Alanis Morissette 99.4.18:神奈川県民ホール

取ったチケットが3階席と知ったときにはああ遠いなあと落胆したものだが、実際席に着いてみると結構ステージとの距離感を感じない。先週渋公の2階で観たベックと同じ感覚だ。今日はアラニスの2年半ぶりの日本公演の初日なのだが、リハーサルが長引いたとかで開場がおした。大丈夫だろうか。





 で結局開演も約30分遅れ、午後6時半過ぎに客電が落ちる。何やらエスニックなイントロ。その中をバンドメンバーがぞろぞろと登場する。b、ds、key、そしてgは2人。そして最後に勢いよくアラニスが小走りで登場。髪は三つ編み。ブラウンのタンクトップには花の刺繍が見える。セカンドアルバム『Supposed ~』からの『BABA』でスタート。今回のツアー、ほとんどがこの曲で始まっている。ステージ上、dsもkeyもやたら後方に配置され、bはdsの隣に、2人のgは両端に。やたらステージ上に空間ができている。そして、その中をアラニスが歌いながら歩く歩く。右に。左に。ちょっと落ち着きないようにも取れる。


 続いては『Would Not Come』。ステージのバックに映像が映し出される。会場の音はそれほど悪くはなく、というかむしろとてもクリアに聞こえて意外。曲の方は『Joining You』と、セカンドからの曲が続くのだが、周囲が興奮しているのをよそに、私は首をかしげたくなった。



弱いのだ。


アラニスのヴォーカルが。歌声が。


 1曲終わる毎に必ずミネラルを口にするアラニス。体調、そしてノドの調子がベストではないのではないだろうか。特に高い音がぜんぜん出ていない。そればかりか、バンドとのコンビネーションも心なしかチグハグに見える。なんかリハが延びたのもうなずけるように思えてきた。それとも、私が期待しすぎているのだろうか。アラニスの持つパワー、アラニスが備えているポテンシャル、まだまだこんなものではないはずなのに、と。


 それともう1つ。セカンド『Supposed Former Infatuation Junkie』からの曲のライヴでの構築だが、私が期待したほどに仕上げられていない。どこかすかすかで、なんか中途半端だ。『Jagged ~』があまりにも売れすぎてしまったことはアラニス自身にとって重い十字架になったはずである。しかし、それを克服してのこのセカンドの発表。私は今現在のアラニスの姿として、とっても楽しみにしていたのだ。だけど、この感じではCDで聴いてる方がいいかなあと思ってしまう。


 そしてこれも予想できたことだが、『Jagged Little Pill』からの曲に対するオーディエンスのリアクションが段違いにいい。放っておいても勝手に盛り上がっている感じだ。『Hand In My Pocket』の、『Perfect』の、『Forgiven』の、それぞれイントロが響いただけで凄い騒ぎになってしまう。『You Learn』では最後にぐるぐると回るアラニス。回り、回り、目を回してしまったのかふらふらになって足がもつれて倒れてしまう。また立ち上がり再び回る。この立ち回りに一層場内のヴォルテージが上がる。セカンドからの曲との格差がますます広がってしまうように感じる。





 確かに『Jagged Little Pill』は売れまくった。驚異的にバカ売れした。90'sを代表するアルバムは、もしかしたら『Nevermind』でも『Odelay』でもなく、このアルバムなのかもしれない。どの曲もコマーシャルでありながらなおかつスピリチュアルでもあり、そのぎりぎりのバランスが素晴らしい。がしかし、『Supposed Former Infatuation Junkie』だって決してひけはとっていないと私は思う。というか、むしろシンガーとして、表現者としての成長というのか、そんなのが感じ取れていて好感を持っている。個々の曲も決して『Jagged ~』の収録曲に劣っていないと思うのだが。


 ・・・という私の想いをよそに、ステージはどんどん進んでいく。『All I Really Want』は、いよいよクライマックスが近づいていることを予感させる。上昇感に溢れた印象を受ける。さすがにこの辺りにまでなると、序盤もの凄く気になった声の途切れもなくなってきた。よかった。なんかほっとした。


 今まで右に左にアクティヴに動いていたのがぴたりと足が止まり、ステージ右端で不動となる。抑えたdsともこもこしたbとわずかなkeyの音色の中、テンポもスローにしっとりめに『You Oughta Know』が始まる。そのまま2コーラス歌う。その後ギアチェンジしてフルバンドでの演奏になる。


 ああ、やっぱりこう来たかと正直思ってしまった。ここがライヴのいちばんのハイライトのはずなのに。ストレートに熱唱せず、この抑えた感じ。ニルヴァーナのヴィデオ『Live! Tonight! Sold Out!』での『Smells Like Teens Spirit』にも通ずるような、観る側のこの曲に対する過剰な思い入れをはぐらかしたスタイル。個人的にはレコードと同様にストレートにシャウトして欲しかった。アラニス自身にとってこの曲は呪縛であり、重荷であるのかもしれない。この曲とストレートに向き合うのはアラニス自身にとってまだまだ時間が必要のようだ。


 そしてkeyとアラニスだけを残して他のメンバーがステージから消える。keyの優しい音色が響く中、アラニスはしゃがんでその方をずっと見ている。しばらくソロが続いた後、フロントに立って映画「シティ・オブ・エンジェルス」に提供された曲『Uninvited』を歌い始める。バンドメンバーも帰還だ。優しい音色。優しい歌声。静まるエモーション。ここで本編が終了する。





 ほとんどインターヴァルをおかずにバンドメンバーが再登場。そして小走りに戻ってくるアラニス。「ドウモアリガトウ」と挨拶し、メンバーを紹介。そしてkeyのイントロにもう場内がざわめく。『Thank U』である。『You Oughta Know』に比肩する、シンガーアラニスの魅力が最大限に発揮された曲だ。そして話題になったあのPV。『You Oughta Know』はパーソナルなイメージに受け取れるが、『Thank U』はより多くの人、いやもしかしたら全ての人に対する叫びであり、訴えなのかもしれない。


 結局、この後は『Ironic』を切々と歌い上げ、そして2度目のアンコールで『Wake Up』『Not The Doctor』を披露して何か荘厳なる雰囲気を漂わせながら幕を閉じた。結構なヴォリュームだったように思う。





 トータルとしてはかなり充実し、会場に足を運んだ人のほとんどが満たされて家路についたはずなのだが、私自身の期待が大きすぎてしまったのか、そしてアラニス自身の調子自体が完全でなかった(ように見えた)こともあってか、個人的には今ひとつだった。特に序盤を見た感じでは、こんな状態で果たして1週間後に武道館で1万のオーディエンスを向こうにまわしてやっていけるのだろうか、という不安に襲われてしまったくらいだ。がしかし、まだ日本公演初日であり、この後各地で公演を重ねていくうちにアラニス自身も徐々に調子を上げてくるものと信じている。


 なお、蛇足だが今回のアラニスのツアー、全米ではオープニングにリズ・フェアやガービッジを起用している。リズ・フェアは私が来日を待ち望んでいるアーティストの1人であり、ガービッジの底力はフジロック98で実証済みである。日本ではほとんど実現しそうにない組み合わせだが、女性ミュージシャンを立て続けに見る、といったこともいつかは体験してみたいと思う。




(99.4.21.)
















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