそうである。




(99.7.20.)
















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